いってらっしゃい
「メルルさん、ハンカチは持ったのです? 寝る前にはおやつを食べないようにするのですよ? ムニエル様の言うことはちゃんと聞くのですよ?」
「貴女はいつからアタシのお母様になったんですの?」
今日はムニエルがみんなを村まで送る日。
浜辺で見送ることにした。
「おぅ、朝早くから悪ぃな!」
「いえいえ、お客なんてそうそう無いですからね。お見送りくらいはさせてください」
フランツさん達とお別れの挨拶。
また来ると思うけどね。
シーラさんに来訪の予定表か何かを作ってもらって、メルルかムニエルに渡してもらおう。
「ドロシー様、今回はシーラがご迷惑お掛けしました。そのうえ魔道具までいただいてしまって……」
「魔道具については気にしないで下さい。楽しんで作ってたんですから」
以前も色々作ってたけど、国や研究者がよこせとうるさいから、ほとんど作らなくなっちゃったんだよね。
しまいには爵位をやろうだの、妻にしてやろうだの鬱陶しいことこの上なかった。
100年すら生きてないお子ちゃまが、何偉そうに言ってるんだろうね、まったく。
……まぁそれはともかくとして、この場所は権力の外だし、神獣の同行が無いと普通来れないらしいから、私の好き勝手出来る事が分かった。
色々作ってみたくなっちゃった。
んふふ。
それと無闇に人が来過ぎないように、ちょっとしたルールも作っておこう。
「ムニエル、大陸でまた人と会った時、この島に来てもいいかどうかは、貴方が判断していいよ」
これで神獣に気に入られる事が島に来る条件になった。
なんという安心感。
私ってばすっかりこの島の住人だね。
「シーラさん、今度来た時は使ってみた感想聞かせてくださいね」
「もちろんです。大事に使わせて頂きます」
すっかり元に戻ったシーラさん。
きっと環境の変化で密かに混乱してたのかもね。
さて、そろそろ出航か。
「メルル、ちゃんとお金持った? 忘れ物無い? ムニエルの言うこと聞いてね? 体には気をつけてね?」
「な、なんでドロシー様までお母様の様になってますの……」
あれ?
そうだよね、なんでそんな事言ったんだろ。
心配だからだよね。
うん、心配だからだね。
「いいじゃない、当然でしょ!」
とりあえず勢いで押し切った。
『いってらっしゃーい!!』
島を離れる船に向かって、私たちは思いっきり手を振っていた。
しばらくメルル帰ってこないもんね。
ちゃんと送り出してあげなきゃ。
あっちからもみんな手を振ってくれてる。
なんだか暖かい気分になった。
船が小さくなり、人の姿が見えなくなると、ちょっぴり寂しい気分になった。
急に人が減ったからね。
パーティの後の静けさはなんとなく切なくなる。
そんな寂しさ。
………………。
よし!
気持ちを切り替えて………今日は何しようかな。
あっ、そういえば。
「ルティエちゃん、本当についていかなくても良かったの?」
新しく住人になりたがってるルティエちゃん。
相当ミラの事気に入ったのかな。
「わちしは大陸に行こうとかは思ってなかったし。どうせならミラ様と一緒の方がいいよ」
プロポーズしてたもんねぇ。
「私達はのんびり過ごす為に、家とか頑張って作ってるの。ルティエちゃんは何かやりたい事ある?」
「うーん……?」
あぁ、そもそも地上の生活が分かんないか。
それだったら……。
「ねぇミラ、ルティエちゃんのことお願いしていい?」
ミラは昨日まで、シーラさんから家事を教わっていた。
だから家での暮らしを教えるには適任だと思う。
ついでにミラの移動補助も頼めるし。
……そういえば、私あんまりミラと一緒に行動しないなぁ。
ついついアザレアに向かっちゃうからね。
「構わないのです。でも今日はみんなでのんびりしたいのです」
あー…それもいいかも。
みんなでルティエちゃんと仲良くなろう。
魔法の練習をしながらのんびり過ごす昼下がり。
「ところでアザレアとミラ様ってどんな関係なの?」
……あれ?
