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A piece of broken memory Ⅰ

2055年の設定にしてあります。独自の世界観があるため、分かり辛いところなどは指摘いただければ幸いです。

 

 魔導を動かすエネルギー


 オラクルがどんなものかを、ご存知でしょうか?


 古き時代において、多くの人々はそれを魔力や霊力と呼び


 神聖であり、邪悪。そのような扱いをし、操るものは限られる


 そう、『特別なもの』とのように語ります


 しかし、それは大きな間違いであることを伝えておきましょう


 オラクルとは、人自身が持つ一つの意志エネルギーであり


 魔導士とは、その力を魔導を通して扱う者でしかない


 自身の中に存在するエネルギーを使用する者でしかないのです


 この概念を、秘術として蓄えていた者達も少なからずいらっしゃいますが


 私は、ワイズマンの席に鎮座する者の一人として


 この知識と、技術を明るみに出しましょう


 多くの人々が、より良き未来を生きるために

 

 難しいことなど、何一つもありません


 誰がしも持つ『意志』が力になるエネルギー


 それが、オラクルというものなのです



 

 ・ ・ ・                       

   

 都会の喧騒に紛れる中、日本のデザイナーと建築士複数名が協同し、自然との両立をテーマ建築が始ったとされる学園。21世紀後半の現在で、最新の設備をかね揃えた学園であり、入学希望者も平然と5倍には跳ね上がっているという。東京の都心部が政治と経済が闊歩する地位は昔ながらのものだが、この学園は現代でも日本の中心とも言える都市の東側に位置している。即ち、八王子付近だ。この場所には山、川水などの自然財産がまだ明瞭に残っており、テーマを用いる上で最善の土地だったのだろう。

 

 魔導士教育機関アルカナ学園。日本学校。

 

 高等部と中等部。また大学や研究機関を抱える大規模な敷居を持ち、総勢生徒で言えば中学から大学まで5千名を抱える学園。広大と一言で表すのは簡単だが、それは常識的に考えられる学園が保有するレベルではない。大学の本校舎は4棟に、別棟が2棟。中学側は1棟。高等側で1棟。加えて、それぞれに専用の体育館やプールを始め、部活棟に魔導専用の1棟。といった具合に、かなりの広さを持っているのである。

 その敷居の中で、ある少年が東奔西走の言葉通り、東に西にと走り回っていた。今朝と今だけでもう8キロは走っているのかもしれない。健康の為に――という云々の範疇ではない。そもそもの話だ、大抵の学校で廊下は走ってはいけないという規則もある。無論、本人が怪我をしてはいけないという意味であったり、遅刻しないように学生の段階から時間というものを守る為に、という部分もある。大人の事情というものも2割はあるのかもしれないが、それはいうまでもないだろう。


 「やばい、やばいやばいやばいぃー!」


 真新しい制服に、ある程度整えられたショートレイヤーの髪を靡かせながら、藤白一平ふじしろいっぺいは全力で疾走する。彼はアルカナの生徒であるのだが、廊下には彼以外の生徒が一人も見当たらない。見当たらないからこそ、一平は焦りに焦っている。


 「あぁーもう1時間は過ぎてるぞ! どこだ、第1集会場ってどこだよ、体育館とかじゃないってどういうことだよーちくしょー!!」


 自分の責任でもあるのだが、口に出さなければやっていられないこともある。人間はそういう生き物だ。よって、一平は自分が持った感情をありのまま言い放つ。誰にというわけでもない。ただ言いたかっただけである。一平がこうなっていることを完結に表せば、つまるところ遅刻。だが、ただの遅刻ではない。本日から入学する学校で、初日からの大遅刻なのだ。大学部の敷居に入ってしまったり、中等部の敷居に入って戻りやっとのこさ高等部の敷居に入って教室には到着したものの、既に同級生の姿はない。よって、自分の席を確認して通学用鞄を放り投げると、再び走り出したのである。

 

