青い夕日~オポチュニティ~
オポチュニティは眼を覚ます。もう一度、この星を走るために。そしてこの景色を、地球に届けるために。
長い長い砂嵐が収まった。
体が思うように動かないが、目を開き、辺りを見回してみる。僕が眠る前に見た景色と、あまり変わらない。しかし、飛ばされた砂や飛んできたであろう砂によって、僅かに地形が異なっている。地面には所々に、白い霜のようなものもできている。赤と白の、大きな砂漠が、見渡すかぎり広がっている。
それが火星なのだ。
僕の体内時計によると、今の火星の季節は夏。この白い景色は、普通は夏に見られるものじゃないから、今が冬の前なのか、後なのか、全くわからない。もしかしたら、本当に夏で、ただの異常気象かもしれない。その辺りは、あとで確認してみよう。
西に目を向けると、赤い丘の向こうに、青色の夕焼けが見えた。僕がこの火星に来て、一番感動した景色である。その青い空の中に、これまた青色に光る、明るい星を見つけた。
あれが、僕が生まれた星。僕を支えてくれた星。火星のお隣の惑星、地球である。
僕はなんてついているのだろうか。目視でこうも簡単に地球を見つけられるなんて。軍神様が、僕に味方してくれたのかもしれない。
アンテナを地球に向けるために、足を動かそうとする。それと同時に、痛いと思うほどの痺れに襲われた。長いこと低電力モードでいたから、足が動かなくなってるようなのだ。体を動かせないとなると、火星の周りを回っている子と通信ができない。
なんとか、僕が生きていることを伝えないと。僕はもう一つのアンテナを準備する。こっちなら、もう地球は見つけてるからどうにか向きを合わせることができる。
写真付きのものは、あとからまた、足が温まってから送ることにしよう。今は、この声だけでも、あの星に届けなければならない。
地球の皆さん、元気ですか? 心配をかけましたが、僕はこうして生きてます
2019年1月25日、火星探査車「オポチュニティ」は、火星軟着陸15周年を迎えました。しかし、これを書いている時点では、彼との通信は回復していません。
本来90日で終わるはずだった彼のミッション。彼の走ってきた距離は、20147月時点で40kmにもなり、探査車が地球外で走った距離としては、史上最長を記録しています。もう十分頑張ったとも思いますが、もう一度声を聞かせてほしいっものです。




