《バブローの町の湯殿》
おっぱい回です
ちょっと下品な描写とかありますので苦手な方はご注意を
ユーリたち三人は、シェラザードたちによってエルフの町へと案内された。
歩き詰めた事と戦いで疲れた三人に、安心して休むことの出来る宿泊施設を紹介してくれるというのだ。
迷宮の内部に町が存在するというと、初めて聞く者は大きく驚く。
リメインの地下に広がる迷宮の面積は未だに把握できておらず、へたな国より広大だとされている。
ゆえに、森で暮らすエルフたちが集まって村や町、果ては国をも作ることが出来るスペースが十分に与えられているのだ。
過酷な迷宮内での生活を少しでも楽にするため、なるべく多くの仲間と集まって協力しようという結論に至るのは、当然の流れ。
エルフたちは、最大の拠点としている聖都を中心に、他にもいくつかの町を作っている。
ユーリたちがたどり着いた町も、そのうちのひとつだ。
町の名はバブロー。
住民の数は三百人ほどで、全員がエルフ族。
質素で動きやすい、薄い布から作られた衣服を着ている。
「せっかくの機会だ、よく見とけよ。エルフの町に案内されるなんてそうそうないぞ。俺も初めてだ」
「案内人さんでも経験がございませんの?」
「エルフは人間を嫌ってるからな。シェラザードみたいにまともに接してくる奴は滅多にいない」
冒険者時代から十数年以上、数多くのエルフと出会ったが、友好的な関係を築くことができた者はほとんどいない。大多数は、人間の姿を見るや一目散に逃げていくか、憎しみの言葉を浴びせながら襲いかかってくるものだ。
ましてやエルフの居住区に立ち入るなど、酒場の与太話でしか聞いたことがない。
冒険者ギルドでもエルフの生態に関して調査を進めてはいるのだが、人間嫌いで排他的なエルフの協力を得ることは出来ず、まともな結果は出せていない。
そのため、ユーリにとっても貴重な体験だ。
「すごいものですわね。地下にこんなきちんとした町を作るなんて」
大通りを歩きながら、エストレアが感嘆したように言う。その視線は物珍しげにあちこちをさまよい、新たな発見をするたびに目を輝かせている。
あちこちに、かがり火の代わりのように魔法の照明器具が設置してある。原理としては人間が使うマジックランタンと同様だろう。
淡い明かりに照らし出される町並みは、実際、そこそこ立派なものであった。
木造の家々を正確に建てられるのは、基礎がしっかりとしているからであろう。
土台が不安定ではちゃんとした家が建つはずがない。
「この辺りでは、地形変化が起こりにくいのか?」
「もちろんだ。そうでなくては定住などできないからな」
ユーリが問うと、シェラザードが答えた。
迷宮内の地形は、不規則な規模とタイミングで変化する。
エルフたちの中でも一部の者は、長年の研究と経験の末に、地形変化が起こる可能性の低い土地を捜し当てる方法を見つけたのだ。
そうでなくては、せっかく家を建てて住み始めてもすぐ台無しにされ、その土地を離れなければいけない羽目になってしまう。かつて出会った人食いエルフの集落のように、遊牧民のように流浪しつつテントで暮らす生活を送らなければいけない。
「それ、どうやって見分けるんですの?」
「すまないが、それについては秘中の秘だ。私の一存で教えることはできない」
エストレアは、「残念ですわ」と言って、素直に引き下がった。
似たようなことはユーリにも出来る。
五感を研ぎ澄ませば、いま立っている土地がそろそろ動くのか、動かないのか、直感で分かるのだ。
確かに、この町の周囲では、大規模な変化は起こりにくい。
周囲に結界を展開しているので、魔物が襲ってくることもない。
迷宮内での生活拠点としては、万全だ。
しかし、それにしては、住民の雰囲気が暗い。
まるで何かに怯え、不安に押しつぶされようとしているかのように、表情を曇らせ、うつむきながら歩いている。