その質問に私は入ってないのかな。
アザレアとミラって特別な関係なの?
えっ? あれっ?
「見て分かる程、ドロシーさんが動揺してるのです」
「おねーちゃん?」
「え、うん? ナンデモナイヨ?」
大丈夫私は冷静……。
「一緒に住んでる仲間だよ?」
そうそう!
仲間だよね仲間!!
「えー? 一緒に住んでるなら家族だって、わちし聞いたことあるよ?」
なぬ?
家族とな?
「家族ってなんなのです?」
「一緒に住んでる人の事だよ!」
多分それ、合ってるけど違うと思う……。
「おねーちゃん、そうなの?」
「うっ……」
よく考えたら親が子を育てるタイプの種族って、今いるの私だけだし!?
水棲族は同族意識はあっても親子という考えは持たない。
アザレアに至っては私が親みたいなもんだし……。
しかも私も家族がいなくなって超久しいからよく分からない。
うーん……。
「メルルが戻ったら聞いてみましょ!」
私に出来ることは、丸投げだけだった。
「でも家族でいいと思うよ、仲間より身近に感じるし」
「だよねー」
ルティエちゃん? 貴女わかってないでしょ。
「じゃあここにいる4人とメルルさんは家族だね!」
「そうだねー」
アザレアの一言でとりあえず私達は家族になった。
「えっ? わちしも?」
「もちろん」
「うん」
「とーぜんなのです」
私達3人に頷かれ、強制的に家族になったルティエちゃん。
「い、いいの?」
なんだかソワソワしてる、顔がちょっとニヤけて……恥ずかしそう。
つまり嬉しいのね、理解した。
「イヤなのです?」
ミラが意地悪な事言ってる。
「いいいいやじゃないですっ! 嬉しいですっ!」
8本の足をバタバタさせながら首をブンブン振って否定する必死さが面白いなぁ。
やっぱりミラの事が好きなんだね。
なんだか微笑ましいな。
「おねーちゃん、家族になったら何が変わるの?」
「んー…………」
家族かぞく……つまり今までよりも身近になるわけで……。
「ミラさんやメルルさんとも家族かー、みんなおねーちゃんなのかな?」
ん?
そっか、わかった。
他の家族は知らないけど、私にとってはコレだよね。
「ねぇアザレア、家族なんだからミラさんだなんて、他人みたいに呼んでたらなんかヤだなー……」
「えっ、そうなんだ……。おねーちゃんをおねーちゃんっていうのは良いの?」
「うん♡」
もっと呼んでほしい!
「じゃあミラさんのことはミラおねーちゃん?」
むっ………。
なんだかもやっとする。
ミラも私の顔を見て察したのか……慌てて訂正し始める。
「ドロシーさん以外に『おねーちゃん』を使わない方が良いと思うのですよ」
「そうなの? じゃあどうしよっかな」
私は内心ほっとしながら見守ることにした。
「別に呼び捨てでも構わないのです」
「えぇ……」
今はだいぶ遠慮無くなったけど、もともとアザレアは遠慮がちな子だから、呼び捨ては躊躇っちゃうんだね。
「ミ……ミラ?」
「はいですっ!」
アザレアに呼び捨てにされて、とっても嬉しそう。
そういえば深海の巫女ってずっと崇められてたはずだよね。
なるほど、私と一緒だねぇ。
「それじゃあミラも、私の事は呼び捨てね」
「うっ……やっぱりこうなるのです……」
似たような境遇に立たされると、なんとなく分かるもんだね。
家建ててる時にそんな感じの話をした事あるし。
なんだか身内って感じでいいなぁ……ずっと様つけられてたし。
「ルティエちゃんも呼び捨てでいいからね」
「え~……」
この後しばらく呼び方について話し続けた。
それにしても『家族』か。
なんだろう、ちょっと嬉しいな……。
「どうしたのです? ドロシー」
「ん? ううん、なんでもないよ」
「なら良かったです」
そう言って、ミラはにっこりと微笑んだ。
そうだね、お互いにね。




