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A piece of broken memory Ⅵ

 中学生時代、自分がしでかした魔導トラブルのせいで散々な目に会っていた一平は、実家のスペースですら女子達に使用されていたこともある。


 簡単に言えば、女子会なるものをその場で行われ、強制参加させられた挙句、その場でやれ恋人がどーだとか、初体験がどうこう、お菓子なくなった買って来い、ジュースなくなりそうと言われれば買出し。自分のPCを勝手に操作されエロ動画や画像ファイルを白昼の元に晒され、強制的に着せられた女子制服を撮られそれを材料ネタに脅しをかけられる、といった具合に……

 

 そんなこともあったためか、少々不審に思いつつも女性に免疫がないわけでもないので、形だけはすんなりと橙堂を案内することができたのだ。


 「お、お邪魔します」

 「んー、何もないけどどうぞー」


 一平のアパートは、1Kタイプのフローリングで2階、西端の205号室の角部屋。築40年で鉄骨製のアパート。都市ガスに電気、水道も21世紀前半の品であり、つまり魔導の機材は一切ない。大家さんも設備を魔導式に改築を検討しているらしいのだが、費用諸々の関係から数年後にと引き伸ばしていたらしい。バス・トイレは別々であり、そこそこの築年齢があるということや学生向けアパートということもあり、家賃は2万円と破格。玄関を開けてすぐ右手にドアがあり、トイレとお風呂場。玄関左手はガスコンロや炊事場、冷蔵庫。正面にはドアが一つあり、そこを開けると6畳ほどの部屋が1つ。クローゼットなども完備しており、旧式のエアコンなどもしっかりと設置されている。ベットもそこそこ丁寧にされており、テーブルの上には無駄なものも何一つ置いていない。背丈が低い順から、奥になるほど高くなるように配置された家具家電は、狭いながらも広く見せる工夫なのだろうか。時代の流れにピッタリな、男のクセにきれい好きということらしい。


 「んっとー、寝巻きがわりのジャージが、あったあった。それに使ったタオルじゃあれだしな。洗った奴下ろしてっと。ほい」

 一平は、ベットの下に収納されたケースから青いジャージとタオルを渡すと、橙堂から「手際いいですね」などというお世辞にも思えない言葉が発せられた。

 「婆ちゃんに仕込まれたんだよ。お客は最大限持成せ。それが日本のおもてなしってね。えーっと、こっち」


 部屋から移動し、玄関の右手ドアを開ける。細い通路に、洗濯機や洗面台。洗濯機。そしてドアが2つ。一平はドラム式の洗濯機から洗濯物を取り出すと、消臭効果があるスプレーをしながら、

 

「奥が風呂で、手前がトイレな。あ、体冷えてるようだったらシャワーもどうぞ」

 「じゃあ、お言葉に甘えて」

 「あ、シャワーなんだけど」


 お風呂のドアを開けると、手招きして橙堂を誘う。スペースとしては狭いのだが、一人暮らしには十分過ぎる広さだろう。浴槽の他にシャワースペースがあり、シャンプーなコンディショナーなども綺麗に整えられていた。


 「ご覧の通り、魔導式の制御じゃないから。この画面で温度設定して、ここのボタンでシャワー出るようになってるから」

 「手動式は、初めてみました」

 「老舗の旅館だと、まだこのタイプなはずだけどな。いや、場所によっては魔導タイプと手動タイプのハイブリットか」

 「ちょっと、面倒くさいんですね」

 「ほら、俺自慢じゃないけど魔導使えないから」

 「トラブルメーカーですもんね」

 

一平はムッとしながらも、風呂場から出て洗濯機の前に移動し「乾燥にセットしてあるから。服入れた後は、このスタートボタン押すだけ。ここな?」と橙堂に説明をする。あとは、大丈夫だよなと思い返しつつ台所に繋がるドアを閉めた。


