ドロシー様ご乱心
嬉しくてというか、最近のミラがなんだか怖くて思わず抱き着いてしまった。
主に私のやり過ぎのせいだけど。
「あの……ドロシー様? どうなされたのです?」
抱き着いて少し落ち着いたら、なんか段々ムカムカしてきた。
何この大きくて柔らかいの。
私こんなに持ってないよ。
少しだけ、メルルから離れ……。
「ドロシー様?」
首を傾げたメルルの肩と胸を掴み、引っ張った!
「なんなのこの乳脂肪分! ミラも貴女もケンカ売ってるの!? チクショウもいでやるうぅぅぅぅ!!」
「いやああぁぁぁぁ!! もがないでくださいましっ! 理不尽ですわああぁぁぁ!!」
貧乳ではないけど、私自身のボディは巨乳派なのだ。
何千年経とうとも希望は捨てない、絶対に。
「おねーちゃん、どうどうどう」
「ガルルルルル……」
「ドロシー姉ちゃんが唸ってる……」
「チョップなのです」
てしっ
「あうっ」
ミラのチョップはちょっと痛い。
「ほら、おねーちゃん落ち着いて」
私としたことが我を忘れるなんて。
早く成長してしまえばこんな事にはならないのにね。
「おかえりなのです、メルルとムニエル」
「ただいまですわ。ドロシー様は大丈夫ですか?」
「あはは、ごめんごめん。最近ちょっと溜まってて」
「何がですの……」
挨拶もそこそこに、メルルの後ろにいる人を見る。
メルルのお友達のサキュバスね、前に助けた時にチラっと見たの覚えてる。
ストッキングで露出少ないのにかなり挑発的な恰好をしているね。
当然のように大きい……うぅ……。
「ね、ねぇメルルぅ……なんだか目が怖いけどぉ、この方だよねぇ? ボクも見覚えあるしぃ……」
「ええ、なぜか今はご機嫌斜めのようですけど。普段は優しいんですのよ」
巨乳で間延びでボクっ娘サキュバス?
盛り過ぎよ、実にけしからん。
「おねーちゃん、しっかりして! ちゃんと挨拶しようよ!」
あぅ、そうでした。
「ほら、水でも飲んで一旦落ち着くのです」
ミラがコップに水を入れて差し出してくれた。
教えた魔法を上手く活用してるね。
ミラにお礼を言って、メルル達に向き直る。
「ごめんね、すっかり気が立っちゃってて」
「まったくですわ、この数日で何があったのやら……」
いろいろやり過ぎて怒られてました。
立ちっぱなしだったから、とりあえずテーブルを囲んで、私達から自己紹介をしていった。
「ボクはセニア。メルルの親友でぇ、ずっと悠久の魔女様を探してたんですよぉ」
うっ……。
メルルを見ると、ニッコリ微笑まれた。
私の事、何も説明してないのね。
「あ、あの。セニアさん?」
「『さん』なんてつけないでくださいよぉ、あの悠久の魔女様に敬称を付けられるなんて恐れ多いですぅ」
ひぃ……。
「じゃ、じゃあ私の事はドロシーって読んで欲し───」
「それは良くないですよぉ。悠久の魔女様程のお方を呼び捨てなど……」
やばい、この人ガチな感じだ。
慌ててメルルに目で助けを求めた。
しかし目を逸らされた!
ちょっとぉ!?
「悠久の魔女様! 是非セニアとお呼びくださぁい!」
「その呼び名は駄目ですよーっ!」
この後、私とセニアさんの譲らない闘いは、1時間ほど続いた。
頑なに私をまつり上げようとするセニアさんに大苦戦。
嫌だ辞めてと言っても全く聞き入れてくれない。
もう泣いていいですか?
「面白いので静観していましたが、そろそろ限界ですわね」
面白がられてたの!?
メルルの言葉に、軽くめまいがした。
「そんな目で見ないでくださいまし、アタシが責任持って説得しますわ」
なんか納得いかない……。
すっごい弄ばれた気分だよ。
この場をメルルとミラに任せて、私はアザレアと一緒に縁側にいって不貞腐れる事にした。
「おねーちゃん、元気出してね」
人で遊んだ罰として、メルルには強制的に私のことを呼び捨てにするように言いつけた。
「ドロシーさ……ドロシー、機嫌治してくださいまし~」
ジロリ
「は、はい、大人しく待ってますわ……」
気分転換に、夕食の準備中。
アザレアとミラに手伝ってもらいながら、思いっきり料理している。
「なんでドロシーさま…さんはぁ、あそこまで敬われるのを嫌うのぉ?」
「さ、さぁ……今まで我慢してらしたのかしら……そういえばドロシア村からお客様がいらした時から、少し様子が変わっていたような……」
何かボソボソ言ってるけど、今はスッキリするほど豪華なものを作るため放置。
豪華にするといっても、小麦や米は無いので、パン、ライス、パスタ、麺といった主食系は作れない。
我が家の主食はどうしてもお魚になる。
食材の種類もまだまだ限られてるしね。
ミラにはオーブンを予熱してもらって、スパイスとみじん切りにしたハーブをお魚の切り身にたっぷりつけて焼いてもらう。
アザレアには野草サラダを作ってもらっている。
そして私は…水・ソイソース・ワイン・お砂糖を入れた鍋に、お魚の切り身を入れ、落とし蓋をしてじっくり煮詰める。
煮詰めている間に、オイル・ビネガー・塩・胡椒・砂糖を混ぜてサラダ用のドレッシングをたっぷり作っておく。
容器にいれていつでも使えるようにしておこう。
「おねーちゃん、サラダはもう持っていくね」
「うん、じゃあこれをサラダの横に置いて、取り皿も人数分持って行ってね」
「はーい」
ドレッシングを渡して、サラダの準備はおっけー。
「オーブンの中はそろそろ良い感じに焼けているのです」
「ん、良いね。じゃあ取り出して大きなお皿に盛りつけて持って行ってね。熱いから気を付けて」
ミラはタオルを手袋代わりに使って、上手に中を取り出していった。
残るは煮魚。
……うん、いい匂い。
深皿に全部いれて、私もテーブルへと向かった。
「うわぁ……」
「沢山作りましたわね……」
なんだか結構気分が晴れた。
私ってこんなに何かを作るの好きだったっけ……?
