表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

革命の姫君

作者: 桜酒乱酔

はじめまして&こんにちは

白装束の黒魔導師です

今回は何とか完結させる事ができ、ほっとしています。まだまだ勉強中の身ですので感想等どうぞよろしく御願いいたします。

とある王国の話である。その王国では世継ぎの争いを無くすため王子または王女は一人に絞るという掟があった。王と王妃は一人しか子を成す事が許されず、夫婦の寝室も別にされ外には見張りの兵を付ける程の徹底ぶりだった。

今から十七年前、王妃は双子の女児を産み落とした。一人しか産んではならない世継ぎ、しかし産まれてしまったのは双子。元老院では議論がなされ、出された答えは『一人は王女として育て、一人は幽閉しいなかった事にする。』との事だった。王族以外の貴族の養子にするという話もあったが国内での貴族間の対立を深めてしまうとの懸念があり否決。一人は乳母に抱かれ子供部屋へ、一人は兵に抱かれ王宮の敷地の奥の森にある塔へと分けられた。塔の女児は秘密を守るため元老院の一人が世話をする事になった。


十七年後


イレーヌは塔にある小さな窓から顔を出した。王族とは思えない粗末でぼろぼろの服を着てはいるがそんな物は気にならないくらいイレーヌは美しくなっていた。外に出る事が許されない為色は病的な程白く美容師を呼ぶ事など出来ない為髪も伸ばしたままだがきちんと櫛を通され美しい艶を放っていた。深紅の瞳に銀の髪がよく映え、イレーヌの持つ王族の気品を溢れさせている。イレーヌは窓辺に寄り掛かり目を閉じ、耳を澄ませた。イリーナ王女主催の舞踏会があるらしく王宮内が慌ただしい様子が聴こえてくる。

「今日も王宮で舞踏会があるのね。最近毎晩のように舞踏会だの晩餐会だの、無駄遣いばかりね。」

イレーヌは溜め息をつく。イレーヌはこの塔以外の世界を書物でしか知る事が出来ない。幸いイレーヌの世話係の元老院は学問とマナー等女性のたしなみだけはきちんと修めさせてくれた為文字が読めたイレーヌはやたらと読書に耽った。イリーナにイレーヌの存在を隠す為衣服等は最低限しか与えられないがそれでもイレーヌは文句一つ言わなかった。この国はかつて王位継承者が複数いた際ほとんどの代で継承権を巡り、王族同士の争いが絶えず、何度も多くの血が流れた。それを二度と繰り返さない為の掟。イレーヌはその運命を受け入れ、十七年もの歳月をここで過ごした。王女としての幸せ、女としての幸せ、その全てを捨てて。この塔から王宮まではかなりの距離があるがイレーヌは耳を澄ませるだけで王宮の中の音や声を聴く事が出来た。ある時は王宮から聴こえてくる音楽とイリーナにダンスを教える教師の声を聴きながらダンスを踊り、またある時は兵に剣術の訓練をしている声を聴きながら剣術の真似事をした。書物と聴こえてくる音達が塔から出る事を許されないイレーヌの外の世界との繋がりだった。


一方、王宮にある衣装部屋では金色の髪に青い瞳の少女がドレスを捲りながら忙しなく動き回っていた。

「今日のドレスはどうしようかしら。」

イリーナは色とりどりのドレスに囲まれ楽しそうに溜め息をついた。イレーヌが幽閉されただ一人の王女となったイリーナは毎日金を湯水のように使い、贅沢三昧の生活を送っていた。王妃はそんなイリーナを叱る事もなく、寧ろ甘やかした。王妃にとって初めての娘、一人は掟に奪われ会う事も話をする事も許されない。ならせめてこの子だけは幸せにしてやりたい、そんな思いからかイリーナを甘やかす度合いは常識からは逸脱していた。イリーナはそれをいいことに我が儘を暴走させている。自分は何をしても許される、そんな間違った傲り。立場が立場だけに一人の少女のただの我が儘とは民衆は受け取っていなかった。イリーナの無駄遣いと比例して上がっていく税金、貧困層は悲鳴をあげていた。無論そんな人々の声もイレーヌは聞こえている為日々胸が痛かった。


「イレーヌ様、クラウスが参りました。」

塔の下からイレーヌの世話係をしている元老院のクラウスが声をかける。クラウスは塔の鍵を開けると中へと入る。塔の鍵はクラウスのみが持つ事を許され、クラウスが持つもの以外に塔を開ける事は出来なかった。

「ねえ、クラウス。」

「何ですかな、イレーヌ様。」

ノートを取る手を止めイレーヌはクラウスに問いかけた。

「私達は間違っていなかったのかしら。」

「と、言いますと?」

クラウスは本を閉じイレーヌの向かい側に腰を下ろした。

「確かに私達王族は王位を巡って醜い争いを続けてきたわ、でもそれは王女王子を一人に絞るだけで解決される事なのかしら?」

イレーヌは溜め息をついた。事実、たった一人の王女はやりたい放題で国を疲弊させつつある。それを助長させる愚かな王妃、娘と妻の愚かな行為すら制止できない頼りない王。クラウス自身疑問に思っていた。イレーヌを消した事で国はおかしくなっている。

「イレーヌ様、確かに貴女の仰る通りです。」

争わせない掟より絞る掟、この時点で何かがおかしい。

「ねえクラウス、ここは貴方以外は来ないわね。」

「はい、秘密を守る為ですからね。……まさか?」

クラウスは嫌な予感がした。イレーヌは真剣な眼差しでクラウスを見つめている。

「ええ、そのまさかよ。私を一度ここから出して欲しいの。」

イレーヌは真剣だった。自分に聞こえる声を間近で聞きたい。そしてこの国の現状がどのようなものなのかしかと見極めないといけない。自分も王族のはしくれなのだから。制止も何もできず黙っているクラウスにイレーヌは更に強く訴える。

「民衆あっての王族よ、私達の勝手で苦しめるなんて事あってはならないの。こんな時に掟云々言っていられないわ。身分は決して明かさない、だから……。」

クラウスは溜め息をつくとイレーヌの目を見つめて言った。

「分かりました、貴女を外へ解放致します。」


「姫様、王宮へ民が集まっております。」

イリーナが紅茶を啜っていると兵が一人報告に訪れた。イリーナはティーカップを置くと報告に訪れた兵を睨んだ。

「私のティータイムを邪魔するなんて重罪だわ。」

イリーナはそう呟くと侍女を呼び、羊皮紙と王家の印を取ってこさせた。羽ペンを羊皮紙に滑らせ王家の印を捺すと兵に手渡した。

「王女の名において命ずるわ、速やかに遂行なさい。」

イリーナは猫の様に目を細めて笑った。兵はその目にゾッとしたがイリーナの部屋を後にした。ガントレットを通して触れたイリーナの手の冷たさに兵は恐れすら抱いた。兵はイリーナから受け取った羊皮紙を上官に渡した。上官はバルコニーに出ると内容を読み上げた。

「王宮へ詰めかけている民衆に告ぐ、『王宮へ多数の民衆が詰めかけるという事は十分に反逆罪である。最前列にいる者は見せしめに処刑せよ。』との命が下った。」

その頃イレーヌは初めて塔の外へと踏み出していた。初めて当たる日の光に目を細め、森を抜ける道を歩いているとイレーヌは何やら禍々しい空気を感じた。人々の騒ぐ声も聴こえてくる。ふと嫌な予感に駆られイレーヌは足を早めた。人々の声が近付く度イレーヌの顔は青ざめていく。人々の声、それは悲鳴だったから。人々の姿が視界に映った瞬間イレーヌは足を止めた。

「何…これ…。」

イレーヌの目に映ったもの、それは王宮の周りに並ぶ人の串刺し死体だった。そしてその骸を王宮兵士が槍を突き刺したまま掲げ挙げている。王宮から逃げていく人々。泣き叫ぶ声がイレーヌの頭の中を乱反射する。イレーヌは兵士達に見付からないよう森を抜けて街に出た。王都は美しくきらびやかだった。初めて見る街並み、外の世界。しかしイレーヌは何の感慨も湧かなかった。さ迷うように王都を抜ける。きらびやかな世界が一転、荒廃した街がそこにはあった。そこをふらふらと歩く人々は痩せ細り、表情も失せていた。泣き叫ぶ声や絶望にうちひしがれた声がイレーヌの中に流れ込んでくる。イレーヌの目から大粒の涙がぼろぼろと溢れてくる。イレーヌは崩れるように膝をついた。

「ごめんなさい…ごめんなさい。」

イレーヌはそんな言葉しか出てこなかった。守らなければいけないはずの国民をこんなにも踏みにじってしまった。王族はなんて愚かだったのだろう。

「あんたそんなところでどうしたんだ。」

声をかけられイレーヌが顔をあげるとそこにはイレーヌと同じ年頃の少年が立っていた。蜂蜜のような色の髪にエメラルドの瞳。端整な顔立ちの少年はイレーヌに手を差し出した。

「立てるか?」

「…ありがとう。」

イレーヌが立ち上がろうとした時マントのフードがずり落ちた。『イレーヌ様の銀の髪、深紅の瞳は王家にしかない色です。街の者の目には触れさせないように。』イレーヌは塔を出る時クラウスからそう告げられていた。イレーヌは急いでフードを上げようとしたが間に合わなかった。露になる目映い銀の髪。つい今しがた自らの片割れが起こした惨事の事もある。きっとこの少年は憎き王族を捕らえ、他の民衆の下へと晒すだろう。

