美少年と半裸と私
ブクマありがとうございます^^
モフモフ言わせ過ぎてますが宜しくお願いします
「…ぃ」
「…おぃ、しっかりしろ」
ルイド君の声にハッとして顔を上げた。ルイド君の金色の瞳が私を見ていた。
「あいつらはもういない…」
ルイド君に言われて周りを見ると、確かにあの男達はいなくなっていた…怖かった。
「あいつら…何だ?神の加護って何だ?」
ルイド君も気になるよね…これをルイド君に教えるとルイド君にも危険が及ぶかも…でも隠していることでもないし…
「取り敢えず…家に戻ろうか~怖かったねぇ…いつもは警戒して夜は出ないように気を付けてるんだけど…」
怖いけど、なんとか笑い飛ばそうとして軽い口調でそう言うと、ルイド君の金色の瞳が眇められた。
「いつから狙われているんだ?」
「……」
だんまりで通そうとしたけど、ルイド君が鼻先で私の肩口をトンとついてきた。早く話せ…と急かされたようだ。
「20日くらい前…かな」
思い出しただけでも、怖くて震えがくる。自分でもよく無事に戻れたと思うけど…
「ん…でもこの話はお終い!帰ろうね」
私はルイド君のモフ毛に触れるとすぐに転移魔法を発動した。
家の中に転移すると、窓や玄関扉を急いで施錠して回った。手が震えているのをルイド君に悟られないように、素早く動いて回った。
「さあルイド君、もう夜も遅いから休んでね…明日朝一でお母さんに魔伝鳥を使ってルイド君の事を相談してみるからね」
ルイド君は無言で頷いた。私はルイド君専用の深めの皿に果実水を入れると、ルイド君の近くに置いた。ルイド君は敷布の上で何故か座ったまま、私を見ていた。目が怖い…人間風に言うと仁王立ちになってすごんでいる…という感じに見える。
私は作業室に逃げ込んだ。ルイド君、怒ってるのかな…
しかしとても眠ることは出来そうにないな…毛布を頭から被ると扉の前の床に座った。
どのくらいそうしていただろうか…
廊下にルイド君の魔質を感じた。ルイド君が扉を隔てて向こう側にいるようだ。
「お前…あいつらに何をされたんだ?」
扉の向こうからルイド君の声が聞こえた。そう別に隠すことじゃない…私の周りの皆は知っていることだ。ただ自分が情けなかった…ルイド君に何と言われて嘲笑われるかと思うと気分が沈む。
「私ね…薬術師をしているでしょう?薬をね…近くの村の雑貨店と王都にある両親の経営している魔道具店の店先に置かせてもらっているの…私の薬、治癒も早いし良く効くって評判なの。そうしたら、王都から見て欲しい患者がいるって言ってお使いの人が来たんだ。私、何も気にせずにその人に付いて行っちゃったの…後から考えたら不用心だなって思った…お父さんにも気を付けろ、てよく言われてたのに…」
「…うん」
ルイド君の小さい相槌が聞こえた。私は一息ついてから話を続けた。
「大きなお屋敷に着いて多分、貴族の子息だと思う、リース様って呼ばれてた人がいた…いきなりその人の前に連れて行かれて、診察しろと言われたの。顔色の優れない若い男性だった。すぐに治せ…って言われたけど、その男性の魔流はどす黒く濁っているし、体のあちこちに魔流瘤が出来て…魔力が巡っていないのが診えたの。正直に言うと死期が迫っていた。胸と背中に魔素が溜まってた…」
「内臓の病だな…症状聞くだけでもヤバイな…」
「うん…私はそのリース様から少し離れて、私を連れて来たおじさんに伝えたの。魔流癌が出来て私には治せません…って言ったらすぐに治せって怒鳴られて…無理ですって返したら腕を捩じ上げられて、また怒鳴られた。お前はどんな病も治す『神の魔力』を持っているのだろう!早く治せ…って言われて困惑した。私の神の魔力っていうのは、誰にでも適合する魔力っていうだけで、万能薬のような力は無い。薬を作った時に入れる魔力が誰にでもすぐに馴染んで効きやすいっていう利点だけなの」
「なるほどな…それで俺の魔力切れにもすぐに効いたのか…」
「そういうこと…拒絶反応が全く出ないっていうだけ…それを説明しても聞き入れてくれなかった。暫くおじさんと睨み合っていたけど、取り敢えずは解放してくれたの…でもすぐに治療薬を作れって言われたの…無理だって言ってもああやって押しかけて来て連れて行こうとして…3日と空けずに押しかけてくるようになっちゃって、最近では拉致?みたいになってきたの」
廊下からルイド君の大きな溜め息が聞こえた。
「万能薬か…確かにお前の魔力を入れられたら、体の魔力がすぐに正常に戻った。その力に万能の力があるんじゃないかと思っても不思議はないな」
すぐに魔力が戻ったの?あれ…?魔力切れの治療も少し前にしたことがあるけど、患者さんは一週間は魔力切れでフラフラしていたと思うけど…
……ああ、そうか、人狼が丈夫なのね、流石モフモフルイド君。
「それ親に相談したのか?」
「……」
「してないんだな?」
モフモフルイド君から鋭いツッコミが入る。またルイド君が大きな溜め息をついたのが聞こえた。
「明日、俺の件も含めて親に相談しろ…」
「はい…っは!」
ちょっといつの間に立場が逆転してるのよっ!?私がご主人様だぞぅ~モフっとモフモフのくせに~~!
