ムニエルの冒険 ドロシア村の伝説
───今から約230年程前、天暦1492年
魔物が大量発生し、大氾濫という大事件が起こりました。
かつてない規模の魔物が押し寄せ、いくつもの街や村が犠牲になったと伝えられています。
海の近くにあった獣人が集まる村も耐えてはいましたが、いつのまにか村ごと魔物達に囲まれ、誰もが生きることを諦めました。
その時、眩い光が辺りを包み込み、爆音が大気を揺るがせたのです。
光が収まると、そこには魔物たちの姿は無くなっていました。
唖然とする村人達の前に降り立ったのは1人の人間の少女。
光を放ち、魔物を消したのはこの少女だったのです。
今だけでも魔物が入ってこないようにと、少女は村に秘宝を授けました。
村人達は大いに感謝し、その気持ちを忘れぬよう少女の名を訪ねました。
「私はドロシー、ただの魔女よ」
名乗った少女の名前と姿を、村人達は心に深く刻み込みました。
そして再び魔物の群れを鎮める為に、飛び立って行ったのです。
しばらくして魔物の大氾濫が収まり、国中に平和が戻りました。
村人達はその時の感謝を込めて、村の名を『ドロシア』と名付けましたとさ───
パチパチパチパチ
この村にはそんな言い伝えがあったのだな。
しかしそのカミシバイとやらに描かれた魔女の絵は…ものすごく見たことある気がするのだが。
「その時授かった、魔物を退けるという秘宝は力を失いましたが、今もこうしてドロシア村に大切に祀られています」
「はー、知らなかった。街の近くにそんな村があったなんて」
「ケリー様はもう少し領地と周辺のお勉強をなさってください」
「ナズナさん、ありがとうございました」
──なぜこの村の観光をしているかと言うと。
『ドロシア村と言うのか……』
「あ、そういえばリヴァイアサン様はいつの間にか村にいらしてたので、名前を知らなかったのですね」
まぁ気にしてはいなかったな。
シーラは知っていたようだが、ケリーは初耳なのだな。
……ケリーが知らないのは問題なのか?
いや、そんなに睨んでやるな、本気で怯えておるぞ……。
「名前の由来に関しては物語になっていて、マニア向けの観光名所にもなってるんですよ」
イルーナが活き活きしているな。
その物語が好きになって、この村に住み着いたのか。
……しかし名前の由来か、気になるな。
ん? どうしたシーラ?
観光か、良いかもしれぬ。
どうやら村に少しのお金を渡す事で、案内を受ける事ができるらしい。
ケリーの社会勉強?
良いのではないか?
我も興味がある、付き合おう。
村に到着したか。
では早速観光へと行くとしようか。
ん?
「へびしゃーん!!」
ミカゲか。
おっと、いきなり我に登ろうとするでない。
まったく世話の焼ける……。
なんだアイラよ、なぜ笑っているのだ。
そういえば着いて早々、イルーナがおらぬようだが?
む、戻ってきた。
その者は何だ?
「この方はこれから観光案内してくれるナズナさんです」
山羊の獣人か、よろしく頼むぞ。
───という事で、我はミカゲを頭に乗せながら話を聞いていたのだが……。
「ミカゲちゃん寝ちゃったねぇ」
……我はこのまま動いても大丈夫なのか?
流石にこのような幼子を落としたくはないぞ。
アイラよ、預かってはくれぬか?
……嫌とか言うな。
まったく、慎重に動くしかないか。
ナズナとやらがお菓子というものを持ってきたようだ。
今の昔話を聞いた者達に配る特産品らしい。
ともあれ観光案内は終わった。
……うーむ、やはり気になる。
折を見てイルーナ達に相談してみるか。
起きたかミカゲよ。
「おあよ…へびしゃ……」
あまり動くな、落ちるではないか。
ああもう、そんなに頭を撫で回すでない。
なんだ、遊んで欲しいのか?
しょうがないヤツだ。
泡に入れてやろう。
「あわ〜、きゃあ! すごぉー! ふぁふぁ〜!」
どうやら楽しいらしい。
ふっ、可愛いものだな。
……イルーナにアイラにケリー、そのニヤニヤした笑顔はなんだ?
シーラも顔が緩んでおらぬか?