「あんた…。」

少年はそう一言だけ呟きイレーヌのフードを再び被せ手を引いて歩き出した。


少年、カインは驚いていた。王族がこの街にいる事に対してもそうだがそれが塔に幽閉されているという幻の王女であった事に。カインは隣国の王子だった。まだ王子であった頃この国を訪れた際従者の目を盗んで王宮の敷地を散歩していると森の中に塔が見えた。塔にある窓からきらきらと光が見え、カインは塔の近くまで行った。窓から見えた光はイレーヌの銀の髪であった。声をかけようとしたところを従者に捕まり、一言も言葉は交わさなかった。しかしカインはイレーヌの事を一時も忘れられなかった。きちんと顔を合わせたのはイリーナだったが何も感じなかった。この時カインは十歳だったが容姿も整っており、イリーナは一目惚れだった。すぐに婚約を迫ったがカインは取り合わずイリーナの怒りを買ってしまった。この頃既に我が儘し放題だったイリーナは名誉を傷つけられたと王妃に訴え、王妃は軍を動かしカインの国を完膚なきまでに叩き潰した。元々芸術重視の大人しい国柄のカインの国は軍の強化はあまりしておらず一方的に国を蹂躙された。国の民はイリーナの我が儘に振り回され失わずに済んだ生命を略奪された。カインはイリーナ達の国へ亡命した。カイン

の父が『まさか自分の国へ亡命するとは思わないだろう。』と言ったからである。平民という身分になったカインは改めてイリーナの所業を知る事になる。ふと回想から現実に戻り、カインは傍らのイレーヌを見た。フードから覗く目映い銀の髪は地面に突っ伏したせいか所々土が付いている。泣き腫らし赤くなった目はまだ少し濡れていた。病人の様に青白い顔色が更に血が巡っていないようだった。

「大丈夫か?」

静かに頷くイレーヌはカインが手を離した途端に倒れてしまいそうな程足元が覚束なくなっている。街に入った事により民衆の声が絶えず頭に流れ込んでいた。憎悪や怨念や絶望の声ばかりが頭の中で乱反射し確実にイレーヌの精神を蝕んでいた。次第に目の焦点が定まらなくなり、カインの手をすり抜けて地面に踞ってしまった。

「おいっ!大丈夫か!」

イレーヌはカインの声も拒絶するかのように耳を押さえいやいやと首を振る。カインは暫く悩んでいたが一度ため息をつくとイレーヌの首筋に手刀を入れた。気を失いイレーヌはぐったりと地面に横たわる。カインはイレーヌを背負うと教会へと向かった。


「お帰りカイン兄ちゃん。」

カインを出迎えたのは小さな少年だった。この教会はクラウスが建てたもので孤児院も兼ねていた。

「今日はクラウスさん来てるか?」

「うん、院長室にいるよ。」

イレーヌを背負ったままカインは院長室に向かった。院長室には山のような書類がありクラウスは書類の向こうにいた。

「カイン様どうされました?」

書類から顔を上げたクラウスはカインに背負われたイレーヌを見て目の色が変わった。

「イレーヌ様……!」

「街に入ったところで踞ってたよ。たちまち様子がおかしくなったんで気を失ってもらった。……出したんだな?」

二の句がつげずにいるクラウスにカインは怒りが沸き上がってくる。

「イレーヌは能力者なんだろ、能力者をこの街に入れたらどうなるか想像つかなかったのか!」

カインは書類だらけの机を叩いた。バーンという音が暫く部屋の中に響いていた。クラウスは後悔に苛まれている様子で視線を落とした。イリーナが荒廃させた街は貧困に喘ぐ民衆の負の感情ばかりが渦巻いている。その中へイレーヌのような超聴力、心読能力の持ち主が足を踏み入れるという事は自殺行為だという事はクラウスも理解していた。それでもイレーヌは外へ出ると言ったのだ。

「クラウスは悪くないわ。」

いつの間にか目を覚ましていたイレーヌがカインの背から降りながら言った。

「私だって覚悟してあそこを出たもの。流石に刺激が強すぎたけど。」

イレーヌはカインに微笑みかける。クラウスはほっとしたように口元を緩めた。

「ご無事で何よりです。イレーヌ様。」


イレーヌは湯浴みをしながら今日の事を考えていた。初めてみる外の世界は想像を越えた有り様だった。自分の国の民が虐殺される様まで目にしてしまい、危うく精神崩壊を招くところだった。王族の罪は王族が償うしかない。手遅れになってしまう前に。

「着替えおいとくね。」

孤児院の少女が服を用意してくれたらしい。湯船から上がり、イレーヌは頭を振った。銀の髪から四方へ飛ぶ水滴は髪から発される光を受けきらきらと光った。髪を掻き上げたイレーヌの瞳には炎が宿っていた。


イレーヌが浴室を出るとカインが壁にもたれながら立っていた。

「気分はどうだ?」

「ええ、もう大丈夫よ。ありがとう。」

イレーヌに微笑みかけられカインは照れたのか少し頬を赤く染めた。あの時一瞬で恋に落ちた少女が今目の前にいるのだ。

「貴方、あの時の?」

カインの声が聴こえてきてイレーヌははたと思い出した。幼少時から自分の能力に気が付いていたイレーヌは王宮の騒がしさの中からカインが国を訪れる事を知った。本の中でしか知らない王子様、イレーヌも一目見たいと思い、塔の窓から顔を出していたのだ。イレーヌも一目で恋に落ちた。決して実る事のない恋に。しかし隣国との戦争の話を聞き一人枕を濡らす日々を過ごしていた。まさか再開する日が来るとは二人とも思っていなかったのだ。カインはイレーヌが覚えていた事を知って少し嬉しそうに笑ったがイレーヌは表情を曇らせたままだった。イレーヌは戸惑うカインを置いてクラウスの元へ向かった。クラウスは調べものをしていたらしく本が何冊も開かれていた。クラウスは部屋に入ってきたイレーヌに気付くと顔を上げた。イレーヌは今にも泣きそうな顔で扉の近くに立っていた。

「…どうされました?」

クラウスが恐る恐る問う。

「クラウス…私…私…っ。」

語尾が次第に涙声になる。

「カインはあの時の王子様だった。おまけに相思相愛だったわ。」

それは良かったですね、クラウスはそうは言えなかった。少し投げやりに想い人の事を話すイレーヌはカインとの再会を喜びそして後悔しているのだから。

「私には許されない事だわ。カインの家族も国も私が奪ったのだもの。」

「イレーヌ様それは違います!」

「違わないわ!」

クラウスが否定しようとしてもイレーヌは受け付けなかった。涙をぼろぼろ流しながら首を横に振る。

「私の片割れがした事は私がしたも同然、ましてや王族なのよ。とりわけその罪は重いわ。」

一人の王女の暴走を王も王妃も家臣も誰一人として止められなかった。クラウスもイリーナに楯突いて首をはねられればイレーヌの事を塔に生き埋めにしてしまうと思い何も出来なかった。

「この街の人達の声を聴いたわ。皆苦しんでた。私が苦しめてるのよ。」

イレーヌはクラウスの膝にすがって泣いた。声を圧し殺して泣いた。カインは院長室の扉の外で座り込んでいた。追いかけてきたもののかける言葉が見つからなかった。イレーヌは王族を自分を決して許す事が出来ないだろう。そしてカインへの恋慕の気持ちも許す事は出来ないだろう。そして同時にカインの恋も実らないのだ。カインは喩えようのない喪失感にかられた。ふと背後の扉が開き、中からクラウスが現れた。

「カイン様、イレーヌ様を部屋へお願いします。」

どうやら泣き寝入りしてしまったようだ。

「部屋って?小さい奴らなら大丈夫だろうがイレーヌと年近い奴らのとこは無理だろ。」

「カイン様のところでどうにかなりませんかな?」

カインはクラウスの仕事を手伝う為に一人部屋を使っていた。カインは驚きを隠せないようで危うくイレーヌを落とすところだった。「待て待て待て!お前今の話聞いてなかったのかよ、俺といる方がよほどしんどいだろ。」

「イレーヌ様は私とカイン様くらいしか心を開いてくださらぬ。」

カインは動揺が収まらないまま自分の部屋へと戻った。ベッドにイレーヌを寝かせると傍にある椅子に腰掛ける。しゃっくり混じりの寝息を聞いていると愛しさが湧いてきて諦めかけた恋に火を点ける。

「クラウスの奴無茶苦茶言いやがって。俺だって男なんだぞ。」

カインは吐き捨てるように呟くと机に突っ伏した。


一方クラウスは以前より疑問に思っていた掟の裏にある何者かの意思に辿り着いていた。掟が決められたのは先々代の王の時代、既にクラウスら元老院が国の政治の殆どを担うようになっていた時代だ。むしろ王を差し置くぐらいの力を持っていた。この時は王子が二人おり、一人の元老院がその二人にそれぞれ干渉し、二人の仲を険悪にしていたという事実が浮上してきたのだ。この時は二人の王子のそれぞれの派閥が争い、死人まで出てしまった。すぐに会議を開き二人の王子の処遇を巡って議論がなされた。議論の末、第二王子の幽閉が決まった。第二王子は大勢の兵士によって塔へ追いやられる際その元老院の顔を呪ってやるとばかりに睨み付けていたという。この時二人の仲を険悪にした張本人の元老院は『王位継承者が複数いるのはこの国に良くない事だ。王列びに王妃は一人しか世継ぎを成してはならんとし、国の安定を図ろうぞ。』と発言し掟が出来たのだ。この掟を作った事によりこの元老院は讃えられ、元老院の中でも発言が優先されていく。元老院は世襲制であり、代々受け継がれていく為立場は保持されたままなのだ。元老院制が有る限り実質国の頂点に立ち続ける事ができる。クラウスは背もたれに身体を預けため息をついた。

「愚かな者よ、お前の悪巧みは世代を越えて国を滅ぼしにかかっているぞ。」

クラウスはまるで目の前に彼の人物がいるかのように厳しい表情で呟いた。


イレーヌはあれから三日間眠り続け、外に出てから四日目ようやく目を覚ました。ベッドの傍らにはイレーヌの看病をしていたのだろう、カインが椅子に座ったまま眠っていた。イレーヌはカインの背に毛布を掛け部屋をあとにした。階段を降りていくと炊事場が見えた。孤児院では毎日の食事をここで暮らしている子供達が交代で作っているらしい。小さな手で馬鈴薯の皮を剥いている様は危なっかしく今にも手に傷をつけそうだった。