 「さて、まぁ客人っちゃ客人だし、コーヒーでも入れるか」


 いくらか改善されているとはいえ、東京の水道水はあまり好きではない一平は、冷蔵庫に入れておいた天然水を取り出して電子ケトルに注ぐ。スイッチをオンにして、カップとインスタントコーヒーを用意していたところで、ドアのチャイムと「すいませーん、宅急便でーす」という間延びした声が聞えた。


 「あ、はーい。今出ますんでー」

 ドアを開けると、小さな四角形の箱を手に持っている緑色の服をきた配達員が目に映る。

 「藤白一平さんの御宅ですよね?」

 「はい、そうです」

 「お荷物が届いてます。こちらなんですが、お受け取りのサインを―」

 「あぁ、はいはい」 


 一平は送り状をちらりと見て不穏な予想を感じ取った。一平の祖父である。時折『変なもの』を渡してくる代名詞とも言えるのだが、受け取りを拒否して返してしまうと後で散々怒られることも容易に想像がついたので、ささっとサインをしてしまうと、宅配業者は忙しないのか「ありがとうございましたー」と言いながらさっさと帰ってしまい、結局手元に残った1辺10センチほどの正方形の無機質な箱を見下ろしながら思い出したくないことを思い出してしまった。


 「曰く付きの人形なんだが運がアップするらしいぞー」と和人形を持ってきて一平の部屋に置いたり、「昔の隕石から取れた鉱石らしいぞー」と額詰めにして持ってきたり、一番印象に残っているのはあれだ。「健康にいいらしいぞー」と瓶詰めのサプリメントを渡してきたかと思いきや、裏の紙にハッキリとバイアグラという表記があったことだろうか。怒って投げてやったのだが、見事にキャッチされた挙句の果て「早く曾孫の顔が見たくってなー」なんてのんびりされた顔を見たときには流石にイラッとした。

 

 まさかな、流石にそんなことまではないだろうなと部屋に戻ってテーブルに箱を置き、少し悩んだ末に開けてみることにしたのだが、箱の中にあったのは、腕時計の形をしたものと手紙。それに、透明なプチプチに包まれた小瓶だった。


 「おぉ、良かった。比較的マトモだ」

 始めに手紙を手にとって開けてみるのだが。


 遅くなったが入学祝に送ってやる。日本刀タイプの魔導装甲だ。使い古しだけどな


 「ーって、あんの爺。俺が魔導装甲はおろか魔導機器すら使えないの知ってんだろーが。それに、この小瓶何だよ」

 そう思って、念のために手紙の裏面を確認する。爺さんが良く使う手段だ。


 追記。一緒に入ってる香水は、フェロモン効果があるっつー話だ。これで彼女でもつくっとけよ! 朝から晩まで頑張れ!!


 一平の脳内で、親指を立てながら爽やかに笑顔をする爺さんの姿が再生される。


 「あの爺、帰ったら絶対に殴ってやる!」


 手紙を握りつぶし、ゴミ箱にシュート。壁に当って跳ね返ってきたグシャグシャの手紙は、ゴールすることもなく床に転がってしまった。

 「ったく、面倒くせぇ」とグシャグシャに潰した手紙を拾い上げてゴミ箱に捨てる。ふぅ、と溜息をついたところで、


 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」と叫び声が聞えた。


 「な――」

 声が上がった。かなり至近距離でもあるし、隣部屋ということはないだろう。ともすれば、方向は間違いなく風呂場の方だ。


 (まさか、ここで襲撃?) 


 危機感を懐いた一平は、焦って風呂場のドア叩いたのだが、声がしない。だが、悲鳴にも似た嗚咽が僅かに聞える。


 「どうした、橙堂さん!」

 そして、ドアノブに手をかけたところで、鍵がかかっていないことに焦った。

 まさか、と思う。


 「橙堂さん、無事か!」


 勢いよくドアを開いた。そこには、半べそをかいて風呂場に座り込む女性が一人。無論橙堂だった。半べそになりながら、体を押さえるようにして抱え込み「虫、虫ぃ!」と酷く慌てている。シャワーからは温水が浸しきりに出たままで、それを頭から被っている。


