寂しい時は魔道具を作ろう
ミラの事はさておき、3人には自由にしてもらって作業再開。
「これでよしっと」
家の傍に壁板を運び終えた。
結構作ったと思うけど、大丈夫かな?
なんか想像してたのより枠組みが大きい……。
楽しく暮らせるようになるなら、なんでもいいけどさ。
「ドロシー様、皆様に壁をどう作るのか知っていただきたいので、今可能なだけ壁を付けていただけますか?」
「ん? わかったー」
メルルの言うとおりに壁を付けていく。
男達、ルティエちゃんはもちろん、いつの間にかイルーナさん達までやってきて見学している。
そして驚愕の声と、そのあとの歓声と拍手。
……ちょっと、いや結構恥ずかしい。
「と、とりあえずこれで大丈夫?」
「ありがとうございます、トイレの方は完成が近いですわ」
おお、人手が増えたおかげか早いねぇ。
次に呼ばれるまで、安心して任せておけるね。
さてアザレアの様子は……。
「わ〜〜〜〜☆」
ガガガズゾゾゴゴガガッ
た、楽しそうだね……。
なんだか私の知ってる耕作音と違う。
耕すのはアザレアの邪魔になりそうだから……看板とか柵でも作った方がいいかな?
それか水やりとかの便利な魔道具とか……。
ジョウロ貰ったからなぁ。
まずは柵でも作ろうかな。
釘もあるから簡単に作れるね。
いや待てよ?
どうせ侵入者とかいないんだし、必要は無い気がする。
うん、柵よりも何を育ててるか分かりやすくする看板がいいかな。
あとはー……水路?
うーんうーん…………やっぱりアザレアに聞いた方が良いね。
私は所詮、畑では素人。
勝手に手を出すとアザレアに怒られる気がする!
そんなわけでアザレアに聞きたいんだけど……耕すのに夢中だしなぁ。
…………他の事しよう。
メルルとシーラに手伝う事無いか聞いてみたら、「お任せください!」って断られた……。
むぅ、ちょっと寂しいな。
仕方ない、魔道具でも作ろう。
ミカゲちゃん達用にラクガキボードを少し作ってと。
ペンは良い案が浮かばないから保留かな。
家に欲しい魔道具は~……。
まずは魔法のコンロでも作ろうかな。
木に火を点けるだけのタイプだと、資源が有限だからね。
魔力を通して着火は今まで通りで良いとして……。
火の持続と調整と消火が必要だよね。
ん~、魔石で作るかな。
そうと決まれば早速開始!
まずは壁板の余りをコンロの大きさにしてっと。
板に魔力を吸収するだけの魔法陣を描く。
これで準備完了。
あとは魔力を大量に流し込むだけ。
「ほいっ」
シュイイィィィィ
ん~、流石に普通より大きいから時間かかりそう。
おっ、色が変わってきた。
魔力を大量に吸って蓄積し続けることで、石そのものが魔力を帯びる物質に変化する。
これが魔石。
魔法の存在のせいで科学がほぼ無くなってる現在では電池が作れないから、その代わりに使える魔力物質。
魔石という物を発見した時は嬉しかったなぁ。
蓄積できるエネルギーって便利だもん。
「ドロシー様! なにやらもの凄い魔力を感じます!」
ありゃ、シーラさんが慌てて来ちゃったみたい。
魔力を感知できるのね。
少し慣れてるメルルはこっちをチラ見してから作業に戻ったけど。
「ごめん、それ私のせいだわ」
「え……そ、そうですか。何をしてらっしゃるのですか?」
「んとね……っと、丁度出来たっ」
魔力を注いでいた石板は、すっかり真っ黒になっていた。
「それは?」
「魔石です」
………………。
「……ゑ゛っ!?」
驚いてるシーラさんはひとまず放っておいて、キッチンにいこう。
えーっと、コンロの1つを掃除してと……。
点火の魔法陣を、点火&消火&火力変化の魔法陣に描き替えて……。
魔石に向けてラインを引いて~……。
あとは魔石の上に発火の魔法陣を小さく数個描く。
「これで出来たかな」
なぜか横にシーラさんとミラがいる。
「ミラ、丁度良いところに」