「貸して、やってあげるから。」

イレーヌはナイフを受け取ると器用に馬鈴薯を剥き始めた。塔にいる間は全て自分でやっていた為慣れたものである。馬鈴薯を剥き終わるとまた手早く朝食を作りにかかる。ちらほらと子供達が起き始め、院内は急に騒がしくなる。カインも降りてくるとテーブルのセッティングを始めた。

「大丈夫そうだな。それにしてもお姫様なのにこんな事出来るなんてな。」

カインは小声で呟く。

「私はお姫様じゃないわ、一人の罪人よ。」

イレーヌはそう言うと炊事場を後にした。


カインがイレーヌの後を追うとイレーヌは孤児院の最上階にいた。イレーヌはカインに気付くと髪を摘まんで振り向いた。

「この国では髪を売る事が出来るのでしょう?」

イレーヌは塔にいる間一度も髪を切っていない。その長さはかなりのもので今はある程度結い上げているが下ろすと地面を1メートル程擦って歩く事になる。イレーヌの髪は王族にしか現れない珍しい銀の髪、金貨百枚は下らないだろう。(イレーヌ達の国は金貨銀貨銅貨とあり、金貨は銀貨五十枚銀貨は銅貨二十枚ほどの価値がある。金貨銀貨は一般には回らずほとんど富裕層が使っている。)カインは少し残念そうな顔をした。

「大丈夫よ、半分位しか売らないから。」

カインが残念そうなのを気にしてかイレーヌはそう言った。

「髪買いは危ないのがたまってるとこに店を構えてるからついてくよ。」


「何で髪を売るなんて言い出したんだ?」

歩きながらカインが問う。

「まあ外を歩くならこの髪は邪魔だし、切るなら売って街の人達にお金をあげれたらいいなって。結局は罪滅ぼしなの。」

イレーヌはそっと微笑む。瞳の下には暗く隈が刻まれている。先日から激しく消耗しているのだろう。対象に触れなくても読み取れるのは相当強い力の持ち主なのだ。そして強いが故に脆い。早く力をコントロールしないとイレーヌの精神は恐らく崩壊してしまうだろう。カインもかつてはそうだったからだ。カインには眠っている間にこれから起こる事を視る能力があり自身の国を滅ぼされる夢やこの国で起こる惨劇を何度も視てノイローゼになっていた。今はそれらをコントロールして自らの危機は脱している。

「心配してくれてるの?」

カインがふと我に返るとイレーヌがカインの顔を覗き込んでいた。

「何でも筒抜けとは参ったね。誤魔化せないな。」

カインは照れくさそうに頭を掻いた。イレーヌは少し足を早めた。そしてカインには聞こえないように呟いた。

「そんなもの私には必要ないわ。」


二人は髪買いの店に着いた。マネキンの頭部には色とりどりのかつらが掛かっている。腰に髪を切る鋏をじゃらじゃらとぶら下げた店の主が出てくる。

「ようカイン、今日はどうしたんだ?」

カインの後ろに付いていたイレーヌが一歩前に出た。

「私の髪を買ってほしいの。」

イレーヌはそういうとフードを脱ぎ髪を下ろした。銀の髪に部屋の明かりが反射してキラキラと星が舞う。店の主は眩しそうに目を細めた。店の主はしばらく目を目をパチパチさせていたがすぐに我に返った。

「カインこのお嬢さんおっ王家の人じゃねえか!」

イレーヌは静かに椅子に座った。

「半分にしていただけるとありがたいわ。」

店の主はイレーヌに見つめられ少しドキリとする。そして唾を飲み込むと恐る恐るイレーヌの髪に触れる。腰のホルダーからゆっくりと鋏を抜き取ると鮮やかな手つきでイレーヌの髪を切り始める。カインは一言も発する事もなく壁にもたれていた。部屋の中は静かで店の主の鋏の音だけが響いていた。


「金貨がなくて全部銀貨にされてしまったから大変ね。結構な大荷物だわ。」

イレーヌは頭陀袋を肩に担ぎながらため息をつく。カインは少し困ったように苦笑いする。

「お嬢さん、幽閉されてた王女様だったのか。」

店の主は切った髪を集めながら不思議そうに言う。そしてしばらく黙っていたかと思うとこう切り出した。

「王女様なら今のあの女から王位奪還出来るんじゃないか?」

店の主の言葉にカインとイレーヌは呆気にとられた。イレーヌは担いでいた頭陀袋を一度床に下ろした。

「革命を起こせって事?」

イレーヌの代わりにカインがそう聞き返す。イレーヌは自分の身体が震えるのを感じた。王宮を出た時の光景が脳裏にフラッシュバックする。確かあの時は王宮の周りに人が大勢集まっただけであんな惨劇になったのだ。革命など起こしたらもっと酷い惨劇が待ち受けているだろう。

「か、簡単に言わないで。私は……っ。」

イレーヌは絞り出すようにそう言うと店を飛び出した。

「どうしたんだ?姫さんは?」

店の主は呆気にとられている。カインは一度ため息をつくと店の主の頭を叩いた。

「イレーヌが王宮を出たのはあの日なんだよ。」

店の主はしまったとばかりに口を押さえた。王宮から出てくるならばあの光景は嫌でも目に焼き付ける事になる。イレーヌが自分を罪人だと言ってしまう程の事なのだ。イレーヌは自分の片割れの罪を自分一人にのし掛からせ、心を痛め続けている。確かに継承権を主張してイリーナからこの国を奪う事は可能でイレーヌなら世論も味方に出来るだろう。

「イレーヌは確かに王族という肩書きに胡座をかいている他の王族とは違う。ただどんな事も背負い込んでしまうからいつかイレーヌ自身に限界がくるだろう。」


イレーヌは息を切らして足を止めた。さっきの店の主の言葉が胸に突き刺さる。革命を望む程民衆は困窮している。自分は外に出て何がしたかったのか。イレーヌの頭をふと革命を起こすべきではないか?との考えが過る。しかしすぐにあの光景がそれをかき消していく。あの時の人々の声が耳について離れない。イレーヌは耳を塞いだ。

「やめてください!」

近くで女性の叫び声が聴こえイレーヌは声のする方へ向かった。路地裏に二人の兵士が剣を突き付け一人の女性を壁際に追い詰めていた。イレーヌは咄嗟に女性の前に立ちはだかる。

「貴方達、一体何をしているの。」

イレーヌが問う。兵士達は鎧を着けたままの為表情は判らない。

「こいつは納税の義務を果たしてないからな、この国じゃ納税の義務を果たせない奴は人として扱わなくていいんだ。」

さも当たり前といった風に吐き出された言葉にイレーヌは怒りを覚えた。イレーヌには口から出される声と心の声との二つが一度に聴こえているがこの二人は完全に目の前の女性を人として見ていなかった。

「貴方達は自国の民をそんな目で見るのですか。」

怒りで声が震える。彼等の声が言う。人じゃないから何をしてもいい。新しい剣の試し切りに使おうが拐って慰み者にしようが俺達にはそれが許されているのだと。自分が塔にいる間に民はここまで虐げられるようになっていたとは思いもよらなかった。

「私は甘かったようね。」

イレーヌはため息をついた。

「さっきからごちゃごちゃうるせえな。お前も叩き切るぞ。」

一人の兵士がイライラした様子でイレーヌに剣を向ける。イレーヌの背後で女性がひっと小さな悲鳴を上げた。向こうは鎧を着た訓練を受けている兵士、こちらは生身の女である。

「ちょうど新しい剣を試してみたかったんだよ。」

兵士は剣を高く振り上げる。イレーヌは懐からナイフを取り出すと素早く間を詰め兵士の鎧の継ぎ目にあてがった。

「大人しく剣を収めるか腱を切られて二度と剣を握れなくなるかどちらがいいかしら?」

突然の事態に兵士は剣を上げたまま動けずにいる。もう一人が新たに剣を構えようとするがイレーヌはもう一本ナイフを出す。

「貴方もよ。鎧の首の隙間位狙って投げれるもの。」

イレーヌは背後にいた女性に早く行けと合図し、女性が逃げた事を確認するとナイフを収めた。二人の兵士は脱力し地面に膝をつく。イレーヌは二人を見下ろしため息をつく。

「こんなにもボロボロなのね、この国は。」

兵士をどうしたものかとイレーヌが悩んでいるとカインが現れた。

「探したぞ、こいつら何なんだ?」

か弱そうな少女の足元に膝をついた男が二人。あまりにも異様な光景だった。

「そんなに異様かしら。私だって護身にナイフくらい持ち歩くわ。護衛なんていないんだもの。」

イレーヌは再びナイフを取り出すと器用に指先でくるくると回してみせた。カインは少し呆れた様子で苦笑いするとイレーヌの手を引こうと手を出した。イレーヌもそれに応え手を出そうとしたその時イレーヌの視界が急に暗転しイレーヌはその場に倒れ込んだ。

「イレーヌ!!」


「暫く安静にしていたら問題はなさそうですね。」

クラウスは安堵したように言った。極度の緊張から急に放たれると失神する事はよくある事らしい。あれからカインはイレーヌを背負って急いで孤児院に帰ってきた。クラウスは医師免許も取得しているため診察してみた所大事はなかった。

「どうやら兵士と一戦交えたみたいでな。」

カインは本当に呆れたように言う。

「イレーヌ様は人一倍責任感の強い方ですからね。恐らく兵士の声を聴いたのでしょう。」

イレーヌの寝顔を眺めながらカインはため息をつく。傍についていなかった自分が悪いのだとわかっていながらどこかに頼ってくれない事へのもの悲しさがあった。護身用にナイフを持ち歩いている事もカインは知らなかった。初めての外の世界でさえイレーヌは恐れも何もなく一人でいる。カインはイレーヌが塔を出る事を前以て知らされていた。イレーヌが困っている時に支えになってほしいとの事だった。しかしカインはまだ四日しか経っていないのに無力感に苛まれている。

