本気の魔道具作り
「はぁ、すごい道具ですねぇ」
測定を終えて、イルーナさんがボソリと呟いた。
魔力の使い方を知らないミカゲちゃんだけは出来なかったけど。
ごめんね、もうちょっと大きくなってからしようね。
そしてまたしてもシーラさんの様子がおかしい。
測定器をジーっと見ている。
もしかして道具フェチなのかな?
あ、ミラが向かった。
任せておけば大丈夫だよね、きっと。
なんか声が震えてて顔が赤い気がするけど、気のせいだよね?
さて、今日はそこそこ疲れたし、どうしようかな。
「おねーちゃん、マッサージする?」
「あら、いいの?」
「だってなんだか疲れた顔してるよ?」
むむ、顔に出るほど疲れてたのかな?
「アザレアちゃんは、ちゃんとドロシー様のこと観てますわね。アタシも言われるまで気づきませんでしたわ」
「ウチも分からなかったけど、考えてみれば色々あったもんね」
主にシーラさん関係だよね、それ。
魔力もだいぶ使ったし、ここは甘えてもいいかな。
「それじゃあアザレア、お願いしちゃおうかな」
「はーい、ちょっと準備するねー」
アザレアはマッサージベッドを作り始めた。
楽しみだなー♪
───あぁ……気持ち良すぎて意識が……。
「アザレアちゃん、そのマッサージは?」
「疲労回復のマッサージなの。身体をポカポカにして休ませるんだよ。それによく眠れるんだって」
「たしかにドロシー様の顔が完全に蕩けてますわ……これは───」
「メルルさんっ、今のおねーちゃんはお触り禁止なのっ!」
私の周りで何か言い合ってるけど、ボーっとして何も分からない……。
気持ちいい……このまま溶けちゃいそう。
「力を入れずに魔力で温かくした手でほぐしていくんだよ。全身をゆっくりとね」
「なるほど、これが熱魔法なのね。旦那にやってあげようかしら」
「この魔法を習得すればドロシー様に触り放題……」
「メルルさん……」
だめぇ……顔までゆるんじゃう……。
口が閉じれなくて涎が落ちちゃってる。
はぁ……。
「こーやって首元も温めてあげるの。そのあと肩をほぐして~……」
「うわぁ、気持ちよさそう~」
「起きたまま夢を見てるような顔してるね……」
「はぁはぁ……淫らじゃないのにこんなにもいやらしい顔だなんて……。アタシの方が変な気分になっちゃいますわぁ」
あ、肩きもちいぃ♡
腕までほぐされて、私スライムになった気分だよ。
これが骨抜きというやつなのね。
「はーい、おねーちゃんを仰向けにするから、みんな下がって~」
「ぁぇ?」
葉っぱに包まれてひっくり返されちゃった。
「おねーちゃん、寝てもいいからね。ほら目を閉じて……」
やさしい手つきでアザレアが瞼を下ろしてくれた。
寝ちゃいそう。
「目の上に温かいタオルを置くね」
顔の上半分が、ふわっとした温かいものに包まれる。
あ、ダメこれ。意識が保てないやつ……。
「あ、メルルさん、またスライムのオムツ出してほしいの。全身の力が緩むから止まらなくなっちゃう」
「おまかせあれですわ」
「わ、ほぐしながら脱がしちゃった……すごい」
「あとで履かせるから持っていかないでね」
「はい、スライムですわ。くっつけますわよ?」
「やさしくね。おねーちゃんは今ボーッとしてるから」
「気づかれないようにですわね。うふふ」
何か言ったのかな?
すごく気持ちいいから…みんなにも勧めたいな。
でももう…声を出す力も…出ないや……。
全身ぽかぽかする。
「それにしてもなめらかなお肌ですね……」
「野性的な生活してるなんて思えないよね」
「それだけじゃありませんの、お風呂でもご覧になったでしょう?」
「たしかに素晴らしい形に美しい曲線でした」
「うらやましいねぇ~」
「ココも綺麗ですよね」
「おやすみなさい、おねーちゃん……♡」
おやすみ……アザレア……。
………………。
「あ、あれ? 私いつのまに寝てたの?」
アザレアにマッサージしてもらって……それから……。
何も覚えてない。
気づいたら朝だった。
マッサージのおかげかな、すっごく体が軽い気がする。
マッサージをしてくれたアザレアは……気持ちよさそうに寝てる。
「ふふ……アザレア、ありがと」
ちゅっ
「うぅん……♪」
起き……てはないみたいね、別に起きてもよかったけど。
今は…朝の5時か。
すっかり目が覚めちゃったし、どうしよっかな。
みんなは……寝てる。
明日の早朝に出発するんだよね。
そういえば交流ってのはどうするんだろう。
ムニエルに聞いてみようかな。
ミラは昨日頑張ってたし、イルーナさんに通訳頼もう。
『海流や風の影響で、この島には我が船を案内せねば簡単には行き来できぬのだ。』(訳:イルーナ)
なるほど、つまりムニエルの同行が前提。
しかも神獣同伴ということで安全は保障されている、と。
「ずっとムニエルが往復することになるんじゃない? 平気なの?」
『大陸のことはそれなりに気に入ったからな。送迎が必要ならやるぞ。まぁ島と大陸の滞在期間は考慮してくれるとありがたい。』(訳:イルーナ)
ふーむ、1〜2月に1回…つまり2往復くらいなら平気なのかな?