私は一言言ってやろうと思い、勢いよく扉を開けて廊下に飛び出した。
作業室の扉の横の廊下の壁に凭れて……半裸の美少年が座っていた。
え……?濃紺色のサラサラの髪で金色の瞳の……人型ルイド君?
「……!」
「…っあ」
ルイド君(人型)は腰に敷布を巻いた状態で物凄い勢いで、寝室に逃げ込んだ。
半裸の美少年をバッチリと見てしまった。
「なんで出てくるんだよ!」
寝室から怒鳴るルイド君の声が聞こえる。何だか…すみません。半裸を覗こうなんてこれっぽっちも考えてなかったので…完全なる不可抗力です。
いやいや待てよ?そもそもさ~最初の出会いでほぼ全裸を見てるしさ~
私は寝室の扉の前に行くとルイド君に向けて叫んだ。
「もういいじゃない~最初の時に全裸のルイド君を散々見てる訳だし~」
寝室から更にルイド君の叫び声が飛んだ。
「みっ…見てんじゃねーよ!変態!」
へ…変態!?
何たるパワーワードだろうか?美少年から変態呼びされる私…
精神的ダメージを受けて、リビングに移動するとソファに座ってぼんやりとしていたら…窓に風が当たったのか、ガタッと鳴ってちょっと飛び上がってしまった。
そうだ…玄関扉ちゃんと閉めたかな…気になってきた。
「キィィ…」
ぎゃっ!何だ!?
急いで音がした方を見ると、静かに寝室の扉が開き…狼に戻ったルイド君がトテトテ…と歩いて来た。
そしてルイド君は私の座っているソファにフワリと飛び乗ってきて横に座った。
「……」
「今日……は一緒にいてやるよ…」
ル…ルイド君っ!?
私はキリリとした横顔のルイド君に抱き付いた。急に抱き付かれて驚いたのか、よろめくモフモフ君。
「ありがとうルイド君!さっき変態呼びしてきたのは忘れてあげるからっ!側に居てっ!」
ルイド君は毛を逆立てている。
「……ゴメン」
なに?なにぃ!?もしかして謝ったのぉ?あらら?小さい声だけど謝ってくれたのぉ?
ニンマリと笑いながらルイド君の毛並みに顔を埋める。温かい…何だか良い匂い。クンカクンカ…と匂いを嗅いでしまう。
「お前…匂い…嗅いでないか?」
「…っ!」
これでは益々変態ではないのっ!
「だってルイド君から良い匂いするんだもん!」
言い訳した所で変態臭さが増しただけだった…
「良い匂い…ね」
「そうなんだよぉ~微香を放つルイド君が悪いんだよ~」
と言いつつ…拒否されないのをいいことにクンカクンカしながら、ルイド君の毛並みを堪能した。そして恐ろしいことにそのまま爆睡してしまったようで、朝…顔に当たるモフモフ毛の感触で目が覚め…血の気が引いた。
ルイド君は正面を見据えたまま、ふっくりした質感?のまま彫像と化していた。
「ル…ルィ…」
「やっと起きたか…俺はひと眠りする…」
それだけ言うと、ルイド君はトテトテ…と寝室に戻って行った。あれ?自動ドアの如く、扉が自動で開いてますが…ああ魔法ですか?そうか、もう人型になれるくらいに魔力も回復しているみたいだものね。
一晩中ルイド君に抱き付いてしまった。あまりのモッフリの気持ち良さに天にも昇る心地だった…変態と破廉恥の合わせ技みたいな行為を美少年にしてしまったが…後悔はしていない。
そうだ、いつまでもモッフリの余韻に浸っている場合じゃない…急いで作業室に入ると手紙を書いて魔伝鳥に持たせると、届け先指定用にお母さんの魔力の籠った魔石を鳥のお尻の穴に突っ込んだ。
このお尻の穴に魔石を突っ込む仕掛けが趣味が悪くて嫌だよねぇ~これ誰が考えたんだよ~あら?うちのお父さんだった!お父さんの変態めっ!