「俺はイレーヌが出てくるのずっと待ってたんだぞ。なのに何だよ、何でこんなにも喜べないんだよ!」

カインは吐き捨てるように気持ちを吐露する。カインは自国を滅ぼされた事はイリーナの罪であってイレーヌのものではないと思っている。例え仇の親族であってもまとめて考えたりはしない。だからクラウスにイレーヌが塔から出るという話を聞いて内心嬉しかったのだ。能力者である故に今外に出る事に対しては心配があったが、長年の恋慕も報われると思っていた。しかしイレーヌ自身はイリーナの罪を背負い込みカインを受け入れようとはしない。イレーヌにとってはカインも罪滅ぼしをしないといけない相手の一人であり、恋愛の対象とする事事態許されないと思っている。恐らく一生そう思い続けるだろう。むしろイリーナがカインの国を滅ぼした事もあり、カインと恋仲になる事はイレーヌ自身には辛いものになる。

「ごめんなさい。」

いつの間にか目を覚ましていたイレーヌが呟いた。その瞳は涙で潤んで瞬きと共に目尻に流れた。カインはドキリとする。

「カインには辛い思いをさせてしまったみたいね。」

イレーヌは涙を拭うと身体を起こした。

「いいんだ、気にしないでくれ。それより身体大丈夫か?」

カインはイレーヌに触れようとして手を止めた。イレーヌは一言も話していないがイレーヌの声が聴こえた気がしたのだ。不思議そうに首を傾げるカインをイレーヌは黙って見ていた。カインはイレーヌの目を見た。透き通ったルビーの様な真紅の瞳がまるで炎が煌めいている様な光を放っている。ふとイレーヌが何かに気付いたように口を手で塞いだ。

「ごめんなさい私またあっちの力を使ってしまったみたいね。」

「あっちの力?」

カインは驚いてイレーヌを見る。

「私に`声´を聴く能力があるのは知っているでしょう。私にはもう一つ能力があるの。」

カインが唾を飲み下すゴクリという音が静かな部屋に響く。

「私の`声´を相手に伝えて服従させる事が出来る能力よ。」

イレーヌはそう言うと眉をしかめた。そして抱えた膝に顔を埋める。カインは驚きのあまり二の句が次げずにいる。

「王族の傲慢が凝り固まった能力だわ。私この力大嫌いなの。」

イレーヌは顔を埋めたまま吐き捨てるように呟いた。抱えた白い肩に赤く爪が食い込む。

「やめろ!」

カインは思わずイレーヌの手首を掴んだ。そして掴んだ腕の細さにまた驚いた。ふとカインはカチャリと何かの閉まる音が聴こえた気がした。

「痛い…離して。」

イレーヌは何の感情もこもっていない声でそう言った。カインはその声の冷たさに少しぞっとした。


イレーヌは次の日から孤児院の庭で木剣を手に素振りを始めた。幸いにも孤児院の子供達の中にイレーヌに対し敵意を向ける者はおらずイレーヌは孤児院に受け入れられたがイレーヌ自身はあまり馴染もうとはしなかった。やはり民衆に対する負い目が強くむしろ受け入れられる事を拒んでいる様だった。素振りを始めて数日、木剣を振り続けるイレーヌの表情は無表情でカインの不安を煽る。

「カイン、貴方確か幼少時から剣術に長けていると聞いた事があるわ。私に教えてくれないかしら?」

特に断る理由はないがイレーヌの剣術を学ぼうとする理由が察しがついてしまいカインは複雑だった。イレーヌは元々運動神経が良いらしく剣術もすんなりと身に付いてしまう。すぐにカインと同じレベルまで達してしまいカインは焦っていた。

「クラウス、イレーヌが革命を起こそうとしてるかもしれない。」

夜イレーヌが眠ったのを確かめてからカインはクラウスの元へ行った。クラウス自身は歪んだこの国の上層部を何とか出来ないものかと策を巡らせていた所だった。

「何という……イレーヌ様は本当に無茶をされる。」

クラウスは頭を抱えた。イレーヌはやると決めたら最後までやりきるだろう。ましてや民衆を救う為の革命ならば生命を賭してまで。最近のイレーヌの様子では恐らく一人で乗り込むつもりらしい。カインもそれを危惧していた。

「あれを見たからにはイレーヌは他の者を革命に加えたりはしない。一人であの城に挑むのは自殺行為だ。イリーナの私兵はどんな事でもやる奴等だからな。」

カインは天井を仰ぐ。イレーヌを止めるという結論には至れない自分が情けない。革命を起こさないでいたら民衆は苦しみ続ける、イレーヌはそれが解っているから革命を起こそうとしている。そして王宮周りに大勢の民衆が詰め掛けただけであのような残虐な行いをするイリーナだからこそ一人で事を成そうとしているのだ。そんなイレーヌをどう止めたらいいのかカインには判らないのだ。結局二人で何の答えも出せないままカインはクラウスの部屋を後にした。イレーヌの部屋に行くと眠っていた筈のイレーヌは窓の外を見ていた。

「起きていたのか。あんまり窓辺にいると身体冷やすぞ。」

月光が射し込みイレーヌの髪を輝かせる。月光に照らされ銀の髪を靡かせる様は幻想的でまるで人ではないようだった。寝間着からのぞく白い肩にはまだ爪の跡がくっきりと付いていた。カインは顔を歪める。気を引き締めていないと自分の情けなさに涙が出そうだった。

「クラウスに話したのね。私が革命を起こそうとしているって。」

カインはギクリとする。イレーヌの能力を考えるとイレーヌに隠し事など出来はしない。カインはため息をつく。

「クラウスは腐敗しきったこの国の上層部をどうにかしようと動いてくれているわ。あまり余計な物を背負わせないであげて。」

口調は優しげだが表情はない。あの夜からカインはイレーヌの喜怒哀楽の変化を見た事がない。

「イレーヌはどうなんだ。全部一人で抱え込んで。」

カインはイレーヌの肩を掴む。

「もっと頼ってくれてもいいじゃないか……!」

カインは激しい感情を撒き散らす。イレーヌは一瞬迷うような表情を見せたがすぐに無表情に戻った。赤い瞳がまた煌めく。カインははね飛ばされるようにイレーヌの肩から手を離した。

「私は責任を果たすだけ。貴方には関係のない事だから構わないで。」

カインは黙って部屋を出ていった。イレーヌはベッドに横たわる。すると一気に涙が溢れてきた。カインに掴まれた肩が熱い。自分の国の問題にカインを巻き込みたくない、その一心で募る恋慕の心を押さえ付ける。しかしイレーヌの思いとは裏腹にカインはイレーヌに関わろうとしてくる。イレーヌは布団に潜り込み身体を丸めた。


「イリーナよ、先日の一件やり過ぎではないのか?」

王がイリーナを呼び止める。いつもなら王妃やイリーナのする事を何も咎めない王だが今回の一件は訳が違うようだ。侍女と新しく作るドレスの相談をしていたイリーナはとても不機嫌そうに父を見る。

「納税は国民の義務であると私に教えたのはお父様でしてよ、義務を果たせないのに権利の主張ばかりする虫に少しお灸をすえただけですわ。」

王はそれ以上何も言えず黙り込む。王妃が後ろについているからと父に対しても態度を変えないイリーナ。父に背を向けつかつかと廊下を歩くイリーナの背中を見送りながら王はふとイレーヌの事を思い出した。産まれてすぐに塔へ幽閉され王は会う事が出来なかったもう一人の娘。

「クラウスを呼べ。」

王は近くにいた侍女にクラウスを呼びに行かせた。


「何か御用ですか陛下。」

クラウスが呼ばれたのは謁見の間ではなく王の私室だった。

「イレーヌは今どうしている?」

王はクラウスに背を向けたまま言った。王がイレーヌを気にかけるなど今までになかった事だ。クラウスはイレーヌが塔を出た事を伝えるか伝えないか迷ったが王の真意がわからない為今は控えるべきと判断した。

「何も御変わりなく過ごされております。」

クラウスはそう王に伝えた。イリーナに対し革命を起こそうとしているなど口が裂けても言える筈がない。王は恐らくイリーナに味方する。王からイリーナに話が伝わればイリーナはイレーヌを消す事さえ躊躇しないだろう。王はため息をつくとクラウスの方に向き直った。

「私が王でいる意味があるのだろうか。」

王は疲れた声で言う。

「国の実権は今や王妃と娘が握り好き勝手しておる。私は口出しも許されん。私が不甲斐ないせいで娘を一人幽閉する羽目になったと言われては黙っておるしかないのだ。」

幽閉を決めたのは元老院で王はそれを覆せない。王という立場にありながら何の決定権もないのだ。これがこの国の歪みであり悲劇の元凶である。元老院はその権威を守りたいが為に一度決定した事を取り下げない。そして自分達が正しいのだと傲慢に塗り立てられた勘違いをしている。クラウスはそんな元老院の中では異端でありクラウスの意見はあまり尊重されない。イレーヌはクラウスが引き取るつもりで貴族で引き取ってはどうかと発言したが元老院長に却下された。この国では公爵家が元老院を勤めている。クラウスの家は公爵家の中では末席であるがそこに王家の者が入るとなると末席に留めておくわけにはいかなくなる。今まで下に見ていた者と肩を並べる、もしくは上に見なければいけないのでは?という考えが皆の頭を過ったのだろう。自分達の立場と権威さえ保てれば一人の少女の人生など取るに足らない問題なのだ。結局あの会議ではイレーヌをいない事にしたい派とクラウスの議論となり譲歩案でクラウスがイレーヌの面倒を見るとの事になったのだ。王は近くにあった椅子に座り頭を抱えた。

「私は正直君達元老院を憎んでいるよ。王族とはいえ一つの家族だ。見てくれ、滅茶苦茶だ!!」

王はテーブルを叩く。置いてあったゴブレットが倒れ水が零れた。

「イレーヌの事を思わない日はなかった。王妃も娘を取り上げられなければこんなにはならなかった!国は平穏でいられたんだ!」

王は今まで堪えてきた怒りを吐き出すようにクラウスに訴える。王もクラウスが悪い訳ではないと解っている。しかし他の元老院には王の訴えは届かない。クラウスは王の肩に優しく触れた。