 「大体、どうしてこうなった――」

 

 入学と言えば、普通の感覚を持つ人であるのならば10分くらい前には自分の教室で席を確認し、同級生なんかと喋って仲良くなって、あわよくば女子との交友が深まり交際が――なんて、考えていたのは朝方までのこと。

 8時までの登校だというのに、1時間前に最近人気となってきた女性シンガーの曲をイヤホンで聞きながらアパートのドアを開けてちょっと歩くと、普段は大人しいという近所の犬に噛み付かれ、狙いを澄ましたかのように黒猫が横切り、不穏な先にめげないよう「桜がキレイだなー」と上を見上げながら歩いていたら、先日降ろしたばかりの靴でガムを踏んでしまい、最終的には車の事故に巻き込まれ、「かすり傷だから大丈夫です」という一平の言葉を振り切り、救急の隊員や駆けつけてきたおばさんが「念のため念のため。何かあったら大変でしょう?」と強引に救急車に押し込み、アパート近くの病院に直行。振り出しに戻り、時間が過ぎてこうなったわけである。

 

 「はぁ、はぁああ――最悪だ」

 

 初日からのマラソンで息の切れた一平は、地面に両膝を着き呟いてしまった。ただでさえ慌てていた為か、隣接して繋がっているはずだから大丈夫だろうと安易に中等部の門から入ってしまい、一貫して連なった敷居を右往左往。平たく言えば迷った結果、こうしてがむしゃらに走り続けている。一向に見当たらない目的地はまるで不思議の国にでも迷い込んでしまったのか、とすらも考えてしまった程に。

 

 「えぇっと、落ち着け。こういう時は冷静になって」

 

 不測の事態トラブルに置いて一番恐いのは思考の混乱パニックだという。ままならない道。人生に山あり谷ありとはよく聞くが、彼は過去に何度かトラブルに巻き込まれおり、そこそこ経験値を積み重ねてきている。よって、彼なりに気持ちを静める方法もあったのだ。簡単で完結。道具も何も必要ないもの。それは呼吸法。大きく息を吸い込んで、たっぷり時間をかけてゆっくりと吐く。合間に「落ち着けー、落ち着けー」と自分に言い聞かせるようにして深呼吸を繰り返すこと約180秒。感情の赴くままに行動していた自分を、理性的かつ合理的な思案スタイルにしてみる。そして、遂に妙案が頭を過ぎった。 

 「そうだっ、学園の案内図が入学案内に同封されてあったはず!」

 なんということはないことではある。しかし、人間はこんな単純なことでも冷静さを失うとうっかりしてしまうらしい。それを体現したようなものだった。一平自身も自分のことをバカかと思いながら早々に教室に引き返し、通学用鞄を漁ってみるのだが、この時になって更に自分の不甲斐無さを痛感することなる。

 

 「ねーし! あーもう、マジ最悪だ」

 

 こうなれば逆説で、と一平は考える。このまま入学式を欠席するというのも一つの手段なのではないかと。下手に同じ高等部の新入生や上級生。はたまた講師を刺激するよりは、すいません体調が悪くてーなんて言い訳をすれば済みそうな気もしてきたのだ。普通な中学校に通って居たからこそ出てくる非凡な発想。だが、それも今の一平にとっては最高のプランにも思えるわけである。

 「よし、目的地変更。保健室。思い立ったが吉日。善は急げ」

 右の拳を握り締め、罪悪感を誤魔化すように呟いてみたのだが、その姿はどうしようもない小悪党。言い方を変えたとしてもちょい悪な不良。リーダーに付き従う下っ端にしか見えない。いや、それはまだいい例えだろう。単なるバカにしか見えない。

 

 「よ、よーし。作戦決行で」

 

 時計回りに反転しよう――としたところで 

 

 「迷子さんはぁーっけぇーーっん!」

 