なにか、大きな影が、彼らの心から活力を奪ってしまっているのだ。
「以前は活気に満ちた町だった」
目を伏せ、憂えるように言う、シェラザード。
復活した神の暴虐を目にして、あるいは噂に聞き、恐れおののいているのだろう。
「すぐに元通りになりますわよ。案内人さんはとってもお強いのですもの」
「……そうだな。ありがとう。いや、ユーリだけに頼ってはいけない。私たちも力の限り戦わなければ」
と、大通りの半ばまでやってきたところで、道の向こうから走ってくる数人の姿があった。
「シェラザード様。ご無事でしたか」
エルフの男たちは、一般の町人とは違い、仕立てのいい衣服と金属製の武具を身にまとった、戦士の出で立ちをしていた。シェラザードやその仲間と同様だ。
かなり急いだ様子であったにも関わらず息一つ切らさず横並びに整列すると、拳を胸に置いて敬礼してみせる。
シェラザードはうなずき、小さくため息をついた。
「ルエン。心配はいらないと言っただろう」
「ですが、吸血鬼の根城に姫様ご自身が突入されるなど……私にお任せくだされば……いえ、現状を考慮すれば、ひとまず放置してもよかったのでは?」
「それはできない。神への対処も重要だが、吸血鬼はこの森すべてにとって天敵だ。本拠地を見つけた以上は必ず叩く。この話は何度も繰り返しただろう」
辟易したように言った。
ルエン、と呼ばれた男は、二十代後半、背の高い逞しい体つきをしていて、短くさっぱりと刈った灰色の髪と、鋭い目つきが特徴的だ。
相当、鍛えているのだろう。顔つきは精悍で、立ち振る舞いにも隙がない。
ルエンはシェラザードの説明に納得がいかないようで、さらに言葉を続けようとしたが、彼女の後ろに立っているユーリたち三人を目にすると、いまさら気付いたように眉間に皺を寄せ、険のある声で尋ねた。
「姫様。その人間たちは?」
「そうだ、紹介しよう。ユーリ、エストレア、レンヴィクセン。神との戦いに力を貸してくれることになった戦士だ。ユーリ、この堅物はルエン。私の幼少からのお目付役で、エルフでも一番の剣士だ」
ユーリは片手を挙げ、エストレアは「よろしくお願いいたしますわ」と丁寧に頭を下げた。レンヴィクセンは両手を腰の後ろで組んだまま微動だにしない。
ルエンは殺気すらこめた目つきでじろりと三人を眺め回すと、吐き捨てんばかりの口調で言った。
「神聖なエルフの居住区に、穢らわしい人間が立ち入るなど」
「その言い方はないだろう。彼らは私が招き入れたんだ」
「なお問題がありましょう! 姫様、常日頃から陳情させていただいておりますが、あなたはもっとご自身の立場にお気を配るべきです。我らのもっとも気高い血筋を引くお方が、こともあろうに獣の糞便にも劣る人間ふぜいと言葉を交わし、清らかなるエルフの土地を踏みにじらせるとは」
語気も荒くそう言い終えると、周囲の戦士たちに目配せする。
「このゴミどもを排除しろ」
ルエンと一緒にやってきたエルフばかりか、先ほどから行動を共にしていたシェラザードの部下までもが、ユーリたちを取り囲むように陣を組む。
全員が殺気立ち、腰の剣に手を伸ばしていた。
騒動の気配を察知した通りすがりの町人たちは、巻き込まれてはたまらないとばかり、青ざめた顔で逃げていく。
「おいおい。どういうことだ?」
呆れたように言ったのは、ユーリだ。
シェラザードとて動揺している。
「すまない。こんなはずでは……ルエン! やめさせろ!」
「なにをおっしゃるのです。テストにはちょうどいいでしょう。本当に神との戦いで役に立つほどの戦士なら、我々を組み伏せるなど朝飯前でしょうからな」
ルエンが顎をしゃくる。
それを合図として、武装したエルフたちが一斉に襲いかかった。
剣を抜き放ち、殺気立った彼らの勢いに躊躇はない。
