出会い~ぶち壊される天井~
「ただいま。」
夜8時過ぎ。
独りで住むにはちょっと広めの一軒家に、僕は帰宅した。
片手で橙色のマフラーを外しながら、片手で電気のスイッチを探る。
真っ暗な玄関に灯りを点けると、朝出て行った時のままのスリッパに履き替えた。
僕は五戸瀬 円満。19歳。
特に夢も無く、ぼんやり過ごしているうちに高校を卒業。
現在は週3~4日のアルバイトを転々としながら、相変わらずぼんやりとしながら生活している。
ネガティブなつもりはないけれど、生きているから、まぁ生きていくかという状態だ。
リビングのソファに上着を脱ぎ捨てると、4人用のテーブルに座り、コンビニで買ったお弁当を食べる。
いつもの流れだ。
もう随分長いことこの生活をしている気がするが、去年は此処に4人揃ってご飯を囲んでいたっけ。
父と母と、妹と。毎日くだらない話で盛り上がっていた気がする。
「…あんまり美味しくないな。」
母の手料理を思い出すと、今食べているコンビニ弁当が味気なく感じてきた…当たり前か。
独りでいるとあまり良い方向に物事は考えられない。
「は~…早く寝よう。」
すっかり食欲が失せた僕は半分ほど残ったお弁当をゴミ箱に投げ捨て、お風呂に入ることにした。
___街灯の少ない裏路地で、小さな人影がふたつ、息を潜めていた。
「…閻魔様、どうやら撒いたようです。」
ウサギの耳が付いた可愛らしい黒いフードが、ゴミ置き場の中から覗いている。
膝まで届く長い銀髪の少女が、無表情で周囲の様子を確認し、小声で言った。
「何故この俺がコソコソ隠れねばならんのか…しかもこんな汚い所に!」
不機嫌な声がゴミ山の中から響く。
閻魔と呼ばれた少年は黒いマントをはたきながら少女を睨む。
「我慢してください。ヤツらは鼻が利くのです。
それに…今は決してヤツらと戦ってはいけませんよ?」
少女は無表情のまま少年を諌める。
背丈は彼の半分ほどしかない小さな少女ではあるが、彼よりもしっかり者の様子である。
「ふん…冥獣なんぞ現世にまで送りやがって。後でたっぷり仕置きをしてやらんとな。」
少女の忠告を聞いているのかいないのか、特に気に留める様子も無く少年は苛立っている。
「で、エリーよ。これからどうする気なのだ。」
「はい。此処、現世には閻魔様と近い魂を持った者がいらっしゃいます。
その者にとり憑くことで、閻魔様のお力は他の者に憑くよりも早く回復していくことでしょう。」
ウサ耳フードを脱ぎ、夜風に銀髪を靡かせた少女エリーは淡々と告げた。
「は……はくしゅんっ!!…ぁ、寝てた。」
浴槽の中で円満は目を覚ました。
さっさとお風呂に入って寝てしまおうと思っていたのに、僕は浴槽でうたたねをしてしまっていたようだ。ぼんやり癖がここにも表れたのだろうか。
「なんか、ちょっと寒気を感じた気がしたんだよなぁ。風邪は嫌だなぁ…。」
そう言って浴槽から出ようと身を起こしたところで、ふと、空間が歪むのを感じた。
逆上せたのだろうか? いや、明らかに…
「明らかに、天井に裂け目が……うわっ!?」
ザバァーーーーーン!!!
天井から現れた裂け目のようなモノの中から黒い何かが降ってきて、それは浴槽の中に落ちた。
つまり僕の上に落ちてきたのである。
「んん?何だ此処は!服が濡れてしまったではないか!それに…湯気がモヤモヤと邪魔くさい所だな…暑くて狭くて敵わん。」
「お湯が……あら?閻魔様、誰か踏みつぶしていませんか?」
「…ん?」
「ぉ…おぼ…死、ぬ…っ(ブクブク)」
何が起きたのかはわからない。
しかし何か重いものがのしかかっていて、僕はお湯の中でもがいてる状況である。
突然のことにパニックな上に呼吸もできないので、かなり洒落にならない。
「コイツは何故裸なのだ。」
そんな、呑気な声が聞こえた気がしたけれど。
僕の意識はそこで途切れた。
閲覧ありがとうございます! 小説は初心者です。
数年前に趣味で描いていた漫画を小説化しました^^
閻魔の外見的特徴などは描写不足なので、また次回に…。
BLではありませんが若干女性向けかもしれません。(怪しいものを書く予定はありませんが)
早かったり遅かったりの不定期更新。様子を見て続けようと思います。