アルラウネを起こすとそこは天国だった
気絶したアルラウネをなんとか住処に運び、水場の横に立てかけておく。
目が覚めるまで、横で作業。
「うーん、この蜜どうしよう……」
入れ物が無い。困った。
液体を入れる大きな入れ物かぁ……。
「あっ!そーだっ!すっかり作るの忘れてたアレを作ろう!」
寝床の近くの崖を外からブロックカット!そのまま新しい部屋を作っていく。
そして………………。
「ふぅ、お風呂場完成!」
いやー時々お湯に浸かりたかったんだよねー。
浴槽も大きめに作ったし、のんびりできるだろうなぁ~。
ついでで作ったけど、なかなかいい感じだね。
「ま、暫くの間は使えなくなるんだけど」
そう、これはアルラウネの花蜜を一時的に置いておく場所。それが終わったらお風呂として使う予定。
早速、空中に浮かせてある花蜜を、浴槽に全部入れていった。
「ふおぉぉ、花蜜風呂ってのも悪くないんじゃない?超贅沢品だわ!」
今は贅沢よりも食生活だからそんなことはしないけど。
いや待てよ?1回でこれ以上の量出るんだったら………。
いやいやいや、流石にこんなに出してたら干からび……。
そこまで考えて思わずアルラウネを見た。
「あーーっ!こんなに出したんだからそりゃ気絶するよ!!ヤバイヤバイ!連れてきておいて水も与えてないよ!これ体の水分殆ど出してない!?うわーごめん!お願い生きて帰ってきてーーっ!」
もう大パニック。
お風呂場から飛び出て目の前の水場とアルラウネの前で思わず足踏みしてしまう!
「あわわわわわ!おっ桶!桶をアルラウネにかけて!水っ!を!撫でて!それからっ!それからっ!」
何言ってんの!?だだだ誰か!助けて!!お魚さん早く帰ってきて!ムニエル獲ってきて!
バチャッ!
「プきゃぅっ!?」
突然、顔に水をかけられて尻餅をついてしまった。
「あたたた………。あ、ムニ…エル?」
目の前には銀色の大蛇が佇んでいた。
今の私にとって、その姿は不思議と神々しく感じる。
「ありがどおお~~!ムニエルぅ~!!」
私は思いっきり泣きながら、一言だけ礼を叫んだ。
今は泣いてる場合じゃないのが分かってるから、無理にでも泣き止まないと。
「グスッ…早くしなきゃ…」
鼻をすすりながら、桶を持って立ち上がる。
アルラウネの根元にたっぷり水を撒いて、一応頭の方からも優しく掛けてあげた。
「もう大丈夫だと思うけど……」
涙と鼻水でグシャグシャになってた筈の顔を洗い、私はアルラウネを診る。
「はぁ、申し訳ないなぁ……。完全に私のせいだしなぁ…」
今日の探索は流石におしまい。アルラウネが目覚めるまで、側に居よう。
──うとうと…ガクッ
「っはっ!だめだめ!ちゃんと起きてないと!」
アルラウネはまだ目が覚めない。
日が暮れてきた。
「水は何度か与えてるから大丈夫だとは思うけど……」
困った……。
声をかけて起こすか寝かせておくか、悩む。
せっかくだし、観察してみたり。
「ふむふむ……なるほど……。これは………」
間違いない。
「めちゃくちゃ可愛いってことだけは完全に理解した」
肩まであるピンク色の髪。
ちょっと小顔で整った顔立ち。
少しだけ尖った耳。
ぷくっとした小さな唇。
ツヤがあって触れると柔らかい緑色の肌。
見た目は人間で言うと11歳くらいかな?体の凹凸はなだらかで、なんとなく保護欲を掻き立てられてるような気分になる。
下半身もピンク色の可愛い花。
なんなのこの可愛い生き物、こんなのが地上に存在してたの?
「この子が…さっき、あんなだらしない顔を……?」
蜜を出した時の事を思い出してみた。
「……………ぶふっ!」
やばい!興奮して頭に血登ってきた!鼻血出そう!
ついでにイケナイ事しちゃった的な罪悪感が沸き上がってさらに興奮!
「まさかこんな最強生物がいたなんて……。これじゃ目覚めたらどうなるか、想像もつかないじゃない!」
落ち着け私、私落ち着け……。
ひっひっふー。
………ふぅ、なんか今日は取り乱してばっかりだなぁ。
「落ち着いて、しっかり診てあげなきゃ……これは大事な事なのよ、うん、大事な事。絶対に邪な事なんかじゃない。私ならちゃんと出来るから……」
自分自身に応援と暗示をかけて、いざアルラウネの看病へ!
ぐっ!…寝顔が可愛い……!
負けちゃダメ!ちゃんと起こすのよ!合法だなんて考えるのは許されない!