 「あぁ、結構古い建築物件だから。しかも、虫なんていないし」

 「そこ、そこに!」


 と指差す方向を見れば、確かに一匹の来訪者。てんとう虫。

 (なんだ、焦った焦った)

 一平はてんとう虫を捕まえて両手で包みこむ。だが、一先ずの安心と共に危険が近づいているのだと脳内アラームが本日2度目の緊急信号を盛大に回していた。


 「捕まえたから安心しろよ。それとな、とりあえずタオルで前隠せ……その、丸見え――」


 一瞬で、空間凍えるように冷えきったのを一平は感じ取った。


 「え、あっ」

 一応だが、一平は顔を背けておく。何分、両手はてんとう虫を捕まえている為ドアを閉めることができない。だが、そんなことは関係がないと橙堂も容赦はしなかった。


 「へ、変態いいいいぃぃぃぃぃぃぃ!」

 「不可抗力だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 スナップの効いた一撃が頬を直撃し、更には蹴り。一平は背後の壁に叩きつけられて成す術もなく尻餅を着いた。こうして、一平は1日で同じ人物に2度もビンタをされるということになったのである。勢いついたままドアが閉まり、ここに居てもどうしようもないことから一平は立ち上がって部屋に戻り、器用に肘を使って窓の鍵を開けると「もう入ってくるなよー」なんて言いながら、てんとう虫を外に逃がした。羽音も立てず飛び立っていく姿を見て、俺もそんな風に逃げれたら良いんだけどねと一平は考える。その様が見えなくなるまで送った頃に、ガチャというドアが開く音が耳に入った。スリッパが床を擦る音は、死神が鎌を地面に擦り付けているようにも思えるので、早々と窓を閉めて一平は正座して覚悟を決める。ゆっくりと開くドア。上下青のジャージを着て、表面上は静かながら背後にはむっすぅぅと眉間に皺を寄せた仁王の顔が垣間見える橙堂が目前まで迫る。


 「何か言い訳はありますか?」

 「す、すいませんでした」

 開口一番に、一平は先ず謝罪。

 「こ、こちらに非もなかったわけではありませんが。鍵をかけ忘れていたということもありますし。さ……さっきのも忘れて下さい」


 と言われるのだが、中々難しい相談。いや、交渉というものかもしれない。

 そこそこ整ったプロモーション。より具体的には、極度に象徴するわけでもなく、してその存在を否定するわけでもない程よく育った果実のような胸。腰周りはすらっと引き締まった曲線のラインをつくり、シャワーの水滴が流れる扇情的な場面であった、というところまでは眼に焼きついてしまっている。思い出すと、如何せん男でもあるので多少反応してしまうのだが。しかもその脳内データを忘れろというのは、魔導の外科的手術でもやらなければ難しいことこの上ない。よって、一平が出した結論は、


 「姫、大変お美しゅうございました」


 苦肉の策で、頭をたれてひれ伏してみた。無論、フローリングにもう額が付いている。

 土下座。徹底した綺麗な土下座である。手の平は全てフローリングに接しており、左手と右手は閉じられていながら、両の親指と人差し指で綺麗な三角を作っていた。


 「な、な、な――っ」


 問答無用で、後頭部を踏まれた。勢い余ってその衝撃に顔と床で激しく密着している。これが密着24時。


 「な、何を言っているんですか!」


 しかも、一度ではなかったのだ。何度も何度も重力から開放されたかと思いきや、再びドリルのような衝撃がひた走る。


 「い、痛い、痛いです本当にマジで勘弁してくださいっ」

 「忘れて下さい! 寧ろ忘れなさい! この変態奴隷ぃー!」

 「忘れます、忘れますから、頼むからそんなに思いっきり踏まないで近所迷くあしゃあぁぁ」


 強烈な地団駄が一平の後頭部に炸裂した。目を瞑っていた橙堂がひとしきり満足でもしたのか、ふっと目をテーブルに向ける。


 「それ、魔導ですよね?」


 ようやく足が離れていき、ほっとした一平は鼻を押さえつつ「あー、分かんの? 祖父さんから送られて来てさ」とぶっきらぼうに返事をする。よほど気になるのか、橙堂は近づいてただただその一点に集中していた。


