アザレアの欲しかったモノ
アザレアが寝ている間にさらに数箱。
「これは?」
「本でございます。サバイバルに使えそうな参考書と思える物をそろえてみました」
箱の中には『初心者の為の建築講座』『目指せ熊手の達人!』『世界の包丁大全』『主婦のお魚クッキング』など、沢山の本が詰まっていた。
これは助かるねー。
「ミラ、これ開いて中を読んでみて」
「? はいです」
本を受け取ると、ミラはわなわなと震え出した。
「ドロシーさんっ! 料理の仕方が沢山書いてあるのです! これはとんでもない道具なのです!」
「それが『本』というものよ。力を入れると破れやすいから気を付けて使ってね」
「りょっ了解なのですっ!」
そう言うと、ミラは恐る恐るページをめくり始めた。
そこまで慎重にならなくてもいいんだけど……まぁそのうち慣れるかな。
海の中には本という物は存在しないからね。
「トイレとお風呂が落ち着いたら本棚も必要になるねぇ」
「そうですわね、順番に片づけていかなくては……」
建築の本を見ながら、メルルは何かを考えている様子。
なんだか真剣だなぁ。
「ドロシー様~! アザレアちゃんが全然目を覚ましませーん!」
アザレアの様子を見てたイルーナさんが、困った顔で声をかけてくれた。
うーん、そこまで衝撃的だったのかな、花の種。
あ、寝ながら笑ってる。
幸せな夢を見てるんだねぇ。
「申し訳ございません、まさか見ただけで気絶するとは……」
「この島には花が無いですからねー、幸福の絶頂ってやつかな」
シーラさん達はなんだか嬉しい物をくれてるんだから、全然悪くないよ。
でも困ったねぇ、まだあるみたいなんだけどな。
起きるまで待つのもいいけど……。
「ドロシー様、ご相談が……」
シーラさんがアザレアを起こさないよう、小声で語り掛けてきた。
そして箱を───
「───えっ……あれ?」
「おはようアザレアちゃん」
「あ、ミラさんおはよう~?」
気が付いたアザレアが不思議そうにミラに挨拶をしている。
「おねーちゃんは?」
挨拶の後は必ず私かっ、可愛いなぁもう。
息をひそめてキョロキョロしているアザレアを少し見守り、後ろから声をかける。
「アザレア、おっはよー」
「あっ」
スッとアザレアの前に出ると……
「あれ、おねーちゃんがいつもと違うよ?」
「ふふっ、気づいた?」
「ん~?」
違う事には気づいたけど、それが何かはよく分かってない模様。
少し待ってみようかな。
私の後ろでイルーナさんやケリー嬢がカワイーカワイーって小声で叫んだり、メルルとシーラさんの荒い息遣いが聞こえたりするけど……。
まぁ放っておこう。
「えーっと……あれ? おねーちゃんの色が違うよ?」
色なんだ……その通りだけど。
「なにかなー?」
全体が見えるように少し下がりつつ、くるっと回転。
スカートがひらりと舞う。
「キャー♡」
いや、メルルの為にやってるわけじゃないからね?
なんか周りからの視線がスゴイ……。
「あっ! おねーちゃん服どうしたの!?」
おっ! 気づいた!
「どうかな? 着替えてみたんだけど、似合う?」
今の私の恰好は、水色のワンピース。
イルーナさんの色違いだね。
なんと最後のお土産は服だった。
無人島に流されて、服が1着しか無かった私にはとても嬉しい物だった。
それに……。
「おねーちゃん可愛いよぅ♡」
なんだか照れるなぁ……。
「ありがと、アザレアも可愛いよ♪」
「ふぇ?」
褒め返すと、なんだか分からないという顔をしている。
「アザレア様、こちらの鏡をご覧ください」
シーラさんが鏡を持ってきた。
アザレアが見る鏡には、アザレア自身の姿が映っている。
「えっ……これ………」
鏡を見た瞬間に、自分の体を見るアザレア。
自身の体を覆っている布を不思議そうにつまんでいる。
それは、水色のワンピース。
ふふふ、驚いてる。
そろそろいいかな。
「アザレア、どう? お揃いだよ!」
私はアザレアの横に並び、鏡を見るように促す。
そこには水色のワンピースを着た2人の姿。
キョトンとした顔のアルラウネの少女と、ニコニコ笑顔を抑えることができない魔女の2人が並んで映っている。
「わぁ、本当の姉妹みたいなのです!」
「ごふっ……アタシはもう……無理ですわ……」
「いいなー……わちしも欲しい」
……周りが騒がしい。
シーラさんやイルーナさん、ミカゲちゃんのお母さんまで口元を抑えてプルプルしている。
