無人島初心者の日常
今、私はそれなりの量の野草を目の前にして悩んでいる。
「畑がほしい………」
森にいけばそこそこ手に入る野草だけど、栽培したい。
最終目標は菜園や畑での安定供給。
栽培経験はそこそこあるんだけど、栽培する環境が無い状態から始めるのは初めて。
で、畑を作りたいなーと思ったんだけど………。
「クワ、作れるかなぁ。モリと同じ作り方はできない気がする」
つまり耕せない。
魔法で土を固めることはできるけど、丁度いい具合に掘り起こして柔らかくするのは出来るかどうかわからないし……。
それに問題は他にもある。
土に栄養を与える方法、つまり肥料。
作り方知らないしっ!
むむー、いつもはお店で出来た物を買ってただけだから気にしてなかったよ。
腐葉土くらいは作ってみるんだったなぁ。
ん~~~……。考えろ私……。
「そうだ!たしかハーブって育てやすいのがいっぱいあった筈。水と日当たりさえあればここの環境で十分栽培できるわね。実際自生してるし」
野草の類なら肥料とか必要でもないし、時々お魚の骨でも土に与えておけば安心!だと思う。
これは名案ね。
栽培の実験も含めて近場に小さな畑でも作りましょ。
クワを必要としない程度のだったら私にも出来る筈。
………多分。
畑を作る場所は───。
「よし、水場の近くがいいかな」
早速雑草を抜きまくろう。
「くたばれ~♪ほろびろ~♪」
ずぼっ…ズズッ……。
意味の分からないテンションで、変な事を言いながら雑草処理していく。
暫くして、ちょっとした範囲の土が草むしりによって掘り起こされた。
「おおぉ、耕す手間が省けたよ」
それにしても土を掘ったり運んだりする道具作った方がいいよねぇ。
ふーむ。
「まずは道具作ろ」
木材を切って、取っ手部分と薄い部分を形作る。
で、左右から削って先端に向けて薄く尖らせる。
「よし、ヘラみたいなスコップ完成!」
私に綺麗なカーブを掘る技術はない!
試しに掘ってみよう。
ザッザッ…。
「ふーむ、すくうのにはあまり向いてないけど、耕すのには使えるかも?」
うん、まさに最低限。
ちなみに魔力強化を使ってるので強度の心配は無し。
ここでちょっと小細工。
食べ終わったお魚の骨を小さく砕いた。
それを耕してる土にふりかける。
あとはスコップで耕しながら混ぜまくる!
「うりゃりゃりゃりゃりゃ~~~~!」
ザクザクザックザックザック。
「ふぃ~。イイ感じに混ざったかな~」
同時にしっかり耕せた、これで畑の準備は完了。
「あとは土や草を運ぶ道具があればなぁ」
む~、魔法で運ぶのやだなー。簡単すぎて達成感ないし。
「…仕方ないか、せめてバケツでも作ろう」
丸太型のバケツを作った。
壁面を1cm程度まで薄くしながら丸くくり抜くのにめちゃくちゃ苦労した……。
お皿を作った時から思ってたけど、こーゆー所は不器用なんだな私。
ともあれこれで準備OK。
「じゃあまずは今持ってるハーブの挿し木からやってみよう」
自生してるのを採ってきたはいいけど、どれが挿し木に対応できる草なのかなんて、私は知らない。
だから、一通り試すところからやってみる。
その為の実験畑でもあるもの。
うまくいくといいなぁ。
畑のスペースが半分ほど余ってる。
こっちには森で採取したハーブを土ごと移植していく。
そう、残りは移植での栽培実験。
森へ行って手ごろなハーブを見つけ、土ごと採取してバケツで運ぶ。
このためにバケツを作ったからね。
3種類見つけたので移植完了。
根を傷つけないように気を付けるのが大変だったなぁ。
あとは畑に毎日水を与えていこう。
これで暫くしたら私の拙い園芸や農業の知識でも育てられる簡単なハーブだけが生き残って増えていく。
………………。
なんだろう、一瞬情けない気分になった。
「少しくらい園芸やっておくんだったかな」
ちょっぴり後悔。
ムニエルと一緒に漁に出てみた。
服を脱いでモリを持ち、風の結界と浮遊魔法で水中を移動。
これならムニエルほどじゃないけど水中を早く移動できるよ。
小さく貼った風の結界のおかげで長時間呼吸もできるしね。
潜って程なくして岩場のあちこちにお魚を発見。
最初はムニエル先生のお手並みを拝見してみよう。
ユラユラとお魚の背後へと泳いでいった。
少しだけ距離を開けて………これはムニエルの魔力!?