 如何にも軽い声が背後から聞えたのを、一平は確認する。入学式の真っ最中であるのだろうが、誰かに見つかってしまったらしい。一平は脳内で繰り広げられたシナリオは、あくまでも仮説のシナリオでしかないのを痛感する。一平自身の人生計画。あくまでも目先のものだったのだが、それすらも簡単にほいほいと上手くことが運ぶことはなかったらしい。諦めモード全開で完全に振り返ると、口元に手を当てながら微笑む女性が立っていた。短めの甘栗色をした髪に、学園事務のスーツを身に纏っている。年齢的に視れば自分と差して変わらないようにも思えるのだが、女性に年齢を聞くのが失礼だという概念は一応持ち合わせているので聞かない。

 というよりも、だ。

 15歳。高校生。そんな歳にもなって『迷子さん』の名称はなかなかに手厳しい『嫌がらせ』にもなる。恐らくこの女性はそれを見越した上で言っている。

 一平は自分の直感を信じ、この女性を警戒することにした。

 

 「え、えぇとぉ」

 「入学生の藤白一平君だねー。入学式は始っているよー?」

 「は、はい。すいません」

 「遅刻はあまり関心しないけどー、会場まで案内するから。そこまで気にしないでー」

 「お、お手数かけます」

 「礼儀正しいのは素敵なことだと思うよー。でも、これが仕事だからさぁー」

 女性は「こっち」と親指を背後に向け、一平が歩き出すのを確認してから自分も歩み始めた。その姿は様はまるで子犬。もしくは、金魚の糞といったところだろうか。

 

 (なんだか、情けない)

 

 一平は大きく溜息をついた。前を歩く女性は、首だけを動かし軽くその様子を見て少し微笑むと

 「新入生の子はよく迷うんだよー。ほら、ここ一般的な学校と違うでしょー?」

 その言葉は一平にとって、神がかりとも言えるようなもので、

 「そ、そうですよねぇー!」

 多少大げさなくらいな反応をしつつ、一平は同意していた。

 「でしょでしょ? 案内するのは、君で10人目なんだー」

 一平は安堵する。自分以外にも入学式に10人も遅刻者がいるのなら心強い。所詮気持ちの上でしかないのだが、重要なことであるとも思う。昔ながらに言う、赤信号、皆で渡れば怖くないというものだ。一人でも同類がいるというのは、以外に親近感や仲間意識というものが出て安心する。上手くいけば、そこから友人という分類になり、高校生活を楽しむこともできるかもしれない。という僅かな期待が膨らんだ。


 「入学式の会場に案内する、という意味では、就任して以来始めてだけどねー」


 だが、その安堵と期待すらも一瞬で粉々に砕かれてしまう。意図していたかのように、女性は口の左端を吊り上げて「クックック」と、昔のアニメでよく悪者が使うような静かな笑いを堪えているのが手に取るように分かった。

 「う、ううぅ」

 「唸っても何も出ないよーん」

 「こ、このまま入学式をサボるという方向は!」

 「入学早々不良気取り! うちの学校でそんなことが起こるとは!?」

 「い、いや、そういう意味ではなくてですね」

 「分かってる分かってる。単に恥ずかしいだけなんだよねー」

 「分かってるなら言わないで下さいよ!」

 「あははー。君、からかい甲斐があって面白いから。ついつい。許してちょ?」

 

 そんな他愛ない会話をしながら、ふと足を止めた女性は右回りに体を回転させると、ドアに向かって手の平を差し出していた。

 「はーい、着いたよー。第1集会場」

 「すぐそこだったのか。しかもここ、さっき通った……」

 「ドージだねぇ。ちゃんと書いてあるよー?」

 そこは、どこからどう見ても教室の一角だった。一平自身が通っていた中学の校舎で言うのならば、視聴覚室のようなものだ。

 しかし、その教室を示すプレートにはキッチリと『第1集会場』と明記されている。一平の完全な初歩的ミスだった。見過ごしていたという。

 