一度目を閉じて息を吐く。よし、もう大丈夫。
「うーん、熱は無いね」
アルラウネの平均体温はよく知らないけど、人種に分けられる種族の『人』の部分は人間由来。
栄養の取り方や運動能力、生活環境に大きな違いは出ても、機能自体は人間のままなのだ。
他生物遺伝子の適応力が高かったのか、人間遺伝子の支配力が強かったのかは分からないけど、大きな違いが無くて助かる。
それはともかく……。
ぺちぺち
「起きてー、ねえ起きてー?」
軽く肩をゆすっても反応無し。
可愛らしい顔を覗き込みながら、何か方法が無いか考えていく。
「うーん、どうしたら……ぁっ」
超至近距離にあった少女の目がゆっくり開いた。
「………………」
少女は半目でボーッとしている。寝ぼけてるのかな。
「気がついた?」
近すぎた顔を少し離し、優しく声をかけてあげる。
「ふにゃ……?」
「………っ!?」
ふにゃって何!?ふにゃって!!こっちまで変な声出そうだったんだけど!!
目の前の凶悪なまでに可愛い生き物は二度三度瞬きをし、少し首を傾げながら究極の呪文を唱えた。
「おねーちゃん、だぁれ?」
ピシャーーーンッ!! ※脳内サウンド
はい、私死にましたー、ついに天に昇りましたー!
今まで生きてて良かった。お父さん、お母さん、私とっても幸せだよ。
『おねーちゃん』って!こんな可愛い顔で、可愛い仕草で、可愛い声で『おねーちゃん』だよ!?何この可愛いの暴力は!
こんなの笑顔で死ぬしかないじゃない!!
ウフフ♪アハハハハ♪
「おねーちゃん?どうしたの?」
「ふおっ!?え?あ、いや、何でもないよ?」
二発目の究極呪文で、何処かに行った私の魂が強制的に戻された。
「?」
ああああっ!こっち見てる!めっちゃ見られてる!
そのキラキラしたピンク色の瞳であまり見ないで!私みたいな汚物はきっと目に優しくないよ!?
「だっ、大丈夫だよ?それよりも貴女の方こそ大丈夫?水分足りてる?」
頑張って誤魔化そうとしても、さっきの『おねーちゃん』という呪文が頭から離れないせいで、どうしても顔が緩んでしまう。
あっ、ヤバッ、ちょっとヨダレが……。
「あっ………」
少女の小さい声が聞こえたと思ったら、何故か私の頬に手を添えて………。
「へっ?」
ぐいっ
チュウッ
…………………………………………。
なんか私の唇に物凄く柔らかいものが………あれ?なんでこの子の顔がこんなに近い……の?
あ、わかったー。これはきっとアレね。
唇と唇を重ねあう伝説の儀式『接吻』ね。
ふっふっふー、私だって大人だもの、それくらい知っててとーぜんよ!
ふう、納得。
……………………………。
「~~~!?!??☆○*?!?@×!??」
何でええええーーーーーーー!!?
ピチャピチャ
なんか口元から変な音がぁっ!?
離れなっ!離れっ!?あれ!?動けない!?
いつのまにか少女の腕が私の頭を完璧にホールドしてる。
体の方も、背中に回り込んだ太い茎によって、少女へと押し付けられている。
「んーーー!んん!んんーーーーっ!!」
いやあのちょっと!?全く動けないんですけど!?私そこそこ力ある筈なんですけどぉ!?
にゅるっ
私の口に何か入ってきたよ!?
この状態でそんなトコに入れられるモノなんて一つしかないんですけど!?
いやちょっとそんな丹念に……いやあああああーーー!!
そんなことが時間にして20分ほど続けられ、解放された時には私は立つ力も残っておらず、足元にはなぜか水たまりができていたと、後にアルラウネの少女は言っていた。
「ご、ゴメンね?おねーちゃん……」
「あ、ううん、いいのよ……」
うん、おあいこって事で……。
別にエナジードレインされたわけじゃない、行動の意味は分からないけどこの子が自然とやっちゃったみたいだったし。
おそらくこれは───。
私は今、アルラウネの花に座らされ、少女に寄りかかって休んでいる。
抱っこされてるとも言う。
贅沢でイケナイ感じがするなぁ。
だってアルラウネって基本上半身裸だし…。
そう思ったらいきなり恥ずかしくなってきた。
「も、もう起きるね?いつまでも寄りかかってたら重いだろうし」
ガバッ
「えっ………?」
「えっ」
背後から聞こえた悲しそうな声に、思わず振り向いた。振り向いてしまった。
そこには涙目になって上目遣いでこちらを見つめる超可愛い少女の姿が………。
「っ!!や、やっぱり、まだフラフラするかも……ゴメン、もうちょっと休んでていいかな?」
視線を外しながら座り直した。
「うん!うん!はいどうぞぉ!!」
めちゃくちゃ嬉しそうな声が頭の後ろから聞こえた。
危なかった、その顔見てたら確実にやられていた………。