「陛下、貴方に国を想う強き意志があるのなら明日私の孤児院へ忍んでいらしてください。」

王はクラウスの言葉に驚き目を見開いた。クラウスは王がイレーヌを想う心に賭けてみる事にした。


イレーヌは剣術の練習を終えぼんやりと空を見ていた。塔から見ていた四角い空とは違い広く果てしない空。あまりに広すぎてイレーヌは怖くなった。革命を起こすと決意してからやけに夜を長く感じるようになり悪夢で何度も目が覚めた。イレーヌがぼんやりしているのを見つけた孤児院の少女、ルルゥが何やら嬉しそうにイレーヌの背後に迫る。その手には櫛が握られており一度切ってから下ろしたままにしているイレーヌの髪に狙いを定めた。ルルゥは目にも止まらぬ速さでイレーヌの髪に櫛を通し素早く編み上げた。そして櫛をくるくる回し懐に収める。ルルゥはパンと一度手を叩いた。イレーヌははっと我に返る。

「嫌だわぼんやりして。」

髪をかきあげようとして頭に手をやるとそこには見事に結い上げられた自身の髪があった。

「ルルゥ!また貴女ね?」

ルルゥが悪戯っぽく舌を出して駆け抜けてゆくのを見送ってイレーヌはため息をつく。ルルゥはイレーヌが孤児院に来てからよくこういった事をしている。イレーヌはそれを怒ったふりをして好きにさせてやるのを少し楽しんでいた。ルルゥは髪結い師を目指しておりイレーヌは練習台役をしてやるのも悪くないと思っている。イレーヌは少し微笑んで木剣を置いた。イレーヌの髪は舞踏会等で貴婦人がするような髪型に仕上げられておりルルゥの腕前が上がっているのを感じる。イレーヌは軽やかにステップを踏み始めた。ふわりふわりとスカートが広がり緩やかに回る。質素な服を身に纏っていてもイレーヌは優雅で美しかった。窓からそれを見ていたカインは感嘆のため息をつく。スカートがふわりとはためく度に覗く細くて白い脚についつい目がいく。そこにクラウスが現れた。クラウスの背後にはフードを被った王がいた。王はカインに気が付くと深々と頭を下げた。

「陛下何故その様な!顔を上げてください。」

カインはひどく困惑した。

「私が妻と娘を止められずあのような事に…何と御詫びしたらいいのか…。」

王は苦しそうに顔を歪める。クラウスは王の肩に優しく手を置いた。

「陛下、イレーヌ様はあちらに。」

促されるまま王は窓辺に寄ると目を見開いた。初めて見る我が子の姿。形容し難い気持ちが込み上げてくる。今すぐに駆け寄って親子の抱擁を交わしたい。しかし王はそうしなかった。

「イレーヌはずっとこの国を憂いておったと聞く。ならばイリーナの暴走を止められなかった私をも憎んでいるだろう。」

王は寂しそうにそう言うとカインに再び頭を下げた。

「あの子は十七年も幽閉されていた可哀想な子です。どうか幸せにしてやってください。」

王はそう言うと孤児院を去っていった。


数日後イリーナは紅茶をすすりながら書類に目を通していた。先日の王とクラウスの会話を偶然耳にしたイリーナは私兵の中で隠密行動が得意な者に命じイレーヌの事を調べさせた。そして自分とは双子の姉妹である事、王宮の敷地のはずれにある塔で暮らしている事どうやら今は孤児院にいるらしいという事を知った。そして銀の髪に深紅の瞳を持つ美少女という事もイリーナの耳には入っている。

「私にはないのに……許せないわ。」

イリーナは情報収集をさせた兵士を呼びある事を命令した。


イレーヌは孤児院の庭にある薔薇を手入れしていた。剣術の練習が一区切りつくとこうして少女らしい事をして気を紛らわせていた。イレーヌは花弁を守る為に花に覆いをかけながら前髪を耳にかけた。白い薔薇にふと手をかけイレーヌは小さく微笑んだ。塔にいた間は触れる事すらかなわなかった花、今はこうして触れる事ができる。花を愛でるなど一生できないと思っていたイレーヌは花に触れていると幸せを感じる事ができた。ルルゥはイレーヌの髪を編んで赤い薔薇を一輪差した。

「この薔薇姉様の瞳と同じ色だから良く映える。鏡見る?」

ルルゥは自分の腕前に惚れ惚れとしながらエプロンのポケットから鏡を取り出す。得意気なルルゥの声が聴こえてくる。早く見てほしいらしい。イレーヌは鏡を取ろうと振り向いた。その時身の毛もよだつような殺意と悪意が聴こえてきた。イレーヌは一瞬動けなくなった。その隙を狙いイリーナの刺客は剣を振り上げた。

「姉様危ない!!」

ルルゥの叫び声が頭に響く。イレーヌが振り返るとイレーヌの頬に鮮血がし吹いた。ルルゥの悲鳴に刺客は一度動きを止めた。

「ルルゥ!!」

イレーヌは急いでルルゥを抱えた。胴体の方は無事のようだが右腕が大きく斜めに切りつけられている。傷は腱のある所を通っていた。力なくだらりとぶら下がったルルゥの右腕からさっきまで握っていた櫛が落ちた。ルルゥの悲鳴を聞いてカインが駆けつけた。イレーヌに抱えられたルルゥの姿を見るとカインは青ざめていった。

「カイン、ルルゥをお願い。早く安全な所へ。」

イレーヌは異様に冷めきった声色だった。カインはイレーヌの声に少しぞっとしながらルルゥを抱えあげ医務室へと連れていった。刺客はなおもイレーヌに剣を向けたままである。イレーヌからは凄まじい程の怒気が放たれており刺客も剣を向けたまま動けずにいた。イレーヌの瞳が光を増し、炎が灯る。

「誰の回し者?」

刺客は言葉に詰まる。イレーヌは刺客に一歩ずつ近付いていく。スカートをまくりあげ太ももに革のベルトで留めていた少し大振りのナイフを取り出しケースを抜き投げ捨てる。

「誰の回し者?吐いてしまってくれないかしら?」

静かな声で柔らかな単語を使ってはいるが放たれている怒気と合わさるとこれ程恐ろしい脅迫はない。刺客は足が震えだすのを感じた。目の前にいるのはナイフを持ってはいるがか細い少女の筈であった。それが今では鬼神か何かの様に感じる。刺客は一歩後ろへ後ずさった。鎧を纏ってはいるが突っ込んでいく気には到底なれない。

「答えなさい!」

イレーヌが語尾を強めた。

「イ…イリーナ王女…。」

刺客は口を開くつもりはなかったが口を衝いて言葉が出た。刺客にはイレーヌの口元が笑ったように見えた。退いた筈なのにもう間合いを詰められている。

「そう…貴方私を殺しに来たの。イリーナに私の存在がばれたのね。」

イレーヌは刺客の兜と鎧の首の隙間にナイフをピタリと押し当てる。傷は付かないがナイフの存在を嫌でも感じさせる。

「あの子は一命は取り留めるでしょう。でも貴方はどうかしら。ここを切られたら貴方はきっと死んでしまうわね。」

刺客の耳元に口を近付け囁くようにイレーヌは言う。

「うっうわああああ!!」

刺客は悲鳴を上げその場に膝をつき、がくりと意識を失った。そこにカインが戻ってきた。イレーヌはカインの方を振り返る。カインの服に付着したルルゥの血を見るとイレーヌが放っていた怒気がすうっと引いていった。

「医務室でクラウスが診てる。止血はしたから一命は取り留めた。」

カインはルルゥの状態をイレーヌに告げる。一命は取り留めたと聞いてイレーヌは少しホッとしたようだったがまだ動けないようだ。カインは刺客を手早く縛り上げるとイレーヌの背中を押した。

「ルルゥの傍についててやってくれ。」

イレーヌはルルゥの元へ走り出した。


ルルゥはベッドに寝かせられ苦しそうな表情をしていた。イレーヌの顔が青ざめていく。イレーヌの髪から薔薇が抜け床に落ちた。

「良かっ…た、姉様は無事だったのね…っく!」

ルルゥはイレーヌが無傷である事に安堵したようだがすぐに苦痛に顔を歪めた。今のこの国の医療には腱を繋げる事が出来るような技術はない。イレーヌはがくりと膝を落とした。

「ごめんなさい、ルルゥ。私のせいで右腕が…。」

イレーヌの目から涙が止めどなく溢れ出る。ルルゥは髪結い師になって貴族に召し抱えてもらうのが夢だった。ルルゥはまだ十五歳、その若さで夢を摘み取られた。

「姉様…私は後悔していませんわ。姉様は姫様ですもの。私の夢は既に叶っていたのですよ?」

苦痛に苛まれながらもイレーヌを必死に慰めようとするルルゥ。それでもイレーヌはルルゥに謝り続けるしか出来なかった。

―私が産まれてきてしまったせいで。

イレーヌの中でまた一つ何かが壊れる音が聴こえた。

その日の夜、イレーヌはクラウスの部屋に呼ばれた。

「イレーヌ様、今回の一件を元老院で審議する事になりました。」

クラウスは悲しそうな顔をしていた。

「私は元老院とは名ばかりでほとんど発言力がございません。恐らく奴等はイレーヌ様を亡き者にする事で話をつけるでしょう。恐らく私をも。」

クラウスは静かに語った。イレーヌにも容易に想像出来た。イリーナの行動は王位継承者を一人に絞るには都合がよくそもそも存在していない事になっているイレーヌを消しても誰も罪には問わない。後は不穏分子のクラウスを消せば元老院には都合がよい。クラウスが死ねば孤児院は続けられず子供は飢える。しかし周囲の人々は自分が食べるのが精一杯で援助など出来ない。子供達は飢え死にするだろうしそうなればイレーヌを知る者も消す事が出来る。自分達の立場と権威が守れるならば他がどうなろうと関係ないと思っている彼等には雑作もない事なのだ。クラウスには例えイレーヌには喜ばれなくても自分の命を賭してもイレーヌを守るという覚悟があった。イレーヌは何も言わずクラウスの言葉を受け止めていた。クラウスは奥のクローゼットから服を一着取り出した。真紅の膝丈程のショートドレス。