 「あの、ちょっと質問いいですか?」

 「ん、分かる範囲なら答えるけど」

 「どう考えても、この中に高等部の全校生徒千人弱が入るとは思えなくて」

 「あぁ、なるほどー。常識的に考えれば、それは正しいね」

 「で、ですよね?」

 「女子体操服はブルマかジャージかという論争が、影で繰り広げられているというくらいは常識的な考えだ」

 「いや、そんな論争はさっさと結論だしちゃっていいですけど」

 「まあでも、君自身もここがどんな学校であるのかは知っているはずだよー」

 女性は、人差し指を一平に向けながら確認する。

 

 「そ、それは。魔導士を育成する学校でして」

 「そう。だから先入観は良くないかなー。それが魔導というものでしょう?」

 なんて淡々とした声で答えられてしまうが、十分に納得のできる答えでもあったのだ。

 「時間稼ぎのつもりかなー? 理由がどうあれ、遅刻したのは事実。それに向かい合うのも大事なことだよ」

 「……はい」

 「うんうん。素直なのも良いことだーねっ」

 一平は、僅かに頭を垂れながら扉に手を当てる。


 「魔導が成立した昨今。多くの者が魔導士を目差し、切磋琢磨しております」

 

 ドアの先で、誰かが喋っているのが聞えた。何かしらの挨拶なのだろう。鈴のような響きが一平の鼓膜を刺激して脳に伝達していく。余程の見当違いや、変声期をまだ迎えていないなどの条件を除けば十中八九女子の声だった。

 

 (やっぱ緊張する、な)

 

 そんなことを考えていることすらも露知らず、ドアの奥からは言葉が連なっていく。

 「日本国有の、桜が誇り高く舞い、晴天にその兆しを残し――」

 一平は大きく深呼吸し、意を決してドアを開けた、のだが、ここで思わぬ展開が彼を襲ったのだ。


 (なんだこのドア、やけに軽い――って、もしかして魔導の?)


 魔導。この世界で発達した新技術。既に一般にも普及している技術である。

 魔術という技術と科学という技術。それらを組み合わせてできたものであり、一定の理論と定義を元となして起動する、便宜上はあくまでも技術と称されるもの。

 国際的にも繁栄をしており、世界人口の約8割は使用できる実際に活用されているとの報告もある。残りの2割は、発展途上国で昔の暮らしをしている先住民族か、なんだか性に合わないという物好きらしい。

 

 その2割に入る一平には少しだけ難があった。魔導に関する扱いに、一平は自身が『トラブルメーカー』だと自負している。


 つまり、動かせないのだ。


 家庭でも平凡に使用される魔道機器は、スイッチを押せばショートし機能を停止させる。魔導制御された水道の蛇口を捻れば、水が滝のように溢れ出す。最新の魔導で設置された鍵に触れてしまった時など、女子水泳部が水着に着替えようとする生着替えシーンを覗いてしまった、なんていうこともあった。

 

 そんな彼が魔道のドアに触れたのだから、どうなるのかは予想がつく。


 本来は自動でゆっくりと開くはずであろうの押し型ドアは勢いよく会場内側の壁に衝突。まるで大砲でも轟いたかのような轟音に、会場は唖然としていた。

 

 (やっべぇ、マジかよ、これは現実か、本当にこんなことってあんのかよ、辛いわーー)

 

 そこに広がるのは、ドアの大きさからは想定できないほどに広く、大きな空間。悠に1千人弱は収容しており、更に数百人ほどが入るスペースを確保している。

 洗練された静寂。如何にもな式典の真っ最中に、一際高い音が響いたのだから当然のことだろう。

 

 (つか広すぎだろ……じゃなくって)

 

 男子は上下黒の制服。裾や襟足にちょっとばかりお洒落にも気を使っていますとでも言わんばかりにチェック柄が入っているもの。対称的に女子は上下共に白。尚且つ、男女共に多少の制服改造は自由らしい。胸元には共通してこれまた純粋な、真っ青でカンカン日照りの日中に浮かぶ雲のような銀製のラインが入った刺繍。二本の剣と盾をイメージした学園のモチーフだ。当然のことだが、それらを身に纏った人達が鎮座している。

