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流され系魔女の無人島ライフ  作者: 白月らび
本編
11/373

妖花族アルラウネ

すっかり夜になり、私は花の上に座ってアルラウネと並び、夜風に当たってのんびり過ごしていた。


ムニエルはというと、私達に顔を見せた後、住処に入っていった。気を使ってくれたのかな。


久しぶりに人と喋ったから、たしかにちょっと嬉しいかも。


「まだお互い名前も知らなかったよね。私はドロシー。貴女のお名前は?」


「名前?アルラウネだよー。よろしくね、ドロシーのおねーちゃん」


………。


「あぁそっか、固有名が無いのね。妖花族だからなぁ」


「こゆーめい?」


そこから教えるのね、まぁ仕方無いか。


「えーっと、まず私は『人間族』という種族の『ドロシー』なのよ」


「ニンゲンはドロシー?」


ふーむ、これは長くなりそう……。いいよ、可愛いこの子の為だもん。頑張る。


「ちょっと違うなー。貴女は人間族が沢山居るって知ってる?」


「うん、『マチ』って所にウジャウジャいるって前に聞いたことあるよ!」


石の下の虫かよ。


ニュアンスはともかく、間違ってはいないから困るなぁ。


「じゃあその沢山の人間がお話する時、相手の事をなんて呼べばいいと思う?」


「ニンゲンさん!」


「次に違う人とお話する時はその人の事をなんて呼ぶ?」


「ニンゲンさん!……あれ?」


「またまた違う人とお話したい時はなんて呼ぶのかな?」


「ニンゲンさん……あれ!?ニンゲンさんがいっぱいだよ!?どうしよう!」


ホントだよこの子めっちゃ可愛いよ!どうしよう!


「お、落ち着いて?そんな事になったら大変でしょ?だから名前をつけるのわよ」


私も落ち着け。


「なまえ…おねーちゃんの名前はドロシーで、おねーちゃんはニンゲンで、えーっと……」


うんうん、その調子。


「『ニンゲン』は名前じゃない?」


「そーだよー!賢いねぇ。人間は『種族』なんだよ」


「しゅぞく…種族!」


「そうそう、私は人間族っていう種族で、ドロシーって名前なの」


「わかった!おねーちゃんはニンゲンのドロシーおねーちゃん!」


あーもう可愛い!はぁはぁ。


ここまで出来たら次はこの子の事を考えてあげなきゃ。


「私の事はもうわかったよね、じゃあ次は貴女の番だよ」


「うん、アルラウネだよ」


主語を使う会話がうまく成り立たない。まさかとは思うけど……。


「貴女は私以外とお話したことある?」


「ううん、おねーちゃんが初めてだよ」


うーん、やっぱりかぁ。ここ無人島だもんなぁ。


対話経験が無い、名前も無い、その影響で自称も無いっぽい。


会話が可能なのは、まぁ妖花族だしね。


常識レベルの知識は遺伝したり植物としての伝達能力で備わったりするらしい。


人間で言う才能と口伝だね。


他にも妖花族は根と土によるネットワークで知識共有もできるって聞いたことあるし。


さっき人間の街の事を聞いて答えられたのは、これで入手した情報のおかげだろう。だからこの子は『聞いたことある』と言った。


私と会話できたのはそう言う理由での常識を持っていたからだ。


ただし経験による知識はそれでは手に入らない。


自身のことを言葉で指せないし、そのことを分かってないことも分からないのはそれが原因だね。


これは本格的に頑張る必要があるわけだ。


「どうしたの?おねーちゃん」


少し考え込んでた私を心配したのか、アルラウネの少女は私の顔を覗き込んできた。


「ほわあっ!?あ、ゴメンね。どんなお話にしようか考えてたの」


可愛いからやめて欲しい、心臓に悪い……。もっとやって欲しい。


「……?うん」


うぅっ、素直だよぉー。


この子に会話できるだけの自称と名前を考えてあげないといけないな。


いろいろ幼いし、名前を考えてそれをそのまま自称にできるように誘導しよう、可愛いし。


さっきと同じ手順でいけるかな。よし。


「ねぇ、貴女は貴女自身の事をなんて呼ぶ?」


「アルラウネだよ」


「それじゃ、貴女と違う他のアルラウネの事を、なんて呼ぶ?」


「あっ………」


すぐに気づいたっぽい。すこし悩んで。


「えっと、妖花族のアルラウネ!」


おおぅ、そうきたかー。


「うーん、頑張って考えたけど、惜しいなぁ」


「むー」


あぁ…悔しがる顔も可愛い……。


「私の種族、人間はちょっと変わっててね、種族、名前の他にも職業っていうのがあるの」


「しょくぎょー?」


「そうよ。私の職業は『魔女』」


「まぞ?」


おいおい…。


「違うよ、マジョ、だよ」


「まー…じよ」


「そうそう、私は人間の魔女、ドロシー。わかった?」


難しいだろうなぁ…。


「えと……。おねーちゃんは、種族が、人間でぇ、名前が、ドロシーでぇ、職業が、まぞでぇ……」


……その恐ろしいニアミス、すぐにでも直して頂けませんかね…。


頑張って覚えようとしてるから下手に口出し出来ないっ!ううっ。


「おねーちゃんは、人間のまぞで、ドロシーさんっ!」


おおお!まさかの一発学習!しかし恐ろしいニアミス付き!