「イレーヌ様は革命を起こすおつもりなのでしょう?その時にお召しになってください。」

にっこり微笑みながらクラウスはイレーヌにドレスを手渡した。イレーヌの顔が恐怖と悲しみに歪んでいく。イレーヌにとってクラウスは家族のような存在だった。家族を失う恐怖と悲しみが一気に押し寄せてきた。今回の件の末路を想像しながらもイレーヌは別の事を考えていた。今までイリーナに殺められてきた人々のその死を無駄にしない為に何をすべきなのか。

「私の家の家宝の一つ、先代の王から賜りし剣も貴女に差し上げます。どうかこの国を変えてください。」

クラウスは綺麗な細工が施された細い剣をイレーヌに手渡す。

「貴女はイリーナ王女とは違う。誰一人殺める事なく成し遂げられる筈です。」

暗い顔で下を向いていたイレーヌは顔を上げた。その瞳には炎が灯っていた。

「私必ず成し遂げてみせる。皆の人生取り戻してみせるわ。」


カインは部屋の外でクラウスとイレーヌの話を聞いていた。カインはイレーヌが革命を起こそうとしているのを知ってから革命の意志がある者を秘密裏に募り多数の仲間が集まった。だがイレーヌにはまだ話していない。犠牲を出したくないからカインにすら告げず一人で革命を起こそうとしているのだ。恐らく追い込んでしまうだろう。カインはイレーヌが革命を起こすのを待ち、革命の時に明かす事にしていた。

「決行の日は明日か。」


次の日元老院による議会が開かれイリーナの行動について審議がなされた。元老院長のアーノルドが議会の開始を知らせる槌を鳴らした。クラウスとイレーヌの予想していた通りに話は進む。その頃イレーヌは昨日クラウスに渡されたドレスを着て真新しい革のブーツを履き、剣を腰に差した。そして髪をポニーテールにし息を吐いた。そして地下に降りると昨日捕らえた刺客の縄を解いた。

「貴方にお願いがあるの。元老院及び王族相手に宣戦布告を伝えて。」

刺客は剣を奪われている為にイリーナの命は果たせない。イリーナに会った途端殺されるだろう。刺客はそれが恐ろしいのか膝が笑う。イレーヌはそれを見ると優しく微笑んだ。

「大丈夫、貴方は私の魔女めいた力に惑わされたとでも言えばいい。私が革命を成し遂げたら罪をちゃんと償って。」

刺客が王宮へ向かったのを見送ってからイレーヌはルルゥが寝かされている部屋へ向かった。ルルゥは痛み止を服用しているからかいくらか楽そうでベッドの上で体を起こしていた。ルルゥはイレーヌのポニーテールにしただけの髪を見てため息をついた。

「『戦う貴婦人』には程遠い髪ですわね、姉様。せっかくの晴れ舞台ですのよ。もっときちんと…っ。」

イレーヌの髪に対する小言を言っているルルゥの目から涙がこぼれた。イレーヌは困ったように微笑む。

「私がっ…結って差し上げたかった…姉様ぁ。」

ルルゥはイレーヌにすがって泣いた。昨日はイレーヌを慰めようと必死に強がってはいたがやはり右腕は動かない。ルルゥにとってはイレーヌの晴れ舞台に自分が髪を結えなかったのは何事にも代えがたい屈辱であり悲しみなのだ。

「ルルゥ、私頑張るから。貴女の無念晴らせるように頑張るから。」

イレーヌは涙を流さなかった。昨日しっかりと覚悟を決めたのだ。ルルゥの頭を撫で腰の剣に手をかけその存在を確かめる。イレーヌは耳を澄ませた。国の人々の声が一斉に流れ込んでくる。

「…えっ?」

イレーヌは孤児院の外へ飛び出した。人々の声が今までと違うのだ。嘆く声がない。皆それぞれ何か覚悟を決めたそんな声だったのだ。外へ出ると日の光が顔に当たりイレーヌは眩しさに目を細めた。恐る恐る目を開けるとそこには沢山の人々が各々剣を持ち笑顔で立っていた。イレーヌが驚いているとカインがイレーヌの肩を叩いた。

「皆イレーヌと一緒に戦いたいんだ。」

カインがそう言うと人々は剣を天に掲げた。

「この国は俺達の物だ。何時までも他力本願でいてちゃ駄目なんだ。」

皆口々にそう言った。イレーヌは嬉しさで胸が熱くなった。皆前向きな表情をしている。この国はまだ希望を失ってはいなかった。イレーヌは涙を拭った。

「この国の王女として命令する!誰一人としてこの戦いで命を落とす事は許さない!」

イレーヌは笑顔でそう叫んだ。人々から歓声が上がった。

「革命ですって?何を馬鹿な事を。私に逆らう事がどういう事か解っているのかしら。この間お灸を据えてあげたばかりなのに。」

イリーナは刺客からの宣戦布告を受け腹立たしそうにテーブルを叩いた。イリーナには民衆の声は届かない。自分がする事は全て正しいと思い込んでいる。そして何もかも許されると傲っている。まだ腹の虫が収まらないのかイリーナはテーブルを引っくり返すとドレスの裾を翻し元老院の会議室へと向かった。


「アーノルド!また虫達が騒がしいわ。会議なんかやめて兵を出しなさい。」

ノックもせずイリーナは扉を勢いよく開けた。クラウスは驚き席を立った。他の元老院はクラウスをじとりとした目で見る。アーノルドはふっと鼻で笑いクラウスを一瞥した。

「ああそういえば。クラウス君、君の国家機密を持ち出した罪を決めていなかったな。」

アーノルドは扉の前に立ったままのイリーナの傍へ行きイリーナの肩に手を回した。

「イリーナ王女、クラウスの罪いかがされます?」

イリーナはアーノルドの言葉に不敵な笑みを浮かべていた。

「死刑が手っ取り早いわね、ちょうどいいわ。虫達に見せしめにしてあげましょう。」

アーノルドはイリーナの言葉を聞き計算通りと言わんばかりにほくそ笑む。クラウスはため息をついた。と同時に違和感を覚えていた。王族より力を持っている筈の元老院の長が何故イリーナにお伺いを立てたのか。クラウスは懐に手を入れると何かを放り投げた。

「クラウス何をする!うわっ!」

閃光弾が炸裂し会議室が鋭い光に包まれた。クラウスは開け放された扉から外へ出た。ここ最近の圧政には何か裏があり恐らくアーノルドはその黒幕である。イリーナ達王族はただアーノルドの掌の上で踊らされているような感じがしたのだ。クラウスは何か嫌な予感がした。


カインは道端の樽に腰掛けそっと目を閉じた。今はわざわざ眠らなくても目を閉じれば能力が使えるようになっていた。

「ん?」

いつもなら見れる筈の未来が今日に限って全てに靄がかかりはっきり見えなかった。民衆に被害は出ていないようだがそれ以外がわからない。

「カイン?どうかした?」

イレーヌに顔を覗き込まれカインははっと我に返った。イレーヌは心配そうな顔でカインを見ていた。

「この先は見ないで。」

イレーヌはそれだけ言うとカインの傍を離れた。そこには先程の笑顔は消え去り死へと向かう覚悟を決めたように見える表情をしたイレーヌがいた。


イレーヌは王宮のすぐ近くまできて立ち止まった。王都はその他の街の荒廃ぶりとは無関係のようにきらびやかだった。その中で一際大きく聳え立つ王宮。そのバルコニーに金髪の青い瞳の少女がいるのが見えた。

「あれがイリーナ、私の双子の姉妹…。」

初めて見る自分の姉妹。不思議と何の感慨も湧かなかった。倒すべき相手としか見えない。カインの国を滅ぼし民を疲弊させ気に入らない時は命を奪う悪魔の様な王女。そしてそれを止めない周りの支配階級の者達。イレーヌは少し足が震えた。

―私がしっかりしないと。皆に被害を出す訳にはいかない。

イレーヌは自分に言い聞かせ両頬を叩き、バルコニーに立っているイリーナを睨み付ける。虐げられた民を解放するのは同じ王族の義務だとイレーヌは思っていた。強すぎる責任感と罪悪感がイレーヌを突き動かす。自分に追っ手がかけられまた無関係の人を傷付けてしまう前に革命を成し遂げなくてはならない。


イリーナはバルコニーから民衆を見下ろした。その中に一人だけやけに目立つ少女がいた。

「あれがイレーヌね。王族とはいえ城にいる事さえ許されなかった虫。」

イリーナは憎らしげにイレーヌを睨み付ける。

「革命なんてくだらない。あんたは必ず消してやるんだから。」

イリーナは扇子を強く握り締めた。死刑にする筈だったクラウスにも逃げられイリーナは極度に機嫌が悪くなっていた。イライラした様子で爪を噛み部屋の中を歩き回る。そこへ王妃が現れた。そしてイリーナには目もくれずバルコニーへと歩いていった。

「お母様どうされたの?」

王妃はバルコニーの柵に手をかけ必死に誰かを探しているようだった。

「イレーヌが近くに来ているのでしょう!どこにいるの?」

王妃は振り返りイリーナの両肩を掴んで揺さぶった。イリーナは憎しみに顔を歪めた。王妃はイリーナに甘かった。淑女としてのたしなみには厳しかったがそれ以外で叱られた事もなかった。だが王妃はイリーナを愛しているようでいていつも上の空だった。イリーナがカインに婚約を断られた際は常識では有り得ない激怒ぶりを見せ、カインの国を滅ぼすまでに至ったがその後はイリーナの許嫁探しもやめてしまった。度々イレーヌがいた塔の方を見つめてはイレーヌの名を呼び泣き崩れる、イリーナはずっとその姿を見てきた。そして思った。『私はイレーヌの代わりに愛でられているだけだ。お母様は私にイレーヌの面影を見ているだけだ。』と。それからイリーナの我が儘は輪をかけて酷くなった。もっとちゃんと自分を見てほしい。そんな気持ちだった筈だった。それはいつしか歪んでいき鬱憤の矛先は民衆へと向いて幾つも惨劇を引き起こした。イリーナは自分の肩を掴む手を振り払った。振り払われた勢いで王妃は尻餅をついた。イリーナは自分の母親を見下ろし折れた扇子を投げ捨てた。