「はい、今度は何を作ったのです?」
ミラってば、もう熟練のリアクションね。
「コンロを新しく作ってみたんだけど、試してくれる?」
「了解なのです」
使い方を教え、実際に動かしてもらう。
魔力を通して点火、魔法陣の外側をなぞって火力調整、そして魔力遮断の魔法陣で消火。
うん、実験成功。
「これは便利なのです」
「あとは実際使ってみて感想よろしくね」
「はいですっ!」
よーし、まず1つ終わり~っと。
「ドロシー様っ!」
「ふぇっ!? どうしたんですかシーラさん!」
なんだか無表情のまま涙目のシーラさんに呼び止められた。
「とんでもない一連の流れを見てしまい、頭が追い付かないのですが……どうか、どうか説明をお願いしますっ!!」
「えぇ……」
とりあえずシーラさんの事はミラに任せておこう。
どうやって?とか聞かれ始めたら長くなりそうだからね。
アザレアは種まきを始めている。
畑もだいぶ形になってきてるねー。
「おねーちゃん、欲しい物があるんだけど……」
様子を見に近づいたら、声をかけられた。
どうやら水を撒く手段が欲しいらしい。
「はいこれ、お土産の中にあった『ジョウロ』っていう道具よ」
「へぇ~」
中に水を入れて、水を撒いて見せた。
「すごいすごーい! これなら優しく綺麗に撒けるよ!」
アザレアはご満悦の様子。
「他に何かあったらいいなって言うモノはある?」
「えっと、何を植えたか分かるようになる物かな。ボードをここに立てておけたらって思ってるの」
なるほど小さな立て看板か。
私の案だと大きいのになるところだった。
「じゃあそれは作っておくね」
「ありがとうおねーちゃん!」
もうすぐお昼だから良いところで終わるようにと伝え、イルーナさん達の元へ。
のんびりと練習している様子だけど、アイラさんとケリー嬢がどうも上手くいってないみたい。
なんかすっごい集中してるけど……集中というよりは力んでいる?
なるほど、上手くいかないわけね。
「イルーナさん、もうすぐお昼だけど、なんだか苦戦してるみたいね」
「はい、私はそれなりに扱えるのですが……」
そう言って頭の大きさくらいの水球を、手に持っている。
さすが水棲族、水に関しては飲み込みが早い。
「午後はミラとシーラさんにも付き合ってもらいましょ、私もミラに早く教えたい魔法あるし」
そう言って、もの凄い形相で練習している2人に向き直り……
「2人とも力を抜いて、魔法の詠唱みたいにやりたいことを唱えるといいですよ」
「……と言われても」
「うーん?」
魔法も苦手なのかな、特にアイラさんは獣人だし。
それじゃあもう1つアドバイス。
ムニエルの加護がどういう力かは、ミラのを見てなんとなーく分かってるから、多分いけるはず。
「水に手を付けて深呼吸した後、「集まれ、集まれ」って言いながら、手に水がくっつく絵を想像してください」
「は、はい……」
「集まれ……集まれ……集まれ……」
「そのまま手をゆっくりあげて~……」
すると、2人の手には、スライムのように海水の塊がくっついていた。
『あっ。』
ばしゃぁっ
ビックリして集中が解けたのか、落とした海水のしぶきでずぶ濡れになるアイラさんとケリー嬢。
でも、すごく嬉しそうな顔をしている。
「今のコツを忘れないようにしてくださいね、そろそろお昼なので戻りましょうか」
『はーい!』
「ふふっ、よかったね、2人とも」
家に戻り、私を出迎えてくれたのは…………シーラさんの土下座姿だった。
「シーラ? 何してるの?」
ケリー嬢の声に、シーラさんはゆっくりと顔を上げる。
その目は私だけを見ていた。
「えと……な、なんでしょう……」
なんかちょっと怖い……。
ちょっぴり腰が引けてる私に向かって、シーラさんは叫んだ。
「先程設置したコンロ! 是非とも私めにもお恵みください! 何でもやらせていただきますからっ!!」
ん?
なんでもって……。