でも教えた分類の方はちゃんと覚えたので褒めなくてはいけない。


「やったねー!偉いよ~♪」


 なでなで


「ふあぁぁ♪」


おうふっ!頭撫でただけでそこまで幸せそうな顔されると、おねーちゃん我慢できなくなっちゃいそうよ…。


「いつの間にか私のお話になってたけど、貴女のお話に戻ろうね」


「はーい」


可愛い返事に心をかき乱されながら、この子の名前を考えるまでの手順を進めていく。


「貴女の場合はね、『妖花族』は種族で、『アルラウネ』は職業よ」


本当は職業じゃなくて分類なんだけど、混乱するだろうからまた今度。


「わかった!妖花族のアルラウネ!…………えっ……あれっ………?」


自分の『名前』が無いってことを認識した。


ここからが本当の闘いね…。


「ぉ、おねーちゃ……名前…どこ?無いの……なまえ……」


…………うん、そうだね………。


体が震え、涙がぽろぽろと落ち始め───。


「大丈夫!大丈夫だから!」

()()()()()()の少女の体を、私はぎゅっと抱きしめる。


「ふああぁぁぁ~~~ん!!無いのーー!どこにも無いのーーー!!」


「落ち着いて!貴女はここにいるから!無くなってなんかないから!」


「ああああぁぁあああああーーーー!!!」


先に『名前』という概念を認識しないと、個有名を持ったという意識が芽生えない『妖花族』。


この状況は、ほぼ避けては通れないとはいえ、やっぱりキツイ。


やってることは可愛い女の子を本気で怖がらせて泣かしてるだけだし…。


でも必要な事なんだよねぇ。


言うなればこの大泣きは人間で言うところの赤ちゃんの産声だから…。


私の腕の中で頭を振り乱しながら「無い」と泣きわめくアルラウネの少女。


このまま泣き続ければ、精神崩壊に至ってしまう。


どうやったら泣き止むかはそのアルラウネ次第、やってみなけりゃ分からない。


でもこの子の止め方は最初から分かっている。


だからこそ躊躇なく名前が無いことを教えた。


「不安にさせちゃってごめんね?今助けてあげるから…」


 チュッ


「あああんんん───!!んん………ん……」


出会った時、この子は明らかに本能でキスをしてきた。

それが答えへの()()だった。


 チュルッ…ジュルッ…


って!ちょちょちょっと!?


急いで肩をつかんで体を離す!


 ニュぽんっ


「あぁー…ぅーーー…」


泣き止んだ少女は手をじたばたさせて、私の顔に近づこうと必死になっている。


やれやれ……、なんでこの子はすぐに私に侵入してこようとするかなぁ。


もぉ…顔熱いなぁ。


少ししたら少女が落ち着きを取り戻した。


「あの…おねーちゃん、ごめんね?」


「ふふっ、さっきの事は気にしちゃだめよ」


私は少女を抱き寄せた。小刻みに震えてるのがわかる。


「ん………」


大丈夫、すぐに怖くなくなるからね?


「ねぇ、妖花族の『名前』の事、少し教えてあげる」


「………?」


「妖花族にとって名前とは、個の存在を示す魂のようなものなの」


「魂?」


「貴女がここに有る証」


さっきこの子は「無い」と言っていた。きっとそれは名前が無いことで、自分自身の存在が無いものとなる妖花族の本能。そして『思考』というあり得ない事をした植物故の恐怖。

それを他人によって、教えられる事で無いという事を認識し、鎮める事で心に『名前(たましい)』を刻む場所を作る。


「人に出会い、泣き、そして名前を授かることで初めて、自分自身を人として認め、生きることができる種族。それが貴女達、妖花族」


 ギュッ


私を掴む少女の手に力が入る。


私が超可愛いアルラウネを見つけたのはただの偶然。


蜜出した時はノリノリだったけどさ…。


だけど連れてきた時、名前が無いと確定した時から覚悟を決めていた。


動機が邪だろうとなんだろうと、一緒に居て守ってあげようと思っていた。


「私、貴女の花の色、好きなの。綺麗なピンク色」


「えっ……」


ずっと昔、好きだった同じ色の花。それはきっと貴女にぴったりの名。


「誕生おめでとう、アザレア。それが貴女の名前よ」


少女の桃色の瞳から涙が溢れる。


「おねーちゃん、ありがとう」


涙が月明かりで輝いている。その顔はこれまで見たこともない程の眩しい笑顔だった。




お尻を思いっきり自分で抓って、失神と鼻血とその他もろもろを死ぬ気で我慢したのは、誰にも言えない私だけの秘密。

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