賢者になるために修行をしたら小指からミルクが出ました
「あ、あれ?」
草原で一人の少女が辺りを不安そうに見回していた。彼女の名はユイコ。本が大好きで、ついさっきまで図書館で本を読んでいたのだったが。
「君、どうしたんじゃ?」
びくりと振り向くユイコ。そこには初老の男性が立っていた。
「その服装、もしや召喚者か?」
「え?あ、あの、私、早くうちに帰りたいんですけど!」
「まあ待て。元の世界に戻るには賢者にならねばならん。私は賢者として魔導教会から認められている。よければ、君に賢者になる方法を教えてやろう」
「なんかわかんないけど、私、やります!」
ユイコはその日から特訓を始めた。一刻も早く元の世界に戻るために。
そしてひと月が過ぎた。杖を振る練習のほか膨大な魔導書の読破が求められたが、本好きなユイコには苦にならなかった。
「一番身に着けるべきは杖の扱いじゃ!己の意思を込めて杖を振れ!書物で学んだ魔法陣を頭の中に思い描け!」
次の瞬間、ユイコは杖を取り落とした。
「…あ、熱い。手が熱いよう!」
右手を押さえてうずくまるユイコ。すかさず賢者が駆け寄る。
「だ、大丈夫か!?一体何が起き…!」
息を呑む賢者。それもそのはず、ユイコの右手の小指が、目も眩むばかりに真っ白に輝いていたのだ。
「あ、ああ、あああああ!!!」
手を押さえたまま絶叫するユイコ。次の瞬間、小指から白い液体が噴き出した。まるでホースから水が出るように噴き出したそれは、少し間をおいて止まった。と同時にユイコは気を失い、ぐったりと倒れこんだ。
「ユイコ、ユイコ!おい、しっかりするんじゃ!」
ユイコを抱きとめて肩を揺さぶる賢者。ふと気配を感じて横を見ると、猫がいた。ユイコの小指から噴き出し地面に飛んだ液体を、ぺろぺろと舐めている。
「な、なんじゃ?」
おそるおそる手を伸ばし液体に触れる。そしてほんの少し舌で触れてみた。
「なんと!こ、これは!」
そしてその夜、王都のとある館。
頭からすっぽりと黒い服を被った数人の男達がほの暗いランプの下、机を囲んでいた。
「これは…どうしたことじゃ」
「普通は杖が光るものなんじゃが、小指とは…」
「しかもミルクが出るという特異な現象。これは早急に国王陛下にお知らせせねば」
「いやいや、あの王が知れば何を考えるか知れたものではない。それよりも例の男に調査させてみては」
ユイコの知らないところで男達の議論は果てしなく続くのであった。