 「すげぇ興味深そうなんですけど」

 「え、あ、いえ。そんなそんな」


 目を輝かせて口から出るのはそんな言葉。橙堂は明らかにこの魔導に興味がある。それはどう考えても理解できる。


 「あー、丁度良いや。橙藤さん、それ起動してみる?」

 「え、いいんですか?」

 花開くような笑顔で言われれば、断われるはずもない。それに、一平には断わる理由も見当たらない。


 「俺、トラブルメーカーですしね。下手すると壊れちまうし」

 「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ」 

 橙堂が時計を手にとって嵌める。祝詞でも唱えるかのように目を閉じて、指を交差。おそらく、オラクルを流しているのだろうが――


 「動かない」


 「は? 新入生中、魔導の天才なんて言われてる奴が動かせないのか?」

 「ちょ、ちょっと待って下さい」

 そう言って、もう一度集中したようだが、それでも起動する気配はなかった。

 「んー」

 深く目を瞑り、更にオラクルを流しているようだが、

 「やっぱり、動かない」

 「使い古しってあったしなぁ、どこか調子悪いのかも?」

 「でも、凄く気になります」

 それが、橙堂の探究心に火を灯したのだろう。橙堂は腕時計を外しテーブルに置くと「トモエ」と、自身の人形を召還した。

 

 「おぉう、何するつもりだよ?」

 一平はそう訪ねた。もしかしたら、折角の魔導を壊したりするのだろうか?

 「二度目ですね」

 「しかも喋った!」

 「トモエには、自律回路も組み込んでありますから」

 「ご挨拶が遅れました。HRT-X改良型の魔導人形、トモエと申します」

 人形の駆動や間接部位もしっかりとしたものなのか、腰を曲げるようにして挨拶をされた一平は「あ、これはこれは。ご丁寧に」と頭を垂れた。

 「その節では、主がお世話になりました」

 「あー、いえいえ。こちらこそ」

 「トモエ、挨拶はそのくらいにして。この魔導装甲の解析を」 

 「畏まりました」

 

 トモエの腕からコードが延び、腕時計に接触。それが解析に必要なものなのだろう。

 「オープンフェース展開・成功。製作者、不明。年代、不明。登録コード、不明」

 「何か分かることは?」

 「形式が、玉鋼であることが確認されます。数度改良なども行われておりますが、その方の名前も不明」

 「プロテクトの強行突破は?」

 「現状では不可能に近いものと思われます。尚、この魔導には自律回路を有するらしく、最後の会話は8年前」

 「もしかして、とは思うけれど」

 橙堂は、一応という具合で、自身の人形に確認した。 

 

 「まさか、持ち手を自身で選ぶ魔導装甲?」

 トモエがコードを自身の腕に戻しながら「その可能性は高いと考えられます」と返答。

 「どうして、そんな高度の魔導装甲が―?」

 一平は良く分からない。とりあえず、高度ということはそれなりにレアなんだろうということくらいしか理解はしていない。

 「ふーん」

 

 マジマジと見つめながら、こんなものがレアなんだなーと思ってしまう。がまぁ、しかしその時計の形は個人的にいえばかなりの好みだった。12時・3時・6時・9時はアラビア数字で、表面は何らかのガラス素材なのだろうが、光に反射すると僅かながら透き通るような青さがある。

 

 「ま、俺宛に来たものだしな」

 「ものは試し。付けてみるのはどうですか?」

 橙堂の言葉に納得した一平は、トモエのコードが離れた時計を手に取った。

 「だなー。魔導として壊れないことを期待。どうせ起動することはない思うし」

 なんて言いながら、内心壊れませんように壊れませんようにと祈りつつ時計をはめたのは内緒である。付けてみると、通常の、そこいらで使用される魔導であるのならばなんらかの反応があるものだが、そういったものも見られないので一安心。 

 

 「ほら、出ない」

 