 時に、今現在入学式の真っ最中であり、答辞を述べる者はその声色を豊かに使い、静かな、いやしかし確固たる決意もあるようなその言葉に多くの者が耳を傾けていたようだったのだが、恐らく一平が発してしまったのであろう轟音に、皆が何事かとこちらを向いている。壇上に立つ生徒の声も止まって、こちらを向いていた。

 胸元に掛かりそうな黒髪。卵を思わせる顔立ち。驚いて見開いた眼が一平にはやけに印象的だった。壇上の映像機か何かで投影された彼女の容姿から、胸元に光るペンダントがアクセントになり、彼女の人となりを際立ているようにも思える。その女子生徒と視線が交差したような気がしたのだが、あくまでも気のせいだと一平は視線を逸らした。

 今の状況を再認識した為である。こんな状況になれば勿論、周囲の視線も一平に向かっているわけで。

 

 (ううぅぅぅ、恥ずい。すげー恥ずい。何か言わないとやばいよなこれ)

 

 そして、生唾を飲み込む。できることならば逃げ出してしまいたい、という感情が少なからずあるのだが、

 

 (そういうわけにもいかないよな。え、ええっとー)

 

 一平にしてみれば、なるようになればいい言葉でも見つかるかと思っていたのが失敗だったのかもしれない。生憎とこんな時に格好のいい言葉など都合よく見つかるはずもなく、適当に口から出てしまったのは、

 

 「すっ、すいません遅刻しましたっ! 新入生の藤白一平です!!」

 

 謝罪と自己紹介、という簡素なもの。春だというのに、頬を伝った汗がやけに冷たく感じる。目だけ動かし辺りの様子を伺うと、周囲の視線も恐ろしい程に冷たいものだった。

 

 (やっちまったぁー……入学早々ツイテねーよ。俺の高校生活は初日で終わりか)

 

 その静寂の中、静粛を促すかのように乾いた手の平の音が鳴る。

 

 「はいはい、皆落ち着いてー。それにしても藤白一年生、入学日から遅刻とは随分と度胸があるねー。フフッ。さっき挨拶をしたんだけどー、皆と同様、貴方にも期待しているよー。安倍先生、彼を案内して」

 背後に居たはずの女性が、いつの間にか教師っぽい人達が連なる席の一番前に座っていた。

 「すいません。ほんっとーにすいません!」

 「さぁさぁ、座って座ってー。時間も押してるよー」

 ほんわかとした女性の言葉に、長身痩躯で、アルカナの教師用スーツを身にまとった男性が一平に近寄っていく。

 「肝が据わった奴だなー全く。僕のクラスには個性的な奴ばかりでも集めたのかね理事長さんは。藤白、お前の席は、あーそーこ。見えるか、1席空いてるだろ?」

 一平は、あの人理事長だったんだと僅かに考えたものの、思考の寄り道を修正して指先を確認した。確かに、詰め忘れたパズルのように席がポカンと空いている。

 「は、はい。ありがとうございます」

 

 「行事中だ、さっさと席につけよ。トラブルメーカー」

 

 軽く肩を叩かれ、後押しされるがままに一平は踏み出した。できるだけ目立たないようになのか、これ以上の泥を被らないようになのか身を低くしながら、早足でそそくさと席に向かい、できるだけ気にする素振りは見せないように席に着く。

 それを確認したのであろう理事長が、壇上の彼女にどうぞ、続けてくださいというように手を差し伸べていた。

 壇上の彼女が再び言葉を語り始めてから、一平は小言で呟いてしまう。

 

 「やっぱり俺の呼び方って、ここでも『トラブルメーカー』なんだろうなー。はははっ、はぁ~」

 

 それが、乾いた自嘲だったということは改めて言う必要もないだろう。


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