これが正義と信じ、行動しているのだ。エルフにとって人間は、嫌悪と侮蔑の対象でしかない。
レンヴィクセンは冷静に言った。
「助けが必要か、小僧」
「心配性だな、爺さん。うちのババアみたいなこと言うなよ」
ユーリは苦笑した。
黒き獣が獰猛に牙をむく。
「一人で十分だ」
――時間にして五分とかからず、当然の結果が呻き声を漏らしながら転がった。
エルフの戦士たちは武器を手放し、一人残らず苦悶の表情を浮かべながら、腕や腹などを押さえて地面にうずくまっている。
さすがに、殺してはいない。
わざわざ剣を抜かず、素手で反撃したのだ。それも、致命傷となりうる部位はできる限り避けて、腹部などを重点的に狙った。これなら、血反吐をぶちまけるほど苦しいが、まず命までは落とさない。もしかすると腕の骨ぐらいは折れている者がいるかもしれないが、そこまでは知ったことではなかった。
「たしかに、ちょうどいいテストになったな」
ユーリが言った。
「この程度の連中じゃあ、シェラザードでもかなわない奴と戦えるはずがない。怪我が治るまで家に転がしておけ」
「貴様……そこまでほざいたからにはタダではすまさんぞ。剣を抜け」
言って、ルエンは鞘から刃を抜き放った。刃が殺意を帯びている。
エルフの戦士の逆鱗に触れてしまったようだ。
「そこまでだ」
視線を交わらせ火花を散らす両者の間合いに、シェラザードが割って入った。
そのままルエンに歩み寄ると、頬に拳を叩き込んだ。戦士は地面を転げ回る。
「もう腕試しは十分だろう。そしてユーリ、部下の非礼を詫びる。どうか私の顔に免じて、水に流してやってほしい」
「俺はかまわんが、これからもこの調子で絡まれるのは困るな。依頼人に危害が及ぶようなら、あんたの頼みも引き受けられん」
「本当にすまない。ルエンとてこの非常時に気が立っているだけで、普段は冷静な男なんだ」
殴られたルエンは頬を腫らしたまま、眉ひとつ動かさず立ち上がった。
「姫様。私は……」
「この件については後で話し合おう。今はまず、彼らを町長の館に案内する」
シェラザードはルエンの頬を気遣うような視線を向けたが、すぐに冷然としたきつい眼差しに戻った。
町長の館へ向かうユーリたちを、ルエンは直立したまま無表情で見送った。
◆
町長の館は村の奥に建っていた。
宿泊施設といっても、旅行者を相手に商売が出来る環境ではないので、よその集落からやってきた客人を休ませることのできる設備を整えているだけだ。
そのため部屋の数も多いし、食事も満足のいく質と量だった。
しかしまさか、風呂まで完備しているとは思わなかった。
館の離れのすぐ傍ら、わざわざ近くの川から水を引いているという大浴場は、地面を適当な深さまで掘って作った穴の周囲に岩石を配置してこしらえたもので、屋根も壁もない、露天風呂めいたものである。
花を咲かせ生い茂った木々が天井めいて枝葉を広げていて、景観も悪くない。
川からの水を魔晶石の力で暖めているという。さらに、湯槽を囲っている岩石や底部に敷き詰めている丸石もその一種らしい。注入した魔力に応じて発する熱を調節できる性質を持つことから、こうした使用法が考え出されたということだ。
エレベーターの動力源にも使用される魔晶石は、最新技術への投入を期待されている貴重な資源だ。いずれ世界の燃料事情をひっくり返すであろうと商人たちが血眼になってかき集めているこの石を、風呂を沸かすのに使うとは。
ユーリは贅沢な気分に浸りながら目蓋を落とし、遠慮なく肩まで湯に浸かった。
連戦で疲れのたまった筋肉が温かい湯のおかげでほどよく解されて、全身から緊張が抜けていく。
自然とため息が漏れた。
家人はもとより他の客もいないので、広い湯槽をユーリが貸し切っている。
吐水口から流れ落ちる湯の音だけが響いていた。
「入るわよ」
入り口の扉を開いて浴室の中に入ってきたのは、クラティアだった。
