その3
「で、だ」
「はむ? ふぉーしふぁの、ほーふん」
自己紹介やら高校生になったことによる注意やら、面倒な諸々が済んで昼過ぎ。
半分近くは既に下校を始めているクラスメイトを余所に、俺とユイカは机を合わせて弁当を広げていた。
「方針を立てよう。あと食べながら喋るなよ、行儀が悪い」
「もくもく……ん。方針、ってなんのこと?」
「あれだよ、さっき話してただろ? 折角高校入って新しい環境になったんだし、恋人つくろうって」
ユイカは目をぱちくりさせた。髪が邪魔で見えないからそんな気がしただけだが。
「えーと……こーくん、本気だったの?」
「冗談は言わねーよ、俺は」
「噓ばっかり」
「なんだと」
また髪をぐちゃぐちゃにしてやろうと手を伸ばすと、さっと椅子を引いて避けられる。
「むっ」
「乙女の髪に触ったりするのはマナー違反なんだよ」
「お前みたいな乙女の髪があるか」
「乙女には違いないでしょ!」
「騒ぐなよ、周り見てるぞ」
「うぇっ……」
まだ帰らずにお喋りをしていたり、俺たちと同じように弁当を食べているクラスメイトの視線が大声を上げたユイカに集中していた。器用にも一瞬で頬を真っ赤に染めたユイカは、何事もなかったように箸の動きを再開した。意外とナイーブというわけでもない幼馴染だった。
ところで、それでも妙に俺とユイカの事が周りで噂されているような気がするが……ああ、なるほど。きっとユイカが目が隠れるくらいの長い前髪だから気になっているんだろう。素顔とか。女子は美少女に牽制とかする生き物らしいし、他称不細工のこの幼馴染にそんな気遣いは必要ないと思うのだが。
「話を戻すぞ。で……自己紹介の時に、とりあえず誰かよさそうだなとか思った女子は居たか?」
「……うん? こーくん、どういう意味?」
「いや、俺に女を見る目とかないし、お前にもないだろうけど。同性だからいくらかマシだろうと」
「……なんかこーくん、げすくない?」
「…………」
「無言で手を伸ばしてくるのやめてよ。あと言った事は間違ってないと思うの」
「ユイカが悪い」
「悪いのはこーくんでしょ!? ちょ、待ってお弁当こぼれるからやめて! にゃー!?」
にゃーにゃー鳴きながら抵抗するユイカと気にせず髪をかき回す俺。注目が集まるのも仕方ないと気づいたのは食後のお茶を飲みながらだった。