ムニエルの冒険 獣人族の村の宴
ざわざわ……
なぜ我は人に囲まれておるのだ……。
この村には警戒心が欠落しておるのではないか?
「この後皆で宴会をするのですが、大蛇様もいかがですかな?」
宴会か、その前にリアクションくらいとれるようにしておかねば。
すまぬな幼子よ、ちょっと頭から退いてもらうぞ。
「きゃあ、しっぽしっぽー」
これで頭が自由になった、返事ができる。
「おお、参加していただけるか! 皆の者! 宴の準備じゃあー!」
『おぉー!!』
ううむ、なかなか活発な村だな……。
「宴の時は村から全員集まりますでな、まぁもてなし程度に思ぅといてください」
悪い気はせぬ。
今回くらいは良いだろう。
それに───
「きゃはー! しっぽふりふりー!」
すっかり懐かれておるしな。
変わった建築物だな、屋根と柱だけで壁が無い。
その屋根の下や外に何か敷いてある。
ここに村人が集まって宴をするのか、なるほどな。
「おーあんたが噂の大蛇様かー! いいツヤしてるなぁー!」
「わーすっごーいながーい!」
「言葉が通じるんだってな?一緒に飲めるってことかい?」
「んなこと言ってもウチらは蛇の言葉なんてわからないよ?」
賑やかになってきたな、ざっと20人程度か。
村人が皆家族のようなものなのだろう。
島にいる我々と同じだな。
「ところでミカゲはずっと大蛇様にくっついてるのかい?」
「ほっほ、えらく気に入ってしもうたのぅ」
「うにゃー」
一体我の何が気に入ったのだろうな。
「む? 全員そろったかの? では始めるとするか」
ゴンゾーと呼ばれる老人が立ち上がると村人が注目した。
「よく集まってくれたの。4時頃にミカゲを見失ったのは知っておるな?この大蛇様が水車の辺りから連れてきてくださったのじゃ。どうか客人としてもてなしてやってくれい」
「うおーっ!」
「ありがとー!」
「よっしゃ飲むぞー!」
どうやら村人は騒ぐのが好きなようだな。
こうして見ると獣人族以外にもちらほら別種族が混ざっておるようだな。
む?獣人族が2人、皿を持ってこっちに来るが……。
「大蛇様、今日はミカゲを見つけてくださりありがとうございました」
「ゴンゾーじいさんから大蛇様は生の魚を所望と聞いたので、こちらをどうぞ」
ほぉ、これは有難い。まだ獲れたてではないか。
いただくとしよう。
この2人はこの娘の親なのだろう、面影がある。
「この魚はあちらにいるセイレーンのイルーナが獲ってきたのですよ」
セイレーン? 水棲族がいるのか?
あやつか………何か青くなって震えておるようだが?
「イルーナさっきからどうしたの?大蛇様を見てから固まったままよ?」
ガタガタガタガタ
ああそういう事か、我に気づいた訳だな。
水棲族だから試しに語りかけてみるとしようか。
『イルーナといったか、頼みがあるのだが来てくれるか?』
「はっはイぃ!!シュぐ行きますっ!!」
声が裏返っておるぞ……。
「えっ何、どうしたのイルーナ?」
我の声が聞こえぬ隣の獣人族の娘は驚いておるな。
「ごめんねアイラ、ちょっと呼ばれちゃって……行ってくるね」
「誰に?」
「大蛇様……」
すまぬ事をした気がするが、今日のところは世話になるとしよう。
「おおおまおまたせしししましまっ! きょっきょうはおひがらもよよよくっ!」
「イルーナ、噛みすぎだけどどしたの?」
結局友人も一緒に来たな、別に構わぬが。
それにしてもこのイルーナという娘、緊張しすぎではないか?
『大丈夫か?一度水でも飲んで落ち着いてくれ』
「は、はい………んぐっんぐっ……ふぅ……。すみません落ち着きました」
「え、もしかしてイルーナってこの大蛇様とお話できるの?」
「なにぃー!イルーナすげーなぁ!」
「違うよっ! 水棲族ならきっと誰でもお話できるよー!」
絡まれておるな。
うーむ、落ち着くまで待つか。
「はぁ、疲れた……お待たせしました……」
ようやく解放されたか。
『うむ、すまぬが我の通訳を頼みたいのだ、意思疎通が難しくてな』
「は、はい。頑張ります」
これで人との会話が可能になった。
「ところでイルーナ。この大蛇様って結局何なの?」
「そーだぜイルーナちゃん! 言葉を理解する蛇ってなんなんだい!?」
「ちょ、ちょっと待ってねアイラ……あの……」
やはり気になるか、全員が注目しておるしな。
『別に隠してる訳ではないから構わぬ。それに知ったからといって何かするつもりもないぞ』
普通は神獣など畏れられるものだからな。
イルーナの反応は尤もである。
「許可を得たから紹介するね。……このお方はリヴァイアサン様、海に住まう神獣です」
………………。
『えええええええええええええ!!!』
ああもう、全員が叫ぶとさすがにやかましいな……。
「ありがたやありがたや…………」
「なまんだーなまんだー」
うぅむ……名が知れるとこうなるのか……。
『拝まれても実際困るのだが……』
「あはは……」
どうやらイルーナもこれには困っているようだ。
「へびしゃんしゅごいのー?」
このミカゲという娘は食事の後もずっと我の尾にくっついている。
「すごいんだってさー、神様の獣だよー」
アイラという娘がミカゲの相手をしてくれている。
しかし村人達がこれでは通訳の意味が無いな。
『そろそろ話を進めたいのだが……』
「あっそうですよね!あの、皆さんリヴァイアサン様から話したいことがあるんだって」
「そうじゃの、皆の者落ち着けぃ」
急ぐわけではないが、収拾がつかないと地味に焦るものだな。
こうやっておとなしくなった村人を見てみると、森人族のホビット、妖花族のドリアードとアルラウネ、亜獣族のワーウルフも混ざっておるな。
基本は獣人族のようだが。
『実は───』
「えっと、リヴァイアサン様が言うには、今とある島で暮らしていて、役に立ちそうなものを持って帰りたいと思ってるって」
「例えばどういうものが欲しいのですかな?」
「魚と野草以外で育てられる種、人の暮らしに役立ちそうな物、あとアルラウネの子供が喜びそうな物……だって」
よく考えたら、我には分からぬものばかりだな……。
「リヴァイアサン様の島ですか……。この小さな村で大したものが用意できるかわからんですが……」
「島には無い物ならなんでもいい、ですって」
『我が知っているのは、魚、野草、塩、花蜜、海藻くらいだな、作っているのは人だが、それでやりくりしているのを見たぞ』
主が他に何かを使っていた事がないから、これだけなのだろう。
「ずいぶんハードな生活なんですね……」
『無人島だからな、最初は魚だけだったのだ』
「住人はどういう方が居るんです?」
『人間族と妖花族のアルラウネだ』
「わかりました、では相談してみますね。スズネさーん!来てー!」
『ああ、すまぬな。あと7日程この地を探索してから島に戻るつもりだ、要求するつもりも急かすつもりも無い、良さそうな物があれば教えてくれるだけでいい』
「はいっ」
む、アルラウネの者を呼んだのか、あとは任せておいた方がよさそうだな。
後日にでも村に礼をしておきたいものだ。
さてミカゲよ、我の頭に乗るがよい、少々遊んでやろう。




