第1章 始まりの物語。
それはとある高2の夏
あまりにも急過ぎる交通事故での
両親の他界。それまで
親戚付き合いをしてこなかった
橘家にとって親戚とは
本当にただの他人でしかなかった。
その為、樹の引き取りを巡って
親戚達は誰もが下を向いたまま
無言で沈黙を決め込んでいた。
ぬくぬくと甘やかされ
学校にも行かず部屋に引き篭もってた
橘樹
彼にとって両親の死は
そのまま人生の終わりを意味していた。
毎日を部屋で過ごしてした彼には
現世でやりたいことも
思い残したこともない、だから
「人生なんてクソ食らえだ」
自室の部屋の窓を開けベランダへ行き
何の躊躇もなく手すりに足をかけた。
頬に夜風が当たりひんやりした手すりを
足場にしながら下を眺めた。
トントン、誰かが部屋をノックしたが
振り返りもしなかった。
するとゆっくりと扉が開き叔父と叔母が
こちらを見て一斉に叫んだ。
「何してるんだ!!危ないから降りなさい!!」
…もう聞きたくない。
「 ざまぁみろ。 」
最後にそう言い残して樹は
左足を下へと振り下ろした。
身体が傾き彼がいつもマンションの
12階から見下ろしていた地上の景色が
一気に風を浴び近づいていく。
不思議と怖くはなかった。
次の来世に期待しよう、
そう言い聞かせるように目を閉じた。
下へ落ちるまでのほんの僅かな時間
目をつぶったままの暗闇に
ふと誰かの声が聞こえた
「 転生を望むかい?タチバナ・イツキ」
ああ、こんな世界おさらばだ
「来世をキミに」
そう誰かが笑ったすぐ後で下へ向かって
落ちていたはずの身体が何か温かいものに
包まれて止まった。恐る恐る目を開けてみるとそこは視界一面真っ白だった。しかし、その純白の世界は微かに揺れていた。そっと手を前に伸ばすとそれは壁の様だが、どこか植物の様だった。
「花びら…?」
パサァッ
大きな音を立ててそれが後ろへ押された。
「とりあえず、出口探すか」
大きくて白いそれを辺り一面見渡すと
分け目の様な部分があった。
分け目を頼りに右へ左へとそれを押しのけ
ようやく外の光がもれてきた。
最後の一枚を押しのけるとそこに
広がっていたのは草木生い茂る森林だった。
明らかに場所がおかしい。
彼は声を思い出す…
「転生を…俺は転生を望んだ。ここは…来世? 」
状況を飲み込めずにぼんやり辺りを
見渡しているとこちらを見る1人の
少女と目があった。その少女の瞳は
イツキが居た世界のどの人間とも違う
そのまま吸い込まれそうなくらい蒼くて
綺麗なものだった。
これがタチバナ・イツキの始まりの物語