「イレーヌなんていない!この国を手に入れるのは私唯一人!この国は私の物なんだ!」

王妃はイリーナの剣幕に怯え小さく悲鳴を上げた。イリーナはそんな王妃の様子に怒りが募る。イリーナは侍女を呼びつけると王妃を部屋から連れていくよう命じた。王宮の周りには兵士を配備し貧弱な装備しかない民衆など恐れるに足りない。イリーナは馬鹿にするように笑い椅子に腰掛けた。暫くイリーナは愉快そうに笑っていたが先程の王妃の様子が頭をちらついて離れない。十七年、目の前の娘ではなく会う事も文を交わす事も全てを禁じられた娘を想い続けた憐れな母親。そしてそんな母親に振り向いてほしくて必死になっていた自分。

「私の今までの人生はなんだったのかしらね。」

片割れを消しても振り向いてもらえる訳がなかった。恐らくイレーヌは国民の命を弄んだ憎んでいるだろう。今更普通の姉妹になど戻れない。イリーナはふと思い立ち兵士の指揮官を呼んだ。


クラウスは会議室から逃げてからアーノルドの部屋付近に潜伏していた。クラウスは会議室で見かけたイリーナとアーノルドの様子が引っ掛かっていた。王族より決定権も権力も上になっている筈の元老院が、そしてその長が何故イリーナに意見を求めたか。そして元老院の処罰という前代未聞の出来事をまだ王位を継承すらしていない少女に委ねたのか。クラウスはアーノルドの部屋に聞き耳をたてた。アーノルドが自分の側近と話す声が聞こえる。

「イレーヌは私の思っていた通りに革命を起こしてくれたな。」

アーノルドは嬉々として言う。アーノルドはイレーヌが革命を起こすのを望んでいた。しかしイレーヌの革命が成功しイレーヌが国政に関与し始めるとアーノルド達元老院は力をなくすだろう。民衆の支持は今やイレーヌが総取りなのだから。アーノルドは何も得がないのに何故革命を喜んでいる。クラウスのアーノルドへの疑念は強まっていく。

「これで王女二人を合理的に消す事が出来る。」

クラウスは耳を疑った。王女二人を合理的に消す事が出来る。アーノルドは確かにこう言ったのだ。アーノルドは革命に乗じてイリーナとイレーヌを二人とも亡き者にしようと企んでいた。恐らくイリーナに好き勝手にさせていたのも計画の内だったのだろう。この事は早くイレーヌに知らせなければいけない。クラウスはその場を離れようとした。カツンと靴の音が耳元で鳴った。

「これはこれはクラウス君、こんな所で何を?」

アーノルドが動けなくなっているクラウスの耳元で囁いた。アーノルドは側近に目配せすると側近は自分の剣を躊躇せずにクラウスに突き刺した。

クラウスは血を吐き、倒れた。剣を引き抜かれた傷からは鮮血が溢れ続けている。

「権力だけでは飽きたらず国そのものまで欲するかアーノルド。己を律する事も出来ないとは。」

痛みと怒りで歪んだ表情でクラウスはアーノルドにそう言った。肺に血液が逆流し話す度口から血が溢れゴポゴポと音を立てた。アーノルドはまるで獲物をなぶる猫の様に目を細めた。口元はきゅっと口角が上がりこの状況を楽しんでいた。

「イリーナを野放しにしておいた甲斐があったよ。民衆の中から王族への支持は消え失せた。」

アーノルドはクラウスの周りをゆっくりと歩きながら言う。その間にもクラウスの血は流れていく。

「君がイレーヌを外へ出したのも知っていたよ。外へ出てあの惨状を知れば革命を起こすくらいしてくれるだろうと思ってね。」

クラウスは激しく後悔していた。イレーヌは自分が外へ出してしまったが為にアーノルドに利用されてしまった。そして命まで脅かされようとしている。いつの間にかアーノルドのくだらない幻想劇に自分も加担してしまっていた。クラウスは朦朧とする意識の中で必死にイレーヌに対する謝罪の言葉を探した。アーノルドは側近から剣を受けとると嬉々としてクラウスの心臓に突き立てた。


イレーヌの耳に一際強い声が届く。

「…っ!何?一体…。」

イレーヌは耳を押さえ声のした方を見る。頭がチリチリと焼け付くような反響。その叫びはクラウスのものでクラウスの声を掻き消すように知らない男の声が頭の中に乱反射する。『愚かなクラウスよ、あの世で私の成功を妬むがいい。ははははは!』クラウス、あの世。その二つの単語に嫌な予感がしたイレーヌは急いでクラウスの声を聴こうとしたが何も聴こえなかった。イレーヌは必死にクラウスの声を探したが何も聴こえなかった。黙っていても心の声は聴こえる。それが聴こえないという事は対象が死んでいるという事だった。イレーヌは直感した。あの声の主がクラウスを殺めたのだと。イレーヌは剣を抜いた。周りの民衆にどよめきが走る。

「誰も殺めてはいけない。でも命を落とす事も許さない。この国を変えるのは力でも数でもない。私達の意思なのだから。」

イレーヌの語尾が少し震えた。クラウスの死に動揺してはいけない。クラウスはこうなる事を覚悟していたのだから。剣を持つ手も震える。カインはそんなイレーヌを見て胸が痛んだ。クラウスは自分にもしもの事があった場合はイレーヌを守ってほしいとカインに告げていた。イレーヌの様子を見るとそのもしもの事が起こってしまったのだろう。動揺するなと自分に言い聞かせながらも動揺は隠せない。イレーヌはカインに弱味を見せようとしない。カインは情けなさと歯痒さに揺れていた。本当はイレーヌを危険な目に遭わせたくなどない。でもイレーヌは自らの意思で革命を決め、今此処に立っているのだ。カインは両手で頬を叩き、民衆と共に王宮へと向かった。


アーノルドはクラウスの骸を置き去りにして自分の部屋をあとにした。アーノルドの祖父の代からアーノルドの家、ノートン公爵家は元老院の上位にいた。そして王子に取り入って私腹を肥やしていた。王族以上の権力を持ちながらノートン公爵家の者達は満足出来なくなっていた。そして彼らの狂った計画は始まった。二人の王子が険悪になり国内の派閥がピリピリと神経を尖らせてきたのを頃合いに自らの密偵を使い、両者の不利な情報をばらまいた。やがてどちらが王に相応しいかを本人達を抜きにして派閥が争い暴動となった。そして派閥の主要な人物が何者かに殺されるという事件が起こってしまった。この時の元老院は皆冷静ではなかった。ノートン公爵家の提案は易々と通った。そして幽閉された王子は銀髪で赤い瞳だった。イレーヌが銀髪赤目で産まれた時既に幽閉は決まっていたのだ。イレーヌとイリーナの父親である王は双子で産まれる予定だったが王が産まれた直後王の片割れは死産で胎から産まれ落ちた為にノートン公爵家の企みは次の代に持ち越された。計画は高確率で双子が産まれる王族の片割れを幽閉しもう一人を操り王族ないで争いを勃発させどさくさ紛れ

にノートン家が頂点に立つという事だった。そしてイリーナとイレーヌが産まれた。ノートン家が作った掟の為に当然議論になる。アーノルドはクラウスがイレーヌをどうにか普通の生活をさせてやりたいと思っているのを利用する事にした。クラウスが育てれば恐らく正義感が強く真っ直ぐな娘に育つだろう。ならばイリーナの方を好き放題させておけば我慢できず文句を言いにくるに違いない。そしてクラウスは情に流されいつかイレーヌを外に出す。その時はクラウスは機密を漏らしたという事で裁いてしまえばいい。王女二人は相討ちといって殺してしまえばいい。元老院はアーノルドの掌握下にある。これでアーノルドの天下になる。今まさに計画は大詰めにきているのだ。

「楽しみだなあ、全てが手に入るんだ。ノートン公爵家が長年願ってきた天下を私は手に入れるのだ。」

アーノルドは玉座の間で両腕を広げた。そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべ玉座の足元を見た。

「悔しいか?王よ。」

玉座の足元には手足を剣で床に縫い留められ、血を流した王が横たわっていた。玉座へと繋がる階段はある程度時間が経ち、酸素に触れ赤黒くなった血液の筋が出来ていた。それでも王はまだ息があった。無論わざと急所を外している。楽には死ねないが必ずいつかは絶命する。アーノルドはそんな王を見下ろし、口角を上げた。王はアーノルドを睨み付ける。

「なるほど、そんな貴様らの悪事にも気付けぬとは我ら王族も堕ちたものよ。」

王はため息をついた。急所を外され明らかに苦しい筈だが王は非常に穏やかだった。

「イレーヌは真っ直ぐに育ってくれた。あの子が生きている限り必ず貴様のくだらぬ幻想など打ち砕いてくれるであろうよ。」

一族の長年の計画をくだらぬと一蹴されアーノルドは苛立った。上がっていた口角は真一文字になり額には青筋が浮いた。しかしその苛立ちもすぐに引いた。くるりと踵を返すとアーノルドは玉座の間を後にした。王は少しずつ近付いてくる死の足音を聴きながらも拳を握り締めた。