まぁいいや、楽しめてるし。
「今日は食べる分を自分で取って食べてね。アザレアの分は私が取ってあげるからね」
「うん、おねーちゃんの作った煮魚早く食べたいな」
「はいはい♪」
「このいい匂いのピリピリする魚は姉様が焼いたの?」
「そうなのです。フライパンとは違う焼け方で面白かったのです」
「へー……おいしーね!」
うん、どれも良く出来てる。
ドレッシングもサラダにちゃんと合ってくれた。
これは満足。
「なんだか普通の家庭みたいねぇ……」
「アタシが出ている間に、料理の腕とバリエーションが上がってますわね」
ぱくっ
「美味しい! こんな魚料理初めてぇ!」
セニアさんはスパイス焼きが気に入ったみたい。
オーブンが無い場合はかまどで作る必要があるからね。
パン粉とかあればもっといい感じになるんだけどな。
「ねぇメルル、この後お風呂にするけど、今日は熱いのを外にするね」
「そんなお気遣いは……まぁセニアが初日ですし、お言葉に甘えますわ」
「何の話ぃ?」
「ふふ、素敵なお風呂がありますの」
「なにこれぇー! 広いお風呂ぉ!」
セニアさんが大声で驚いている。
「濡らしたタオルで体の汚れを落としてから、奥に行きますわよ」
「奥ぅ?」
首を傾げながら、セニアさんは体を拭いている。
そんな横ではそれぞれ体を拭いたり、アザレアの葉や根にお湯をかけたりして土などの汚れを流していく。
「はい、綺麗になったね。それじゃあ入ろっか」
「ドロシーさ…さん達はこっちなのぉ?」
「ええ、水棲族や妖花族の方々にとって、高温のお湯は熱すぎますの」
そう話しながらナイスバディ2人組は外に出ようとする。
「少ししたら私もそっちいくね」
久しぶりと初めましてだから、少しゆっくり話したい。
メルルは笑顔で頷くと、外へ出て行った。
「わぁ~~~~!! すごぉぉぉぉい!!」
間延びしてるけどリアクションはなかなか良いね。
しばらくしてから、アザレアの事はミラに任せ、そっと外へと向かった。
2人とも足湯状態で背を向けている。
静かに歩いていって……メルルの両脇腹にフィンガーアタック。
「ひきゃぁん!?」
ドボン
メルルは鳴き声を上げて体をねじりながらお湯に沈んだ。
「ぷはっ!? なななななな!?」
慌てる姿を見てニヤニヤしながら、メルルが座っていた場所に腰を下ろす。
「何するんですの!?ドロシー様!」
「ほーらまた様なんてつける~」
「うっ……じゃないですわ! もぉ~……」
「お風呂じゃいつもいぢられてたから、今のはほんの仕返しだよー♪」
私が楽しそうにそう言うと、顔半分をお湯に沈めてブクブクしはじめた。
「ドロシーさんってメルルと仲が良いんだ…ですねぇ」
「もう、敬語なんていらないよ。喋りにくそうだしメルルと同じ様にしてちょうだい」
「でも……」
(メルル、この事は任せた!)……と目で合図。
それに対し、(仕方ありませんわ)……って感じで目を閉じた。
今はとりあえず話題を変えよう。
「この家はね、ほとんどメルルが建てたんだよ」
「このお風呂もぉ?」
「そ。まだまだ途中みたいだけどね」
セニアさんはキョロキョロと見回している。
「なるほどぉ、それじゃあボクも手伝いますねぇ」
「え?」
「セニアもアタシと一緒に建築してたのですわ。内装の方は任せられますの」
おぉ……。
2人のせいで私の中のサキュバスのイメージが大工さんになっていく……。
たしか違うよね?
「じゃあお風呂あがって、家の紹介とこれからの事を話そうか」
「承知しましたわ」
「はい、楽しみですぅ」
脱衣場に向かうと、丁度アザレア達がリビングに向かう所だった。
その後ろ姿を眺めながらセニアさんが……
「この島のマーメイドは、空中を泳ぐんですねぇ……」
いや、私の魔法なんだけどね。
あとがきでフリートークでもしようかなとか思ったり思わなかったり。