彼女の依り代たる魔剣は、与えられた部屋に置いてある――ということで、つまり、こちらに現れたのは幼い少女の姿で具現化した彼女だ。
一糸まとわぬ姿である。
すでに顔がやや赤いのは、生まれたままの姿を男に見られているという恥じらいのためだろう。
ユーリは視線をそちらに向け、思わず「ほお」と感嘆するように唸った。
「な、なによ」
さらに顔を紅潮させ、ぷい、とそっぽを向く。気恥ずかしさが襲ってきたのか、つい左右の手で胸と大切な箇所を隠してしまう。
穢れなき雪のように白い肌、慎ましい胸と小さく丸まった可愛らしい桃尻、なだらかな曲線を描くほっそりとした脚。
ユーリにとっては日頃から見慣れている身体ではあるが、何度見ても飽きないほどに美しい。しかも普段とは異なるシチュエーション、幻想的に漂う白い湯気が、その気品あふれる麗しさをよりいっそう引き立てているようでもあった。
「突っ立ってないでさっさと入ったらどうだ? いい湯だぞ」
「分かってるわよ。その前に、背中を流してあげるから、いったん上がりなさい」
洗い椅子を用意しながら言う。
主人の身体を清潔に保つのは女のつとめ。ふたりにとっては日常の光景である。
ユーリは「おう」と返事をして立ち上がった。
湯から出た褐色の裸身は、鋼のごとく鍛え上げられている。その筋肉ときたら鋼線を撚り合わせた束のようだ。反射的に硬直してしまったクラティアの視線が、野太い首から幅広の肩、分厚い胸板、岩のような腹筋、と徐々に下がっていく。そして股間にてその存在を無言で主張する見事な男性シンボルに心奪われ、熱っぽく目を潤ませた。
ユーリはそんなクラティアの視線を気にする風もなく、不遜なまでに堂々と歩いて湯槽から出ると、椅子にどっかりと座った。
「じゃあ頼む」
はっ、と我に返ったクラティアは、桶に湯を汲むと、スポンジをそこに浸した。森で取れる果実を乾燥させ、網目状の繊維を生かして日常用品に加工した物だ。
それをユーリの背中に当てると、苦痛を与えない程度に力を込めてゴシゴシとこする。
隆起した背筋はくっきりとした陰影が力強く、湯で温められて火照っている姿には得も言われぬ魅力があった。
愛おしさのあまり思わず頬摺りしたくなる衝動を堪えつつ、汗や垢を擦り落としていく。
「どう思っているの? 今回の件については」
「あ? なんだよ藪から棒に」
「相手は神だそうよ? あなたでも不安になったりする?」
そう問われて、ユーリはすこし考えた様子だった。
だがすぐに結論を出したようで、「わからんよ」と答えた。
「長いことこの迷宮で戦ってきたが、さすがに神とやらとやりあったことはないな。まあ、なるようになるさ」
「ならなかったら?」
「そのときは力づくだ。いつもと同じだな」
「相変わらずね、あなたは。さ、前も洗ってあげる」
クラティアはユーリの正面に回り込み、椅子に座った彼の前に跪いた。異様に気位の高い彼女には屈辱的と感じて然るべき屈服の姿勢であるが、自ら積極的に動き、なんの疑問も抱いていない様子。
その顔に驚きの色が浮かび、じとっと問いただすような目つきで見上げてくる。
「なんで大きくなってるのよ」
膝をついたクラティアの真正面にある部分は、いつの間にやらガチガチに凶暴化していたのだ。
ユーリはちょっとばつが悪そうに言った。
「おまえが胸なんぞ当ててくるからだろうが」
「時と場合というものを考えなさいっ。まったくこんな……こんな……」
ごくり、と生唾を飲み込む。
クラティアにとっては数え切れないほど泣かされてきた憎い悪棍であるはずなのに、忌避する気持ちはまるで起きない。むしろそれが当然のように服従し、奉仕することに喜びを見いだしてさえいる始末。
ふらふらと夢遊病患者のように両手を差し出し、宝物を賜るように包み込もうとした。