 苦笑いを浮かべながら言ってみたのだが、橙堂の表情は硬い。研究者のように冷静なまま「トモエ、この状態でオラクルの流動は?」とトモエに訪ねるのだった。先程のコードを使用するまでも無いようで、「微弱な反応はあります」という返答に更に違和感を覚えたのか渋い顔をする。

 「それってつまり、どういうことだ?」

 「壊れてはいない。ということですね」

 

 「お、おぉう、俺が触っても壊れない魔導なんて!」

 

 一平にとっては非常にありがたい話だ。もしかしたら、魔導トラブルの解決。自分の体質の改善。その手がかりになるのかもしれない。それだけでも稀少なものである。しかし、納得いかなかったのは橙堂だ。真剣そのもので、天才としての意地なのか、それとも元々こういう性格なのか、納得できなさそうな顔をしている。

 

 「あー、ご期待に沿えず申し訳ないけどな」

 「いえ、そんなことないですよ」

 「なんか辛気臭くなっちゃったなー。あぁ、そうだ。飯でも食ってく?」

 「え、そこまでは」

 

 一平はまずはケトルで入れてあった水もとっくに沸騰したことだろうと、コーヒーを仕舞って、ポットに黒ウーロンのパックを入れつつ、橙堂を指差し、

 「制服乾くのに、もう少し時間掛かるだろ。それに」

 昼飯食ってないし、と言いかけたところで、どこかの誰かさんの虫が鳴った。

 「ありあわせだけどな。ちょっと待ってろよ。それと、ドライヤーはそこにあるよな? コンセントにブッコんで使って」

 

 その後、冷蔵庫を確認。あるのは牛乳に卵。長ネギ。焼き豚にかまぼこ。冷蔵庫の中には、昨日の残りを冷凍しておいたご飯が2人前はあった。とりあえずご飯は取り出してレンジにぶち込み解凍。その間に卵を溶いておき、焼き豚は細かく切りつける。かまぼこは縦に切っておき、扇状に切って、更に細く切っておく。長ねぎは縦と横に切り目をつけて、小さくなるようにした。その後、フライパンを温めてバターを敷き、卵を入れて、その後に焼き豚を投入。ご飯を入れた後、長ネギを入れて味付けの開始。鶏がらスープの素と中華スープの素。塩胡椒で味をつけ、綺麗に形が整うようにお盆に一旦移した後、カレー皿に載せる。白ゴマをちょっと振っておくのがポイントだ。 

 

 「よし、完成」

 所要時間、5分弱。チャーハンの乗った皿にスプーンを置き、ティーポットとカップ二つを部屋に運ぶ。


 「お待たせ、チャーハンだけどな」

 「……毒なんて入ってないですよね?」

 

 橙堂は、疑うような視線を一平に向けた上に「お前、俺をどんな人間だと思ってるんだ?」という一平の言葉を無視し、手で香りを確かめながら「香りは、問題なし」とも言うのだ。

 

 「だから、はいってねーっつーの! 良いから冷めないうちに食え」

 

 カップにウーロン茶を注いで渡す。マジマジと見ていた橙堂は、そこでようやくチャーハンに口をつけるのだが、

 

 「おい、しい」

 

 その一言で、何となく満足。逆襲に成功したと確信した一平自身も、チャーハンにありついた。ご飯のパラパラ感、味付け、香りに見た目、触感。以上を統合した上での点数は、

 「うん、74点」

 「掃除に、料理。この調子だと、家事なんかは……」

 「何か言ったか?」

 「いいえ、何でも。料理上手なんですね」

 「ん、あぁ。婆ちゃんに仕込まれた」

 「そうなんですか?」

 「今時の男子は、料理くらいできなきゃだめよーって具合にな」

 「へ、へぇ。勉強と魔導ができないのに」

 「それだけが人生じゃないんだと。なんだっけ、こんなことも言ってたよな」

 

 「なんて、です?」

 橙堂は、スプーンを口に咥えながら一平に尋ねた。

 

 「料理とは、愛情と思いやりから作られる魔術の上位技術。国境や言語すらも越える魔法の一つなんですよ、だったっかなー」

 

 対し、一平はスプーンで橙堂を指しながらに答えていた。

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