願いよ、トイレに届け
困った事になった……。
そろそろ限界かもしれない。
今いる場所はアザレアの腕の中。
こんなところでするわけにはいかない。
もじもじ……
きっと言えば地面に降ろしてくれるよね?
「ね、ねぇアザレア……」
「なぁに?」
相変わらず笑顔が眩しい。
「あのね……トイレに行きたいんだけど……」
「あ、はーい。 ねぇメルルさん、おねーちゃんがトイレ行きたいんだって!」
「わ゛あぁぁぁぁっ!!」
せっかく小声で言ったのに大声で言い直さないでっ!
「いいですわね、みんなで行きましょうか」
「なんでっ!?」
なんかおっそろしい事言い出してやがりませんか!?
みんなに囲まれて用を足すの!?
絶対おかしいよね!?
「え? 私はいつもメルルさんに連れて行ってもらってるのですよ?」
「そうなの?」
「アタシも一応スライム程度であれば召喚できますわ。トイレで少し大きめのを呼び出して、メルさんに渡しているのですわ」
そんな事してたんだ……。
「スライムのおかげで、海中でするのと感覚が似てるのです」
「えぇ……」
その発言はちょっと……。
でも生態的には全然おかしいこと無いし。
私の方がおかしい? おかしくないよね? 多分。
「わかりますわ、アタシも水や海の中でするといつもと違う気持ちになれますの」
真顔で何言ってんのこの変態は?
「おねーちゃん、アザレアも興味あ───」
「やめなさい」
もう、なんだか話が逸れてるよ。
「トイレは一人で行きたいんだけど……」
「駄目だよおねーちゃん!」
「いけませんわ」
「私達がついているので安心して欲しいのです」
「そこまで一斉に拒否する!?」
もー…ついてくるから安心できないんだってばぁ。
あぅ、これ以上ツッコミいれたらちょっと出そう……。
マッサージの時から服は着てないのが今は救いだけど、アザレアに思いっきり被害が出ちゃう。
「アザレア……はやく……」
もうアザレアだけだったらいいよ!
はやくトイレに連れてって!
「おねーちゃんってば、そんなにグイグイ引っ張って……甘えん坊さんだね♪」
ちがーう!!
ツッコミそうになるだけで力がこもってヤバイ……。
蔓で体が固定されてなかったら全力で逃げるのにぃ。
「ドロシーさんが限界を迎えそうな顔をしているのです」
ミラが気づいてくれた。
「ならばチャンス……ではなく最後の手段ですわ!」
今チャンスって言わなかった?
「この器になさって下さいまし!」
「できるかーっ!」
それ器じゃなくて手だから!
「ひぅっ!」
あ…ヤバ……。
もう限界、次叫んだら確実に終わる。
「おね…がい………もう……」
もうみんなに懇願するしかない。
というか普通に泣きそう。
「……はぁ、ドロシー様がそんなに嫌がるなら仕方ありませんわ。こんな事もあろうかとこれを用意してありましたの」
そう言って取り出したのは、スライム。
………まさかっ!
「えっ……ここ…で?」
思わずアザレアにしがみついた。
「あら、ドロシー様は何を想像してますの?」
「ぁ……ぇ……ぅ…………」
何って、見てる前で用を……。
「用を足してるのをじっくりねっとり拝見したいですが、今のドロシー様は耐えられないと思いますわ」
なんかいろいろバレてる気がする。
恥ずかしい……。
「さ、しっかり覆いなさいな」
メルルがスライムを、私の太腿に置いた。
すると、スライムが私の下半身を覆っている葉の中へと潜り込んできた!
「ぴゃぁっ!!」
びっくりして漏らしそうになった……。
スライムはあっという間に纏わり付いて、動きを止めている。
「なにこれ……」
見えないけど覆われてるのが分かる。
「スライムオムツですわ」
………………。
一瞬気が遠くなった。
え? 私かなりいい歳してるよ?
オムツはないよね? ねぇ?
「アザレアちゃん、腰から下をしっかりと覆ってあげて下さいまし。……これで見られる心配はありませんわ。思う存分お出しになって下さい」
お出しになってじゃないよぉ!
「ドロシー様、これは大事な事なのですわ」
「ふぇ?」
「飲食をすると、どうしても不必要な物が身体に溜まっていきますの。それをしっかり外へと出さないと、体への負担となり、病に侵されることもあるのですわ」
メルルが真面目に解説してくれる。
「出すことを恥ずかしがる事は良くないのですわ。ドロシー様にはもっとお身体を大切にして頂きたいのですわ」
「う、うん……」
メルルの言うことは正しい。
………でも。
「それってトイレに行くだけで解決する話───」
「わき腹が隙だらけですわ、えいっ♪」
つんっ!