ムニエルが口を開くと、その前方の海が歪んでお魚を巻き込んだ!
お魚が回ってる、もしかして竜巻状の潮流を発生させて動きを止めたの!?
すかさずムニエルは潮の流れに乗ってぐるぐる回りながら突撃!
そのままお魚をがっちりキャッチ!
すごーーーい!!
あ、丸呑みした。そっか、まずは自分用のご飯なのね。
なるほどー、お魚の動きを止めてから仕留めるっていう方法もあるのかぁ。
よし、頑張ってみよう!
私はムニエルの邪魔にならないようにお魚を狙いに向かった。
手頃なお魚を発見!
モリを構えて……狙…ああっ動かないでっ!
このっ!当たれっ!
あーん逃げないでー!
ちょっと…まっ………痛っ!
やだっ…発射の反動でバラ…ンスがっ……。
あ、あれ?お魚どこ?
くそー負けるかーっ!
…………………………。
「ふっ…」
ザザーン
ムニエルが狩りをやめたのを察して一緒に浜へ戻った。
本日の成果………無し!!
「うわあああああん!むずかしいよぉぉ~!」
思わず裸のまま四つん這いになって叫んでしまった。
せっかくムニエルと一緒に潜ったのにぃ~!
そのムニエルはお魚を咥えながら尾を使って私の背中を撫でてくれている。
やさしいなぁ………。
生け簀とキッチンを作ってからというもの、食べない時はお魚の保存ができるし、料理のバリエーションもちょっとだけ増えた。
食材の種類の無さはまだどうしようもないけれど……。
「お魚、野草、塩、水、昆布………何か新しい料理できないかなー」
ここしばらくは新しく見る食材はゲットでしてないなぁ。
まだまだ行動範囲が狭いからかな。
晩御飯どうしよっかなー。
「あ、そーだ。全部使っちゃおう」
お魚と残った野草をぶつ切りにする。
石鍋に水、昆布、塩を入れて火にかけて、熱くなったらお魚全部放り込む。
少し煮込んでから、切った野草を入れて、完成!
「今夜は一人鍋パーティよっ!」
可愛いぶりっ子ポーズで宣言してみた。
………………。
思いつきをテンションで実行するのはよくないわね。
ちょっと寂しい。
「はは……は……」
!!……視線を感じる!
横を見ると入り口に佇んでこちらをじっと見つめるムニエルが……。
「ムム…ム…ムニエエェル!?いたの!?」
突然の事にポーズを解くのも動くのも忘れて固まってしまう。
顔が超熱い!!
ムニエルは蛇だけど人の行動や言葉を理解する。そして今、そんな存在にじっくり凝視されている。
顔から変な汗が止まらない……。
「えと……これは………その……えと……」
バレないようにゆっくりと、ポーズを解除していく。
──バレるって何?何の意味があるの?最初からめっちゃガン見されてるんだけど?
お願い正しく動いて私の脳みそ。
停止しながら慌てていると、ムニエルがそっと近づいて……私の目を見ながら尾を使い私の肩を叩いた。
「ぴぅ……………」
えっ待って今の私の声?なんか変な音を吐かなかった?
物っ凄く優しい視線を超至近距離で浴びてる気がする。
何その「わかってる、そういうお年頃なんだろう?誰だってそういう時はあるさ」って言いたげな目は。
その後、すぐにムニエルは部屋から出ていった。
「………ぅ……ぁ………」
全然声が出ない。動けない。汗びっしょり。
ムニエルが居なくなって暫くしてようやく私の金縛りが解けた。
近くにある石の台に座って深呼吸。
そして絞り出した一言。
「シニタイ……」
その後、真っ白に燃え尽きた私のハートは、温かい塩鍋でなんとか復活したのだった。