はじめてのワガママ
「あのね、やっぱり食べさせて欲しいの」
なんという甘えん坊さん!そんなこと言ってるとおねーちゃん全力で貴女を養うわよ!?それでもいいの!?
「ふふ、アザレアがそれでいいならやってあげるね」
早速スプーンをアザレアの前に──。
「あっ、ちょっと待って!」
おやおや?
「どうしたの?食べさせようとしたけど、なんか違った?」
「うん……とね……」
なんだかモジモジしてる。
うーん?この子は何を望んでるんだろう?
待っててあげたほうがいいよね。
「その……その………」
………………………。
スープが完全に冷め、さらに暫く経った……。
「……あの、アザレア?」
「…えと………ひゃいっ!?」
この子大丈夫かなぁ……。
スープを温め直しながら優しくお話タイム。
「……ごめんなさい……」
「謝んなくていいよ。そんなに言いにくい事なの?」
「う……」
顔の色が濃い。言うのが恥ずかしいのか、内容が恥ずかしいのか。
それよりも、この申し訳なさそうな顔がいたたまれないなぁ。
プランBに移りますかね。
「じゃあ、私からは貴女が何をしたいのかが分からないから、少しずつ誘導してもらおうかな」
「誘導?」
「そ。『スプーンでスープをすくって』とか、『そのままアザレアのお口に入れて』みたいに私を動かしていくの」
もし最終目的を言うのが恥ずかしいのなら、これで進めやすくなる筈。
上手くいくかな。
「が、がんばる……!」
うんうん、頑張って成長しようね。おねーちゃん応援してるぞ。
お、いい感じにスープも温まった。
「よ……よしっ!少しずつ、少しずつ」
気合いを入れるアザレア。
さて、どうくる?
「あっあの!おねーちゃん!スープをね、スプーンですくってちょうだい!」
「よしきた。これでいいかな?」
言われた通りにスープをすくってみせる。
「う…ん。次はそれをね……おねーちゃんのお口に入れて欲しいの……」
「へ……?」
なんだって?
「ぁ…ダメ……かな?」
申し訳なさそうな可愛い目と消え入りそうな可愛い声のダブルパンチが私に突き刺さる。
ぐっ……ここで私が倒れる訳にはいかない!
「だだだ駄目じゃないよ!?でも、私が食べるの?」
「ううん、お口に入れるだけ」
うーむ、よく分からないけど、やるしかない。
「分かった、私は喋れなくなるから、誘導よろしくね?」
アザレアがコクコク頷いた。
「それじゃ、あむっ」
口に含んだけど、さぁお次は何かな?
「一応、手に持ってるスープとスプーン、ここに置いて……」
え、置くの?
何がしたいんだろう…置いたけど。
「次は…目を閉じて?」
ええ、見えなくなるけど大丈夫なのかな?
だんだん訳が分からなくなってきた…。
「あ、ごめんね。ちょっとここ掴んでて」
私の手がアザレアの蔓か何かに誘導されて、何かを掴んだ。
なにこれ?柔らかいんだけど?
ちゃんと掴んでないと、前のめりになってバランスが崩れそう。
「下向いてくれる?」
やけに間近で聞こえるアザレアの声に従い、下を向いた。
ちゃんと口閉じてないとスープ溢れちゃうね。
「ありがと、おねーちゃん。手はそのままでお願い。それじゃ、いただくね?」
え?いただく? 私の手は使えないし食べさせてあげられないよ? 一体何を言っ───
むちゅっ
私の唇に柔らかいものが……なんか昨日もこんなことあったような……?
恐る恐る目を開けると、アザレアの目だけが見える。
超至近距離だし! もしかしなくてもアレしてるんだよね! 昨日と同じだよね!
しかも見えないけど私の手の位置って、アザレアの脇の近くにない? 柔らかいよ?
くちゅ…
いやちょっと!? また私の口に何かが入ってきてるよ!? スープ入ってるんだよ!? 溢れるよ!? お願い届いて私の心の叫び!