「ぅきゃあっ!」
あっ………………。
「アザレアちゃん、ドロシー様をしっかり抱きしめてあげて下さいな」
「はーい。おねーちゃん、いい子いい子♡」
こうしてトイレを掛けた私の試練は、敗北に終わった。
「お風呂気持ちいいねー」
「うん」
まだ数日なのに、4人でお風呂ってのも当たり前になりつつあるなぁ。
今日はアザレアに抱かれたまま入ってるけど。
「もうこんな介護はこりごりよ」
思い出して思わずため息をついた。
「疲れは取れたのですか?」
「余計疲れたわ……」
さらにため息。
「マッサージ初めてだったから、ダメだった?」
「ううん、マッサージは凄く良かったよ。気持ちよくって寝ちゃったし」
あれはまたやって欲しいなぁ……。
「ただ、夕飯からは逆に疲れたんだけど、どういう事かな? メルルさんや」
「ゔっ……それは、その……」
メルルに対してチクリと攻撃。
まったくもぅ……。
「ド、ドロシー様とアザレアちゃんのコンビが尊すぎて、ついつい我慢出来なくなってしまいますの……」
我慢出来なくなる気持ちは分かるけど、そこに私が入るのは何でよ……。
「もー、徹底的にやられる私の身にもなってよね」
「うぅ……」
少しくらい自重してくれたら嬉しいなぁ。
ふぅ……。
いい湯ね。
「あ、そーだ。ミラ、家が落ち着いたら自由に移動できるように魔法の特訓でもする?」
「いいのですかっ!?」
「もちろんよ、アザレアも一緒にね」
「やったー!」
2人とも嬉しそう。
ミラが地上であまり動けないのはもったいないものね。
「あの……ドロシー様、アタシは……」
「いじわるとセクハラばっかりするからヤダ」
「はうっ!?」
っていうか、貴女はもともと魔法得意でしょーが。
といってもこれじゃ仲間はずれみたいだし。
「冗談よ、メルルは何かやりたい事あるの?」
「うぅ……お情け感謝致しますわ……生活に使えそうな魔法が増えたらと思っていますの」
「分かったわ、希望があったらその時教えて頂戴」
これで全体の生活能力が上がれば、島の開拓も進むかもしれない。
新しい食べ物とか見つけたいなぁ。
そういえば。
「ねぇ、メルルとミラは、この島周辺でまだ手に入れてない食べ物とか、探してみたいと思う?」
まだ2人は島探索してないから、私じゃ見逃す物も探せるかもしれない。
「森に行けばキノコや他の物も見つかるかもしれませんが、アザレアちゃんほど植物に詳しいわけではありませんわ……」
うーん、そうだよねぇ。
「海でしたらお任せなのです。魚以外でしたら、カニやエビ、寒天の材料、イカタコ、他いろいろ見つかるかもしれないのですよ」
ミラが有能過ぎた。
「凄いですわっ! 料理のバリエーションが一気に増えますわー!」
「ミラさん天才だよー!」
「そういえば海の幸が豊富なの、すっかり忘れてたよ」
超巨大魚が獲れてからは困ってなかったからなぁ。
「今まではムニエルがお魚獲ってきてくれてたもんね」
「ムニエル? 誰なのです?」
そういえば2人は入れ違いで島に来たんだった。
「一緒に暮らしてる大蛇なんだけど、いつもお魚獲ってきてくれたのよ」
「ペットですの?」
「ううん、家族なの。そういえば最近見てないけど、ムニエルどこ行ったの?」
ぎくり
そ、そういえばいつ帰ってくるんだろう……。
「え、えーっとね、あの大きいお魚を追い立てたのが、実はムニエルでね。本人に悪気はなかったんだけど……津波起こしたお仕置きとして、アザレアが喜ぶお土産でも探してこいって言っちゃったのよ……」
数日帰ってこないってことは、きっと真面目に探しに行ってるんだろうなぁ。
元気でやってるといいけど。
「そうなんだ、早く帰ってくるといいね!」
「そうねー」
「それまでに今の家を完成させちゃうのです!」
「ふふっ、アタシ達新人の事も含めて驚かせてあげましょう」
楽しみが増えちゃったね。
「アザレア、そろそろお風呂から上がろっか」
「はーい」