落ち着いてアザレアを見てられないんだけど……。
「おねーちゃん、これ……」
「とっておきのお土産だってさ、アザレアは服欲しがってたもんね」
アザレアが服に憧れてるのは既に分かっている。
……あのときはなぜかパンツ脱ぐ羽目になったけど。
「これ、アザレアの服?」
「そう、アザレアの服」
「………………」
その後も、服をつまんで、鏡を見て、私を見て、また服をつまんで……。
信じられないといった顔で、自分の姿を見続けている。
その姿をみんなで優しく見守っていると……。
「ぐすっ……ぅ………ぅえぇぇぇぇ~~」
「アザレア様っ!」
『アザレアちゃん!』
突然泣き出したアザレア。
それに驚いて声を掛ける面々。
「アザレア……」
泣き出す理由なんて、そんなの最初から分かってる。
口には決して出さなかったけど、時々私の服を羨ましそうに見てたよね。
私はそっと、アザレアの頭に手を添えた。
「よかったね」
そう言って、優しく抱き寄せ撫でてあげた。
「わ~~~~~ん!!」
よしよし、嬉しいよねー。
ホント、よかった……。
いつの間にか、私はちょっぴり泣いていた。
───さて……。
私達2人の周りで、真っ赤になって口を押えてる人達と、泣いてる人達と、鼻血と涙を垂れ流してる数体の死体をどうするかね。
「し……死んでませんわ……」
なぜ私の考えてる事がわかったのか。
シーラさん、死んだまま鏡の下敷きになってるよね、ちゃんと生きてる?
あ、いい笑顔で親指立ててる。
おっけーこのまましばらく死体でいてもらおう。
えーっと時計は……10時前か。
ミカゲちゃんは、もう寝てるね。
ってちょっとお母さん、ミカゲちゃん放置してなに口押さえてうずくまってるの。
やれやれ……。
「それじゃあ夜も遅いし、お土産をまとめてから寝ますか」
「了解なのです」
「どこに置けばいいですか?」
「箱閉じて、玄関の方にまとめておきましょう」
「はーい」
指示を出すと、イルーナさんとアイラさんが率先して動き始めた。
「アザレア、大丈夫?」
「うん♡」
嬉しそうに顔の色を濃くしながら、笑顔を向けてくるアザレア。
私の手を握ったまま離そうとしない。
ペアルックが嬉しいのかな。
私は嬉しいけど。
「魔女様とアザレアちゃんっていつから付き合ってるの?」
「はいっ!?」
ちょぉっ! 何言ってるのミカゲちゃんのお母さん!?
あとみんな一斉にこっち見ないで!
シーラさんなんか潰れたまま鼻血まみれの顔をコッチ向けて怖いしっ!
めっちゃホラーだしっ!
「付き合ってるってなぁに?」
「わぁっ! ちちちがうの! なんでもないのよっ!?」
思わず謎の弁解をしてしまった。
「アザレアちゃん、恋人ってわかるー?」
「うん、好きな人同士の事だよね」
アイラさんがとんでもない話をアザレアにし始めている!
「アイラさんっ! ちょっと待って───」
「こらアイラ、そこまでー」
私の代わりにイルーナさんがアイラさんを止めてくれた。
助かったのかな……。
「ドロシー様が不貞寝したの、もう忘れたの? 少なくとも今日はいぢっちゃ駄目」
「あーそんなつもりじゃなかったけど……うん、ゴメン」
ほっ……。
「イルーナさん、ありがとう」
「いえいえ、あまり迷惑はかけたくありませんから」
イルーナさんが常識人でよかったぁ……。
いつの間にか箱はほとんど玄関へ運ばれていた。
「それじゃあお布団とか用意できなくて申し訳ないですけど、好きなところで寝ちゃってください」
「大丈夫ですよ、船よりずっと快適ですから」
貴族のケリー嬢が言うなら大丈夫かな、っていうか船そんなにつらかったのか。
毛布も持ってきてるし、心配無さそう。
いつの間にかシーラさんが生き返ってる。
あ、鼻血も跡を残さないくらい綺麗に拭かれてるね、流石はメイドさん。
「それじゃあアザレア、寝よっか」
「うん♪」
一緒の服を着て、互いに微笑みあって……考えると照れちゃうけど、いいかもしれない。
出会ってからずっと妹のように思ってたけど、アザレアはどう思ってるんだろう。
本物の魔女になってからは、深入りしないようにしていた人付き合い。
無人島に来て1人でのんびりしていた筈なのに、いつの間にか人に囲まれて……私、本当はどうしたいんだろうね。
この子と離れるなんて、想像したくないな……。
でも……わた…し……は…………
……すぅ……すぅ……。




