漢の料理でパーティだ
振り向いた先にいるのは、血走った目をして涎をだらだら流す、海の野獣と陸の野獣。
「どぉ~ろぉ~しぃ~……」
「どぉぉろぉぉしぃぃいぃぃさまぁぁぁぁ!!」
キミタチいつの間に野獣からゾンビに転職したんだい?
私は試しにウツボ串を上に掲げてみた。
『あぁぁぁぁ……。』
2人の目線……いや、体ごとウツボ串に向かって揺れ動く。
なんだか面白いので、上下左右に動かして遊んでみた。
「すごーい、操り人形になってるー」
「いつもキリッとしていたシーラさんはもういないのね……」
おっと、どうやらメイド長の尊厳を破壊してしまったようだ。
まぁそれはいいとして、冷める前に食べさせてあげよう。
シーラさんに歩み寄り、ウツボ串を近づけると、口を開けて顔を近づいてきた。
横を見ると、ミラが泣きそうな顔で口を開けている。
シーラさんの口に入る直前、ウツボ串をスッと方向転換し、ミラの口に放り込んだ。
2人共、何が起こったか分からないという顔で、口が開きっぱなしになっている。
少しの硬直の後、ミラの口が閉じた。
もぐ…もぐ…もぐ……ごっきゅん
ウツボを飲み込むと、ミラの目がカッと見開く!
「うーまーいーのーでーすー!!」
なんだか上を向いて思いっきり叫んでいる。
変なエネルギーとか出しそうで怖いねー。
その横で、シーラさんが真っ白になっている。
「なぜ……なぜ……」
いや、夕食用だから必ず食べれるのに、そこまで落ちなくても……。
匂いが悪いんだろうか。
まぁこれ以上はあまりにも可哀想だから、まな板の上にある切り身を1切れ、ひょいっとシーラさんのお口に放り込んだ。
「んひゃぁぁ! おいちぃ! おいひぃれふぅ〜!」
……シーラさんが壊れてしまった。
「……こほん。これ程までにウツボを美味に仕上げるとは、さすがはドロシー様ですね」
即直った、いつもの無表情だ。
しかし少し顔が赤いのを、私は見逃さなかった。
「ドロシー様〜! ウツボとカレイを切り終えましたー!」
イルーナさんから声がかかる。
縁側には多数の切り身を持ったグレイさん。
その奥では山盛りのサラダの横で、こちらに手を振るアザレア。
ミカゲちゃん用にカレイも焼くからと、持て余していたカレイもついでに切ってもらっていた。
追加で頼む時に、ついでにウツボ串を味見してもらった。
事前に匂いを嗅いでなかった3人は、普通に美味しい美味いと感動していたよ。
「お疲れ様ー。じゃあみんなで焼きましょうか。イルーナさんとグレイさんにも教えるのでこっちへ」
みんなそれぞれコンロを操作して、2人前の4切れずつ焼いていく。
焼き始めて間もなく、お米が炊けた。
なかなかナイスなタイミング!
アザレアとルティエに全員を呼んでくるように頼み、テーブルや丸太椅子を適当に置いてもらう。
今日もほぼパーティみたいなもんだね。
メルルがサラダを大皿に分け、取り皿とドレッシングや調味料をテーブルに置いている。
さすがメルル、気が利くね!
ウツボもだんだん焼けてきて───
「オイオイオイ! このスゲェ匂いでさらに腹減るんだが!?」
船長さんがなにやら笑顔で文句を言い始めた。
「空腹は最高のスパイスですよ♪」
「うおぉ……なら仕方ねぇなぁ……」
そんなやり取りをしている間も、絶え間なく聞こえる涎を飲み込む音。
みんなどれだけ良い匂いに耐性ないの……。
村の男達は匂いに敏感な獣人族だから、特に酷い事になっている。
これは最初に行き渡らない人がいたら、暴動が起きそうだなぁ。
仕方ない、1回目は少なくして全員に配ろう。
ああ、船長さんは最初から大盛がいいね。
あれ? そういえば何か忘れてるような……。
「魔女様ー!」
あ、肉体派カップルの事忘れてた。
岩場の方面から、リーベルトさんがアイラさんをお姫様抱っこして走ってくる。
アツアツよのぅ♪
アイラさんは恥ずかしがっているが、とってもおとなしい。
「どうやら無事、大人になったようですわね」
そうだねぇ、お祝いくらい用意しとくべきだったなぁ。
「ケリー嬢、どうやらアイラさんが大人の階段を昇ったようだけど、なにかお祝いする?」
「まったく羨ましい事で。盛大にやるのは可哀想なので、夜に女性陣だけで何かしましょうか」
このお嬢様、じっくり詳しく話を聞く気だ。
そして後ろでニヤニヤしながらウツボ焼いてるイルーナさんも……。
うん、アイラさんに逃げ場なしっ!
