003/山道、すなわち恋路
【キーワード】現代/出会い/恋愛
「空はこんなに青いのに。どうして君の描く空はあまり青くないの?」
キャンパスを伝う筆が止まった。
「私にはこう見えるから」
晴れない心を投影しているから?
理由ははっきりしている。焦がれるように想っていた人が忽然と姿を消したから。
彼のことは、学校の誰にも話したことがない。
第一印象は最悪。
出会いは二年前、入学後間もなく。私は山肌を彩る桜に惹かれて、学生服のまま山に入り込んだ。ぽかぽかの陽気に気が緩んだ私は、桜と深くなり始めた緑を楽しみ、うっかり足を滑らせた。
澄んでいるのに底の見えない池が、口を開けて私を待ち構えているのが目に飛び込む。
身がすくんで体が固まった刹那、手に何かがふれて、ぐいっと引っ張られる。
硬くてキュッとした肌触りは革だった。手袋。真冬の登山と紛うような重装備の男性が、私の身体を引き上げる。
「あ、ありが……」
「何を馬鹿なことしているんだ!!」
木々に彼の咆哮が吸い込まれた。私の謝意も一緒に。
自覚しているから、怒鳴ってほしくなかった。
心情が噴出していたのだろう。特徴のない彼の顔が険しくなる。
「ご、ごめんなさい」
「大体、何て格好で山に踏み入っている。スカートだなんて。きちんと肌の露出を抑えろ」
「そこも含めて反省してます! だからそこまで言わなくたって!」
私が悪くて注意されたのは分かっている。でも、溢れる雫が止まらない。
「……言い方がきつかったな。そこは謝る」
あまりにも意外で、涙がひっこむ。
「分かってるんです、私が悪かったのは。そして助けて下さってありがとうございます」
「ああ、次があるなら気をつけて」
花がほころんだ。
決して華やかな笑顔ではない。それなのに、鋭い爪で私の心をわし掴みにした。
深く刻みこまれた私は、彼の言うところの『きちんとした装備』で、彼の姿を求めるようになる。
やはり特徴のない笑みを浮かべて、彼はいつも山にいた。
重装備ゆえに、彼に直に触れることはなく、でも心は近寄った。
……つもりだった。私は。
掠めた指が彼の冷たさを拾った途端、彼は忽然と姿を消した。
山を愛する彼の痕跡を辿ることにした。受験勉強に励みつつ、時間を作って様々な山をめぐる。
けれども、時折近づいてはいるものの、有力な手がかりが得られない。
焦るけれど、時間は止まってくれない。
XXXさんには「空はこんなに青いのに」で始まり、「時間は止まってくれない」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字程度)でお願いします。
#書き出しと終わり
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