「まあっ、なんて立派な湯殿でしょう! 感激しましたわ!」
扉を勢いよく開けたエストレアが、元気いっぱいの声で叫んだ。
出し抜けに尻尾を掴まれた猫よろしく飛び上がらんばかりに驚いたクラティアは手を引っ込め、慌てて彼から離れる。
興奮しきったエストレアの視界にユーリとクラティアの姿が映った。
「あらっ、案内人さんもお風呂でしたのね。わたくしもご一緒してよろしいですの?」
「俺はかまわんが――あんたはいいのか?」
「……? どういう意味でしょう?」
ユーリは最初、冗談でも言っているのかと思ったが、どうやら侯爵令嬢は本気で意味が分かっていないらしい。形の良い顎に指を添えて、首をかしげて見せている。
当然、エストレアは生まれたままの姿だ。百八十センチを超える身長と比べてもまだ巨大と評価できる量感たっぷりの乳房。きめ細やかな白い肌には全体的に蕩けそうなほど脂が乗っていて、こぼれ落ちそうな尻肉、むっちりとした太股などは、男心を奮わせるに充分すぎた。そのくせ、腰はキュッとくびれており、背中は薄いのだからたまらない。
そう、全裸。
風呂に入ろうとやってきたのだから、それについては問題ない。
だがここまで男好きのする裸身を、脚の付け根にある黄金の茂みまで余すところなく見せつけておきながら、ボディガードさえ付けずに混浴を申し出るとはどういうつもりなのか。
もしユーリが獣のような男なら――本人の名誉のために断言しておくが、彼は獣のような男ではあるものの、力ずくで女子を手込めにするような手合いではない――エストレアがこの場に足を踏み入れた瞬間、獣欲を解き放ち飛びかかっていてもおかしくない。
もしや、誘っているのか? などという考えも浮かんだが、すぐに打ち消した。
男女の関係にそのような危険性があるなどと、おそらくは本当に分かっていないのだ。もしくは、知識があってもそれを自分の身に当てはめて考えることが出来ないのかもしれない。
大国の身分高き令嬢ともなれば、なにをするにも他人があれこれ世話を焼いてくる。風呂に入る際にもお付きの侍女の一人や二人はいるだろう。
普段から裸体を他人の目に晒すことに慣れているため、この状況でも平然としていられるということか。それにしても動揺しなさすぎだろうとは思われるが。いわゆる天然というやつであろうか。
「まあ、俺の風呂でも無いし、入りたいなら勝手に――」
「きゃあああああっ!?」
いきなり叫び声が上がった。
エストレアが身を震わせ、一点を指差している。
その指先の向きを辿った先にいるのはクラティアだった。
「なっ、なんですのっ? どなたですのっ、そのかわいらしいお嬢さんは! もしや噂に聞く妖精さん? いえっ、まさか天使様ですのっ!?」
どうやら、クラティアの容姿がいたくお気に召したようだ。
感極まったように両手で顔を覆い、いやんいやんと左右に振っている。
ユーリは、そういえば初対面だったなー、などと思いつつ、
「ああ、まだ紹介してなかったな。こいつが――」
「いやぁん、可憐すぎですわ! ハグしちゃいますの! 突貫!」
ユーリの言葉も届いていないエストレアは、瞠目すべき瞬発力で駆け出した。
巨大な乳房と、縦ロールの金髪が豪快に揺れる。
――風呂場で走るというのは、けっして行ってはならない禁則事項である。
なぜなら、床は水に濡れていて滑るからだ。
「あらっ?」
案の定、気持ちが良いほど猛烈に足を滑らせたエストレアは、凄まじい勢いで前のめりに倒れる。
縦ロールを振り乱して五体投地を決める先には、硬い石の床ではなく、椅子に座ったユーリがいた。
ちなみにエストレアの乳房は、身体ごと真上から振り下ろせば、ズドン! という重々しい轟音と共に林檎くらいは容易に叩き潰すボリュームを誇る。
大砲並みの威力を誇るふたつの肉球に顔面を挟まれ、押し倒されたユーリは、後頭部を床で強打した。