いったい何だと言うのだ。
「ところでケリーとシーラはこの後どうすんの?」
アイラめ、露骨に話を変えたな。
どうやら村の体験や調査をし、ケリーに色々と学ばせたいようだ。
領主の娘というのは世間に疎いものらしい。
「じゃあウチはみんなに知らせてくるよ」
「うん、こっちは任せて」
どうやら今夜も宴会になるらしい。
ケリーとシーラをもてなすのだとか。
『実は忙しい村なのか?』
「いえ、リヴァイアサン様に続いて領主様関係なので。こんな短期間に宴会を2回とかは普通無いですよ」
「宴会という事は、どこかにお屋敷があるのかしら?」
「ふふ、まさか。賑やかなのは確かですよ」
ケリーとシーラが訝しげな顔をしているが、夕方までまだあるな。
ミカゲはまだ泡の中で回転しながらキャーキャー騒いでおるな。
元気なことだ。
「ところでイルーナ様、我々が宿泊する場所はあるのでしょうか?」
「何言ってるのシーラ、宿に泊まれば良いんじゃないの?」
「あ、すみません。宿は無いので寝る場所を用意しないといけないですね。あっちにナズナさんがいるので相談しに行きましょう」
ふむ、行くぞミカゲよ。
そんなにグルグル回るな、目を回すぞ。
む? 遊んでいる間に話はまとまったようだな。
男が集会所、女がイルーナの家。
つまり、鉄を着た者達が集会所とやらで、ケリーとシーラはイルーナの家で寝るということだな。
「リヴァイアサン様も私の家ですよ」
我もなのか。
ナズナとやらが集会所の清掃に行ってしまった。
シーラも馬車を呼びに行ったな。
「それにしても宿もお店も本当に無いのねー」
「うん、私はのんびりとしたこの村が大好きなんです」
「そっか……」
2人共、畑を眺めておるだけだが、優しい顔をしておるな。
ん? シーラが呼んでおるぞ。
馬車を集会所とやらまで移動するのか。
ついて行けば良いのだな。
行くぞミカゲ、そろそろ我の頭に戻るがよい。
「いやー! 兵士さんがいっぱいいたから、村の男たちがテンション上げて飲みまくって大変だったねー!」
と言いながら楽しそうだなアイラよ。
「アイラってば顔赤いよ? 飲みすぎてない?」
「へーきへーき♪」
うむ、駄目そうだな。
イルーナの家に寝泊まりはいいのだが、なぜかミカゲも居るのだが?
「ミカゲちゃんのお母さんに『今夜はよろしくね』って頼まれちゃいました」
良いのかそれで。
……良いみたいだな。
なぜ我を見る。
尾にぶら下がるな、危ないぞミカゲよ。
『……ところでイルーナよ、実は気になってる事があるのだが』
「はいなんでしょう?」
『カミシバイにあった魔女は、今はどうなっておるのだ?』
「私はそれほど詳しくないので……でも人間ですし200年は生きられないと思うのですが」
やはり別人か?
「リヴァイアサン様、イルーナ様。その魔女様は今も何処かで生きていらっしゃいます」
『だがしかし、魔女とはいえ人間ではないのか?』(訳:イルーナ)
「魔女ドロシー様は、世間では『悠久の魔女』と呼ばれ、幾千年を生きているとも、不老不死とも言われている存在なのです」
なんというか……。
主はそれほどの方だったのか……。
それならばあの魔力も納得できる。
我はとんでもない主を持ってしまったのか?
……いや、話が真実であれば、誇りに思うべきかもしれぬな。
「どうしました? リヴァイアサン様」
『いや、今分かった事なのだが、その魔女は……』(訳:イルーナ)
いや待て、言っていいものか……。
……この者達なら信用しておるから、言っても構わぬか。
海流任せの船では島にはたどり着けぬのもあるが……主の分も含め、買い物で世話になったしな。
『その悠久の魔女はおそらく、島に住んでいる我の主だ』(訳:イルーナ)
「って…え?」
「へ?」
「うっぷ……」
「な……」
「わきゃーい♪」
『ええぇぇぇぇぇ!?』
「おえぇぇぇぇ……」
ええい外に向けてるとはいえ汚いぞアイラ!