「起動、配達先はローズエッタ=リコランティスです」
『起動します、配達先はローズエッタ=リコランティス、でお間違えないですね』
「はい」
魔伝鳥はフワリと飛び上がると、窓の外へ飛び出して行った。これでお母さんの魔力を追って行ってくれるから二、三日中には連絡が取れるはず…
それから私は今日納品する予定の、薬の箱詰め作業を開始した。
ルイド君はまだ眠っているみたいだ。一通り箱詰めが終わり、玄関先に運んでいると玄関ベルの鳴る音が聞こえた。
「はーい、お待ち下さい!」
薬問屋のバルカスさんだ。玄関を開けると、丸々としたバルカスさんが笑顔で立っていた。
「おはようございます、リレッタさん」
「おはようございます、バルカスさん」
バルカスさんにお茶を入れてお出ししながら、薬の納品を確認していく。
「はい、湿布薬に塗り薬…頭痛薬と…間違いないですね、毎度ありがとうございます」
私は受領書を受け取った。バルカスさんはお茶を一口飲んだ後に
「実はリレッタさんの石鹸、売れに売れてまして在庫とかありますか?」
と聞いてきたので、私は喜んでオレンジに似た香りの石鹸とルイド君に使った薬用石鹸を持ってきた。
「こちらが新作のゴローデの香りの石鹸です。そしてこれは肌の弱い方用の薬用石鹸なのですが、男性用の石鹸としてもいいかな~と思いまして」
私がそう説明するとバルカスさんは顔を輝かせた。
「おおっいいですね~これもご相談しようかと思っていたのですが、リレッタ石鹸を男性がお買い求めする方が多いと店員から報告が上がってきていまして…そろそろ男性向けの商品を作ってみては?とお伺いしようと思っていたんですよ!」
「良かった!香りもお茶の成分から抽出していまして、洗った後も良い匂いだし、使っても問題無いと言っていたので…」
「おや?お父様に使って頂いたのですか?」
ギクッ…いえ、年下の美少年に使いました…とは口が裂けても言えない。
あ、そうだ…ルイド君と言えば…
「すみません、バルカスさん。後で村に行くのですが男性もの…え~と若い男性向けの衣料店のお薦めはご存じないでしょうか?」
バルカスさんはキョトンとしている。
「若い…男性ですか?」
…っは!今まで絶賛おひとり様だったのに、ここへきて急に若いメンズ服を所望するような発言をしたら、怪しまれる!?
案の定、私が一瞬戸惑ったことを見逃すはずのないバルカスさんがニヤーッと嫌な笑いをしてきた。
「若い男性ねぇ…贈り物ですかぁ?」
「おく……贈り物です、はい。出来たら普段着を買いたいのですが」
バルカスさんは益々嫌な笑いをしてきた。
「ほぉ~リレッタさんがねぇ…いやいやリレッタさんはまだお若いし綺麗だからいつかは…と思ってましたがこんなに急にお嫁に行くなんて…」
「いっ!?お嫁なんて行きませんよ!何故いきなりお嫁なんですか!?」
「おや?若い男性が泊まりに来るから着替えを買われるのではないのですか?」
バルカスさんはズバリ言い当ててきたが、微妙に正解です。もうすでに泊まっています…
バルカスさんは嫌な笑いを浮かべたまま、数件のお店の名前をメモ紙に書いて渡してくれた。
「村ではこの一件、残りの店は王都のお店です。王都の方が品揃えが良いしお洒落ですよ」
なるほど、どこの世界も都会の方がお洒落で品数が多いのは共通なんだな。美少年ルイド君には是非流行の最先端の格好いいお洋服を着てもらいたいので、意を決して都会に行ってみてもいいな。
その為にはまずは奴隷印を何とかしなくちゃね…
私は取り寄せの依頼書をバルカスさんに渡し…今月の売上金を受け取り、領収書を書いて渡した。
バルカスさんはお茶を飲みながら、その若い男のことを聞き出そう~聞き出そうと粘っていたが、何とかお帰り頂けた。
「若くて細身の男性…という情報をあげてしまったけど、大丈夫よね?」
バルカスさんはうちの店『ローズの魔道具店』の支店と本店の以外にも他の魔術師関連の店、数件と取引があると聞いている。まさかよその店で「ローズの魔道具店の娘さんが~」とかの世間話なんてしない…よね?多分…
あ…ルイド君、起きているかな?
