アザレア
side story アザレア視点
今日も日が暮れる。
明日になったら日が登る。
そんな事を何回繰り返したのかな。
最初の頃は数えてたけど、20万回まで数えたらやめちゃった。
次に始めたのは、夜空を眺めること。
お空に浮かぶ星が沢山あったし、だんだんだんだん動いていって明るくなったら見えなくなる。
たまーにすごく速く動いて見えなくなる星もあったり、見ていて飽きない。
この森には誰も来たことがない。
理由は簡単。周りには海しかないから。
ここには仲間はいない。最初からアルラウネは一人。
根からはうっすらと海の向こうの情報が伝わってくる。
それがちょっとだけ心を動かしてくれる。
きっとこれが『楽しい』なのかな?
『感情』というものは知っている。
知っているだけで分からない。
それが当たり前だから。
今日も空を眺めていよう。
蕾の状態になって静かに過ごす日々。
この状態になったのが何時だったかは覚えてないけど、5万日以上経ってるのはわかる。
外が気になった。
なんだろう。
最近になって海の方が気になる。
こんなにもはっきりと何かを感じることは初めて。
波以外の音が聞こえるから今度見に行ってみよう。
………………。
ビックゥッ!!
えっ!?何!?
初めて知る『感覚』は、まるで体の中を触られたようなわけのわからない衝撃だった。
あっ…ひっ!?なにこれ!変だよ!?
根の方から頭の方へと、ゾクゾクが昇ってくる。
何が起こってるのぉ!?
ハァッ…外に何か…なん…で?ハァ…蕾が開か…ないの?『怖い』よ!
やぁっ!蜜が溢れて…!
ガッ
~~~~~~っっっ!!??
ゴプッ
知らない!これ何なの!?なんでこんなに蜜が出るの!?
根がおかしいの!なんとかしたいの!『気持ちいい』の!
やだ…やだ…出てこないで…蜜が爆発しちゃう…!
やあああ─────────!!!!
ブピュウウウウウウ!!!
あっ…………。
突然頭が冴えた。
先ほどのは『感情』だ。
ついにヒトに産まれる時が来たんだ…。
そんな予感がする。
意識が途切れる寸前、最後に見たのは初めて見るニンゲンだった。
なんだろう?何か聞こえるよ…。
目を開けてみた。
目の前には心配そうな顔でこっちを見てるおねーちゃんがいる。
ニンゲンのおねーちゃんだ。
触ってみてもいいのかな?
「気がついた?」
おねーちゃんの口から音がする…これが声?
同じことすればお話ができるんだよね。
「ふにゃ……?」
わぁ、声が出たよ!お話!お話しなきゃ!
「おねーちゃん、だぁれ?」
やった!聞けた!
こうやっていけばお話できるんだね!
……あれ?おねーちゃんが動かないよ?なんで?
「おねーちゃん?どうしたの?」
「ふおっ!?え?あ、いや、何でもないよ?」
そうなのかな?なんだかアワアワしてるけど。
あ……?なんだろう。
おねーちゃんの口元にすっごく美味しそうなお水がある…。
欲しい…。
そのお口に入ってるんだね。お水。
ち ょ う だ い。
チュウッ
………………………。
えっ?あれ?なんでおねーちゃんを抱っこしてるの?
おねーちゃん、下がすっごい濡れてるよ?
えっと…そっか、おねーちゃんのお口から出るお水が美味しくってずっと舐めてたんだ…。
だ、大丈夫かな?おねーちゃん目が半開きでピクピクしてるけど…。
う~…。どうしよう。
「あ、あの、おねーちゃん。ここ、座って、休んで、ね?」
名前?
アルラウネじゃないの?
おねーちゃんはドロシーっていうんだね。
でもニンゲンで、まぞ。
へぇ~そうなんだ。
………………。
「わかった!妖花族のアルラウネ!………」
あれ?名前?あれ?
変だよ?アルラウネは名前じゃないし、妖花族も名前じゃないって。
無い…の?何も、無いの?
「ぉ、おねーちゃ……名前…どこ?無いの……なまえ……」
名前、どこにあるの?ねぇおねーちゃん…ねぇ…。
「ふああぁぁぁ~~~ん!!無いのーー!どこにも無いのーーー!!」
「落ち着いて!貴方はここにいるから!無くなってなんかないから!」
「ああああぁぁあああああーーーー!!!」
おねーちゃんに抱きしめられてるコレは何?
おねーちゃんに話しかけてたコレは何?
考えてるコレは何?考えるって何?何でそんな事出来るの?
わからないよ。助けて。
助けておねーちゃん!!
チュッ
………あぁ、おねーちゃんだ……あったかいな……。
『アザレア』
おねーちゃんがくれた名前。
ずっと昔に滅んだらしい、おねーちゃんが大好きな花の名前。
アザレアは今日からおねーちゃんの家族になりました。
これからよろしくね!