イルーナさん達の生活もあるし、頻繁にはしない方がいいよね。
「ムニエル様もミカゲちゃんに会いたいですもんね」
イルーナさんの言葉に、ムニエルが慌ててそっぽを向いた。
なんだか可愛い。
ホントに大陸でなにやってきたんだか……。
「よっし! 思いっきりやりますか!」
今日は1日で出来る魔道具を全力で作っちゃおう!
リクエストは昨晩ミラが聞いてくれて、ボードにまとめてくれた。
メルルとアザレアも近くにいてくれる。
遠慮はいらん、やってしまえ……という事ね。
たまには全力ってのもいいかも……。
機能は試したから、性能を本気で上げるつもりでいこう。
「メルル、まずは石で箱を作るよ」
必要なのは、大きめのタンスほどの石の箱。
使ってない壁板を薄く切って軽量化。
それを箱型に組み上げていった。
次は魔石を作ろう。
ちょっと大きめになるかな。
シュイイイィィィィ
「魔石ってこうやって出来るんですのね」
メルルが感心しながら作業を眺めている。
そんなメルルは相転移空間の練習中。
元素の結合を緩めるイメージは伝えてあるから、今は魔力領域を作るのに慣れてもらう。
「魔石作るのに結構な量の魔力注ぐけど、メルルも今度やってみる?」
「い、いえ……さすがにその魔力量は無理かと……」
メルルの顔が引きつっている。
まぁ仕方ないか。
少し大きいとはいえ、メルル50人分の魔力を注いでまだ終わらないしね。
半分は過ぎてるからもうすぐ……。
「…………よし、出来た」
ふぅ…8割以上魔力持ってかれたから、ちょっとしんどい。
「真っ黒だねー。コンロと一緒」
「魔力を溜め込んで変質しちゃったの。これ自体が魔力を持ってるから、他の魔道具と組み合わせると、ずっと動き続けるんだよ」
無限じゃないから、時々魔力を蓄えたり、取り替えたりしなきゃいけないけど。
さて、次は魔石を半分に切ってと……。
魔石に熱の魔法陣、えーっと……+80度から-20度までをコンロみたいに調節できるようにして……。
その外側に風の魔法陣、境界内部をゆっくりと循環させて温度を逃がさないようにするっと。
それをもう片方にも描いて……おっけー。
あ、お昼の時間だ。
「準備は出来たし、もうすぐ完成するかも。でもつかれたぁ~」
「午前でほとんど出来てるみたいですし、お昼は長めに休みましょう」
メルルの言う通りに、のんびり休んだ後は仕上げの時間。
まずは箱の中を2段にする為に、間に板を取り付ける。
その2段の中から、奥と左右と上下に遮熱の魔法陣を描く。
うぅ、体勢がしんどい……。
描いてから組み立てればよかったかなぁ。
横はともかく下は心配だから、両段の下部分に台として板をかさねておく。
あとは箱の外側の上下段に魔石を張り付けて……。
そこから魔力のラインを引いて、入口の縁の内側部分を一周。
あとは箱の内側の辺部分にラインを描いて……出来たっ!
「メルル、試験お願い」
「お任せくださいですわ」
温度を最低と最高にして、それぞれ水をいれた容器を置いてもらう。
しばらくすると、温度を上げた方は湯気が出始め、下げた方は表面からゆっくり凍っていった。
あ、湿気を逃がせるようにした方が良いかな。
魔石に起動と停止の機能も付けておけば大丈夫だね。
外から触っても熱くないし冷たくない。
「うん、完成!」
「やったー!」
「お疲れ様ですわっ!」
注文にあった大き目の冷蔵庫を、がっつりバージョンアップさせてやった。
これでシーラさんも満足してくれるといいな。
……問題は私の方ね。
「2人とも、ゴメン」
「なんですの?」
「今から迷惑かけちゃう…から……」
緊張が解け、めまいがした。
大きな魔石作って、大量に魔法陣描いて……まぁ当たり前かな。
集中力も魔力もほぼ限界。
でも満足。
倒れそうになる私を、アザレアが抱き止めてくれた。
「もう、本気出しすぎだよ、おねーちゃん……」
「えへへ……ごめんね?」
新しく作った保温庫は、玄関に持って行ってもらうとして、今は休もう。
「おゆはんには起こすから、ゆっくりお昼寝してね」
アザレアに身を任せ、私は目を閉じた。
……しれっとお尻を撫でたメルルは後でチョップね。