寝室に目を向けたら丁度寝室の扉が開いて、のっそりとルイド君が部屋から出て来た。
「お客さん帰ったよ、朝ごはん…もうお昼前だけど食べる?」
「うん…」
ルイド君はこっくりと頷いた。寝起きモフモフ可愛い…。
ミネストローネスープと塩パンを深皿に出して、敷布の上に座っているルイド君の前に置いた。
ゆっくりと食べているルイド君を見ながら、バルカスさんから聞いたお店の話をしてみた。
「ルイド君あのね、ルイド君の着る服を買いにまずは、この近くの村まで行かない?もし姿を見られるのがイヤとかなら、村の敷地ギリギリの所に居てくれたら、あの捕縛魔法が発動しないと思うんだけど」
ルイド君はチラッと私の顔を見て、また塩パンを口に入れながら返事をしてくれた。
「話は聞いてた…服は村で揃えてもらえるなら有難い…それに、もし王都に行くなら冒険者ギルドに寄って欲しい」
「冒険者ギルドォ!?」
素っ頓狂な声を出してしまったことを許して欲しい。
冒険者ギルドとは、ギルド会員になる為に実技試験と筆記試験を受けて合格しなければなれない政府管轄の公的機関だ。私の異世界人としての知識の中にある冒険者ギルドは、ドラゴンや魔獣を倒して売ったり討伐したり~とかして、材料の依頼を受けて納品する組織のイメージがあったのだけど、この世界の冒険者ギルドは全然違う。
先程も言った通り、試験を受けて通らなければギルド会員になれない。そしてギルド会員は一般からの依頼も受けてはいるが、基本は国…世界のお抱え機関なのだ。
国を跨いでの重犯罪の取り締まり、魔獣魔物の大規模討伐、国家規模の犯罪摘発等…つまりは世界警察という立ち位置の組織なのだ。
一般依頼の受付で担当してくれるのは冒険者レベルがE~Aまでのランクのギルド会員。その上のランクの人S~SSSの冒険者は国家レベルの案件で動いていると言われている。
噂じゃSランク以上には世界中の国の王族の方々が在籍していると噂されている。試験と実技を通っているのだろうが、高魔力保持者という点については、各国王族の方々が高魔力を受け継がれている場合が多いのも事実だからだ。
すごいよね、Sランク以上は右見ても左見ても…王子、王子、王子…んん?
「ルイド君、何用があって冒険者ギルドに行きたいの?」
ルイド君は口の周りを舌でペロリと舐めてから、ちょいと胸を張った?
「ああ、俺は冒険者ギルドのランクSだからな」
「何だってぇ!?」
初めて見たよ!上のランクの人…ん?ちょっと待てよ?
「だったらギルド会員証見せてよ?」
「っぐ…」
私の問いかけにルイド君は声を詰まらせた。そうだよね、ルイド君は出会った時に手ぶらだったもんね。会員証なんて持ってなかったもの。
「会員証は奪われた……それに2ヶ月前までは在籍していたけど、もう除籍処分を受けているかもしれない。そもそも冒険者が奴隷印持ちなんて除籍対象になると思うので…一応籍があるかどうかの確認をしたいんだ」
これ…聞いていいのかな?
「ルイド君……どうして奴隷印をつけられちゃったの?本当に冒険者ギルドのSランク会員なら身元もしっかりしているはずだし、試験も受かって国の役人って立場だよね?何があったの?」
ルイド君は迷っている。魔質がゆらりと揺れている。そう、どこまで私にバラしていいのか決めかねている。私だってそうだ、ルイド君を心底信頼しているかと聞かれたらまだ分からない。
私は魔質が視えるからルイド君の表層心理のようなものは今は分かるけど、心の奥底の深層魔力は読めないので分からない。ルイド君に至っては魔質を視る目は持っていないようだし、嗅覚と聴覚…後は狼の直感?頼みだと思う。
ルイド君に私は信用してもらえるのかな?
「分かった話そう」
あっさり言われた……え?
「い…いいの?え~と冒険者ギルドの会員って秘匿案件が多くて謎の組織だと思うけど…」
ルイド君は小首を傾げている。
「何も組織の内情を話す訳じゃないし…あえて言うなら、俺の間抜けな失敗を晒すことになるかな?それに、お前は大丈夫だ。匂いが大丈夫だ…と分かっている」
匂いっ?匂いが俺に囁くぜ…とかっ!?匂いで何が分かるのよっ?はっ!?私、臭いの?ねぇ臭いの?
「ちょ…ちょ…ルイド君?私、臭いの?」
ルイド君はアンバー色の瞳を細めた。ひょえ~狼のチベットスナギツネ顔だ!
「臭くは無いな…嘘の無い匂いだ…それに俺には…いやまあいい。兎に角、話すよ」
何を話してくれるのだろうか?緊張しながらルイド君を見詰めた。
ルイド君は絶賛裸族中なので、暫くは毛皮を被ってもらう予定です