ピチャピチャ…ごくり
こじ開けられた私の口から、下にいるアザレアの口に流れている。そしてそれを飲み込む音。
めっちゃ飲まれてるぅー!
急いで離れ……『手はそのままで』って言われてたんだった!
ううう…せっかくの『ワガママ』を無下にするわけには……。
レロ…クチャ…
考えてる間にも、私の口の中は丹念に撫でられている。
いや嬉しいけどさ、滾るけどさぁ、なんか罪悪感というか……。
あ、やばい、ちょっとボ〜ッとしてきた……。
「ぷふぅ〜♪」
アザレアが急に離れてしまった。
……えっ……?終わ…り?
「おいしい!!」
朝とは違うスープの感想。
満面の笑みを浮かべているアザレア。
どういう事? 朝の残りなんだけどなぁ。
「とっても美味しいよ! おねーちゃん!」
「う…うん、よかったね?」
何だろう、体がウズウズする……。
モジモジ…
「ねぇおねーちゃん」
「ひゃひっ!?」
変な声でちゃった!?
「にゃ……なぁに?アザレア……」
ヤバイ、噛む、変な汗出る……。
落ち着けないっ!
「あの…これ……」
私の前に差し出されたアザレアの為のスープ。
あ、もしかして。
「いい…かな?」
「おまかせ下さい、お嬢様」
あれ?なんで私、即答しちゃってるの?しかも今絶対変なこと言った。
まぁいいや、早く飲ませてあげなきゃ。
私の可愛いアザレアに───。
拝啓 お祖母様の弟の友達の妹キャサリン様
私は今、意識だけお花畑にいます。
度重なる唇の柔らかさと、口の中を掻き乱される感触に正気を保つことが出来ませんでした。
ええ、無理です。
スプーン3杯目までは頭がボーッとする程度でした。
しかしそれ以降は私の足腰が震えて立つことも出来ませんでした。
息も乱れっぱなしで、何かを考えるという事も不可能なのです。
口の中を支配されただけだというのに、全てを持っていかれる気分でした。
10杯目を超えてからの記憶は殆どありません。
目の前に居る花の美少女が、世界の全てのような気がします。
はっきり言って天使すぎます。
私などが側に居てもよろしいのでしょうか。
あぁ、手持ちのスープが終わってしまったようです。
残念ですがここまでのよう………最後の一杯がやけに長いですね。
大分前から体が痙攣して、なにやら下からそれなりの水分が出ているのですが、この後大丈夫でしょうか。
少々心配です。
おや、アザレアの気が済んだ様ですね。
これより私は少々気を失うことでしょう。
悔いはありません。
それではキャサリン様も、私の妹の夫の従兄弟の母のペットのご飯になったネズミのジョージ君によろしくお願いします。
生前の貴女と面識の無い魔女ドロシーより
「おねーちゃん、おはよう…?」
はふぅ……。
「おはよ、アザレア」
変な夢を見た気がする。
知らない故人に意味のわからない手紙を書くような、そんな夢。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
またアザレアに抱かれて寝ていたようだ。
「お昼御飯、どうだった?」
「最初は恥ずかしかったけど、幸せになるくらい美味しかったよ!」
うーん?どういう事だろう。
「スープの味は朝と同じ筈だったんだけど……」
アザレアは少し顔の緑を濃くしながら…。
「だって、おねーちゃんのお水が美味しくって……それでスープもすごく美味しくなっちゃって……」
……え?なんだって?
「あの、アザレア? 私の水って何?」
「おねーちゃんのお口から出てるお水だよ。とっても美味しいの」
おいおいおいおい……。
今完全に理解した。
出会った時のキスの時点でメチャクチャにされた訳。
名前を付けた時の事。
そして先程の『ワガママ』。
その3つの共通点が見つかった。
アザレアは私の唾液を欲していたんだ。
………………。
天性のキス魔で、唾液フェチだと!?
どうやら私はとんでもない美少女と出会ってしまったらしい。
「おねーちゃん、また今度食べさせてもらっていいかな?」
今後、私の理性は無事でいられるのだろうか。