よーし、お茶とゴハンはみんなに行き渡ったね!
「それじゃー、2人の新しい門出にぃー!」
『カンパーイ!!』
「まだ結婚してないようっ!?」
真っ赤になって否定するアイラさん。
お相手のリーベルトさんは、開き直ってお礼を叫んでいる。
さすが船乗り、ノリがいいね!
「おねーちゃん、なんか暑いのに寒い気がするよ?」
「……気のせいよ」
なぜにこーゆー時だけ以心伝心なのかしら?
そんなおバカな寒さを吹き飛ばす声が、辺りに響きわたった!
『うンめえええええええ!!!!』
「なんだよこれ! これがあのウツボかよ!」
「米もだ! この味がやべぇんだ!」
「このソース強すぎねぇか!?」
「俺達の筋肉が束になっても敵わねぇソースがここにあるぞ!」
「とんでもなく美味ですわぁ~♪」
うん、意味は不明だけど大好評。
完成したのは海の男にぴったり、ウツボ丼。
ウツボの蒲焼をお米に乗せて食べる、単純豪快な漢の料理!
味が濃いので付け合わせのサラダも好評。
でもこの調子だとすぐ食べ終わりそうだね。
今、ミラとシーラさんとアカリさんが、食べながら次を焼いてくれている。
1度焼いて慣れたのか、1人につき3基使ってるよ。
アカリさんの隣では、ミカゲちゃんがカレイの蒲焼丼を美味しそうに食べている。
子供用や苦手な人用に考えておいてよかった。
苦手な人は他にいないみたいだけどね。
おっと、どうやら次のウツボもほぼ焼けてるようだ。
「みなさーん、おかわりありますよー。3杯くらいまでなら出せまーす」
そう言った瞬間、男達の目がギラリと光った!
おおう、凄い勢いで食べ始めた。
あ、1人むせた。
セニアもおかわり欲しいの?
そういえば私達の中では一番食べるもんね。
リーベルトさんの隣にいるアイラさんもガッツいてる。
たくさん食べる子なのねー。
「おかわりおねがいしやす!!」
おっと、おかわり1号は海の男!
さすが力仕事するだけあってよく食べるね!
順番におかわりを渡していき、後ろでは追加のウツボを焼き始める。
カップルがおかわりに来たので、良い事を教えてあげよう。
「そうそうアイラさん。ウツボはスタミナや精力が付くんだよ」
『えっ!?』
アイラさんどころか、男達やメルルとセニアまでが反応した。
「貴方達! 分かっていますわね!?」
「ちゃんと食べるのよぉ?」
『へいっ! 任せてください! メルルたん! セニアたん!』
なんかあっちが熱くなった。
っていうか何やらかしてんのかな……メルル、セニア。
「ままー、あれなにしてるのー?」
「シッ……見ちゃいけません」
まったくだ。
「アイラちゃん……どうする?」
リーベルトさんが、アイラさんの頭を撫でながら語りかけている。
すっかり顔を真っ赤にして、アイラさんはボソッと呟いた。
「ウチ、リーベルト様の腕の中で本当に死んじゃうかも……」
…………これは後でケリー嬢達と一緒に、この子を尋問する必要がありそうですな。
ケリー嬢やイルーナさんとアイコンタクトで頷きあいながら、2人には労いとからかいの意味を込めて、大盛にしてあげた。
なんかバカンス2日目が長いな……(いまさら言うな




