そうだ、転生しよう
ギャグファンタジーは初めてなので、よろしくお願い致します。
今日はあと2話程投稿しますので、続き気になる方がもしいましたらブックマークして頂けると幸いです。
黒い雷がけたたましい音とともに1人の男子の手から放たれる。
放たれた黒雷は龍の形を成して、狩りとるべき獲物目掛けてその牙をむく。
「黒龍雷砲」
そんな物々しい魔法名を唱える事で叶った黒雷は、男の目論見通り見事、獲物を貫き体の芯から焼き焦がす。その場に、人とは違う異形の者だった灰が舞う。
「はぁ、魔王もこんなもんか」
まるで待ち焦がれていたものが期待外れだったかのように、露骨にため息を吐いて残念そうに呟く男。とは言え、この場にはそんな彼を窘める者もおらず、ただその声は無音の部屋に鳴り響くのみであった。
ここは、魔王城の玉座の間。
そして、先程灰と化したのはここの城主であり、魔族と魔物を束ねる長である魔王だ。
その地上最強生物をことも無さげに屠ってみせた人間こそが、人類の希望を背に魔の者と戦ってきた英雄。
''賢者''桜田無門である。
この''アイシャ''という異世界に、人間界を救う為に召喚された異世界の英雄なのだ。
無門は召喚された当時こそ、何故自分が呼ばれたのか、戦わなければならないのかと嘆く事もあったが、次第に自らの力の大きさに気づき自信を持ち、そして順応した。
元々、無門は世界でも認められる''オタク''文化に理解が深かった。その為に、日本人が異世界に召喚されると言ったテンプレ通りの展開は大好物だった。
しかし、いざ自分が召喚されるとそうもいかない。
何と言っても自分の命が直接関わってくる事であり、いきなり異世界の為に戦えと言われても納得出来るはずもない。結局、あれは物語の中だけで済ませるのが美談なのだ。
そう思っていた無門だが、彼の中に眠る力というのが途轍もないらしく、王曰く''賢者''の素質があると言われたのをきっかけに、自分がそうそう死にはしない強者なのだと理解した。
そこからは速かった。
王国内の宮廷魔法士から直接魔法を教わると、まるでスポンジのように様々な知識と技術を吸い込む。それだけに飽き足らず、そこから派生していった魔法をいくつも強化及び開発していったのだ。
同時に、いくつもの魔族に侵略された領地を救い、魔王軍幹部も次々に倒していった。そして、名実ともに無門は''賢者''の名を欲しいままにしたのである。
そして、召喚されてから2年半という短期間で全ての人類を救い、魔王をも先程葬ってみせた。無門の中に達成感が生まれる。
しかし、同時に彼の中である感情が生まれてしまう。
''刺激が欲しい''と。
敵はいないし、何をやっても自分に傷ひとつ付けられることは誰ひとりとして叶わない。これは驕っているのではなく事実なのだ。この2年半、怪我や病気の類というのはほとんど無い。あるのは、この世界に召喚されて初めての時に宮廷魔法士から受けた''火球''の魔法を練習している時だけだった。
それ以降は本当に何も無い。
どんな強力な武器や拳、魔法も反射魔法で全てはね返してみせればほとんどの敵が自然に倒れていく。
最初は自分の命が無くなるかもしれないという恐怖が心を支配していたが、最近ではとうとう一方的な戦いというものに退屈していた。
もっと自分と実力が拮抗した強者と戦いたいという思いが、芽生え始めたのだ。
そして、魔王を倒した事を王国へ報告しに行き、報奨を賜った後の行動は速かった。すぐに図書館へ行き、様々な文献を読み漁り、見つけたのだ。
''転生魔法''という禁忌の存在を。
''生命創造''と同じく禁忌の魔法として扱われていた''転生魔法''は調べるのにも苦労した。もしかしたら、魔王との対決よりもこちらの方が困難を極めたかもしれない。やがて王都の図書館の本を全て読み切ると、地方に散らばる文献や遺跡を調査し研究した。
その甲斐があり、魔王討伐から4年が経ちようやく魔法を完成させる事に成功する。
「やっとこさ出来たな」
ふぅ、と息を吐きながらやり遂げた顔をする無門。
彼がここまで''転生魔法''にこだわる理由は他にもあった。これが一番大きな理由かもしれない、いや、そうだろう。
「かわいい女の子たちに囲まれて萌え萌えキュンキュンしたいぃぃぃっ!!!!!」
これが彼の本性。
ここに召喚されてから、戦闘ばかりでろくに他人と関わる事も無かった無門。と言っても、自分も最初は戦いが楽しかったので疎かにしていた部分はある。しかし、彼は元々根っからのコミュ障である。日本でも友達と呼べる存在は数少なく、と言うよりは同志と読んだ方がいい間柄の人間しかいなかった。
そんな彼も21歳になった。
拳で語りたくなる年齢だが、これからは女の子と語りたい無門は、既に頭の中で自分のチーレム生活を夢描いていた。
「俺くらい強ければどんな敵も跪いて、それを見た姫や女騎士、果てはエルフや獣耳っ娘まで靡いちゃうよね」
緩みきった情けない顔でそんな事を言う無門の姿からは、誰もこの人物が''賢者''などというのは想像出来ない。まるで、変態だ。
「おおっといけない、思わずトリップしてたよ。さて、そろそろ始めますかね」
誰もいない研究室で1人寂しく声を出す無門は、自身で開発した魔法具を起動する。
「えーっと……転生先はこの世界のこの国で、300年後くらいにしとくか。身分は平民で良いかな、貴族とか肌に合わないし。能力はもちろんそのままで」
地球ではよく見かけるパソコンの形をした魔法具を操作して、色々と設定する無門。どうやら、自分の思うままに転生先の条件を変更出来るようで、チーレムする為に色々といじっている。
「……よし、これで完了だ! 転生まで後10秒か、何か思い残す事はあったかなぁ」
パソコンの画面がカウントダウンを始め、無門はこの世界にやり残した事がないか考える。
「あっ、ギルド受付のリザさんのおっぱいがもみ……」
全て言い切る前に彼の意識は途絶えてしまった。