イレーヌ達は王宮の正門前で立ち止まった。かなりの数の兵士が城門を取り囲んでいる。イレーヌは思わず怯みそうになった。鎧と剣、楯で武装した数多の兵士達。それはそのまま自分達が立ち向かおうとしているモノの大きさだった。イレーヌの心臓がバクバクと音を立てる。死なせない為にはどうすればいいかを頭がその答えを探し細胞がパチパチと音を立てているようだった。城門の中に入るとすぐにある王宮の中央バルコニー。そこにイリーナの姿が見えた。イリーナもイレーヌに気が付いたのか余裕な表情はなくなった。民衆も憎き王女を前にして息を飲む。イレーヌは民衆の空気が変わったのを感じていた。皆の剣を持つ手が怒りで震えるのが分かる。家族を奪われた悲しみと王族に対する怒りの声が倍増しイレーヌの頭をかき回す。そしてイレーヌ自身が冷静でいられなくなっていた。イレーヌは目の前が赤くなり気が付くと高く跳躍しバルコニーへと達していた。

「後は任せるわカイン。」

イレーヌはそう言うと剣を抜き王宮の中へと入っていった。


「驚いたわ、あんな身体能力。ここまでは高さも距離もかなりある筈なのに易々と。」

イリーナは驚き目を見開いた。そして急に恐ろしくなった。バルコニーは三階にあるのだ。そこまでイレーヌはただ跳んだだけなのだ。同じ姉妹である筈なのに片割れに抱いたのは純粋な恐怖だった。赤いショートドレスの裾をはためかせ、銀の髪が風に靡き赤い瞳を炎の様に輝かせバルコニーに降り立ったイレーヌは恐ろしいまでに美しかった。イリーナは汗ばむ手を握り締めた。イレーヌの瞳は怒りでより赤くなり姿を見た者を否応なく萎縮させる。イリーナは一歩後ずさった。

「貴女がイリーナ、ね。」

イレーヌは抜いた剣をイリーナに向けた。イリーナはごくりと唾を飲み込んだ。カツカツとイレーヌがイリーナに詰め寄る足音が響き渡る。イリーナは近衛兵を連れておらずあまりにも無防備だった。恐らく剣のたしなみなどないだろう。

「流石に想像がつかなかったわ。まさか単身で乗り込んでくるなんて。」

イリーナは声が震えている。

「元々全て私一人で済ませるつもりだったもの。」

反してイレーヌは何のブレもない声で話す。民衆には誰も殺めるなと言ったがイレーヌ自身はイリーナを殺めるつもりだった。そして国を建て直し、民衆が前へ進めるようになれば自害する事にしていた。イレーヌは王族は生き残っているべきではないと考えていた。カインが予知の能力があるのを知り、あの時イレーヌが自害する未来が見えないように邪魔をしたのだ。その未来が見えてしまえばカインはイレーヌが死なずに済む未来を模索するだろう。革命をも諦めてしまうかも知れない。カインにはこの国が強奪した祖国を返し新しい人生をやり直してほしい、イレーヌはそう思っていた。だからこそこの革命は成し遂げなくてはならない。イレーヌは剣を握り直した。

「イリーナ、貴女には死んで貰うわ。」

イリーナは抵抗する素振りを見せなかった。

「私が間違ってるのは解ってるわ。だから討たれてあげてもいい。」

イリーナは震えながらそう言った。

「外の兵には民衆に危害を加えないように言ってあるわ。」

イレーヌにはにわかには信じられずイリーナの心を読む。憎悪と絶望と嫉妬が渦巻く中でも人を欺こうとする心はなかった。イレーヌは動揺していた。イリーナはどんな状況であっても非情で民衆など虫の様にしか見ていない、そんな人間だと思っていたのだ。だからこそ殺す覚悟をした。

「貴女が私をどう思っているかぐらい見当がつくわ。ついさっきまでそうだったもの。」

イリーナは悲しそうに微笑んだ。

「さっきお母様が貴女が近くにきていると知って必死に探していたの。あの人はいつだって私より会えない貴女の事を考えていたわ。私を見てくれないお母様を憎んでお母様を奪った貴女を憎んで、こんな時までって思ったわ。」

イレーヌは剣を下ろした。

「今までの私の人生が何だったのかわからなくなった。私達は王族だというだけで家族にはなれなかった。だから貴女を迎え入れて家族をやりなおしたくなったの。」

イリーナの言葉はそこで止まった。イレーヌは目を見開いた。イリーナの腹部から剣が飛び出している。イリーナの口から血がこぼれ落ちた。イリーナの背後にいたのはアーノルドだった。イリーナは倒れた。イレーヌは直感した。アーノルドこそ全ての黒幕だと。イレーヌは剣を落とし、イリーナに駆け寄った。

「始めから姉妹として会いたかった…姉様…。」

イリーナは血塗れの手でイレーヌの頬に触れた。イレーヌの目から涙が溢れた。始めから姉妹として出会えていたなら、くだらない陰謀に巻き込まれない人生だったなら憎み合わないでいられたなら。こんな形で妹を失わずに済んだのだ。イレーヌには既にイリーナに対して憎しみの感情はなかった。イリーナのした事は許される事ではないが叱ってくれる人すらいなかったイリーナが憐れになった。

「おやすみ、イリーナ。」

イレーヌはイリーナの手を握り微笑んだ。イリーナはほっとしたように目を閉じ、最後の息を吐いた。

イリーナの声はもう聴こえなくなっていた。アーノルドはその様子をただ傍観していた。そして悠長に剣に付いたイリーナの血をハンカチで拭っていた。イレーヌはその光景を見て驚いていた。腕の中で冷たくなっていく妹を死に至らしめた男は動揺する素振りも何も見せずただただ平常心だった。アーノルドから伝わる声は人を欺きいたぶるのを快楽に感じ、計画がついに実現されようとしている事に歓喜している声だった。イレーヌはイリーナをそっと床に横たえ、手を組ませた。そして傍に置いていた剣を手に取る。イレーヌはゆっくり立ち上がりアーノルドを見据えた。

「貴女が全ての黒幕なのね。アーノルド!」

アーノルドの心を読むと今までしてきた事がわかってしまう。イレーヌは剣をアーノルドに向けたまま頭を押さえた。アーノルドがどうやってクラウスを殺したのか、王を殺したのか働いた悪事の全てが頭に流れ込んできて頭痛まで引き起こしている。息が荒くなり立っているのもやっとな程アーノルドの声を受け止めるのは身体に負担を強いていた。

「許さない、許さないわアーノルドっ!」

イレーヌは足を踏ん張り、剣を握り直した。アーノルドはふっと鼻で笑うと指を鳴らした。するとイレーヌの周りに男が数人現れた。どうやら柱に隠れ、合図を待っていたようだった。

「その女を犯せ。多少手荒な事をしても構わん。」

アーノルドはニタリと笑う。イレーヌの周りの男達も同様にニタリと笑いイレーヌに詰め寄ってくる。イレーヌに今まで感じた事のない恐怖が襲う。心が読めるせいで自分がどういう目に遭わされようとされているのかが容易にわかってしまう。おぞましい欲望の捌け口にされる自分の姿が嫌でも脳裏に浮かぶ。

「嫌、来ないで。」

恐怖で上手く力が使えず壁際まで追い詰められていく。

「お前に特殊な力があるのは知っている。強い恐怖感に襲われると上手く使えなくなる事もな。じっくり楽しませてもらおう。」

アーノルドは不敵な笑みを浮かべた。恐怖と絶望のどん底でイレーヌを死に至らしめるのが楽しみでならないらしい。イレーヌは壁に背がつき逃げ場がなくなった。獲物を前にして沸き上がる支配欲と劣情でギラギラした目をした男達はここぞとばかりにイレーヌに詰め寄った。イレーヌは手に持った剣を振り回す勇気すら出ない。もう声すら出なかった。心の中で必死に助けを求める。『誰か、誰か助けて。』カインの姿が脳裏にちらつく。イレーヌは手から剣を落とした。ルルゥや街の皆と必ず国を取り戻すと約束したが剣を振るう力が湧かない。もう一つの能力も使えない今イレーヌはただの無力な少女でしかなかった。イレーヌは打破しなければならない敵を前にして許さないと息巻いてから半刻と経たないのにもう恐怖に心が折れている自分が情けなかった。ここで権力者のくだらないゲームの駒として朽ちる運命なんて納得できない。だがイレーヌは目前の恐怖に足が手が動かなかった。ルルゥや街の皆の顔が頭を駆け巡る。『皆…ごめんなさい。』男達の手はすぐそこまできている。イレーヌは舌を噛み切る覚悟を決めた。ゴツゴツとした手がイレーヌの肩に触れたその時、何

か鈍い音がして周りにいた男達が次々と倒れていった。イレーヌが驚き顔を上げるとそこには息を切らせたカインが立っていた。

「ごめん、遅くなった。」

カインはイレーヌが無事な姿を見て安堵したようで長く息を吐いた。

「何で…。」

イレーヌは驚きのあまり言葉が出てこない。カインはため息をついた。そして困ったように笑う。

「好きな女も守れないようじゃ自分の国の国民なんて守れやしないんだよ。」

カインはそう言うとイレーヌの頭を撫でた。

「何を邪魔してくれてんだこの餓鬼ィっ!」

アーノルドの激昂する声が響く。アーノルドはこめかみに青筋を浮かせかなり腹が立っているようだった。アーノルドにしてみればイレーヌが陵辱される姿を眺め、イレーヌの精神がズタボロになった所を散々いたぶって殺すつもりだったのがカインが現れた事により達成されなかったのだ。あの余裕綽々な口調を忘れるくらい怒りが爆発しているようだ。イレーヌは剣を拾い立ち上がった。

「決着をつけましょう。アーノルド。」

カインは心配そうにイレーヌを見ている。

「心配しないで。必ず勝つわ。」

イレーヌはカインに微笑みかけるとアーノルドに向き直った。凄まじい怒気を発するアーノルド。イレーヌは静かに剣を構え間合いを詰めた。細い剣を巧みに操り斬撃を何度も繰り出すアーノルドも応戦し、金属の触れ合う音が響く。

「お前は何故剣を使う。もう一つの方を使えば私をひれ伏させる事くらい容易いだろうに。」

イレーヌの剣を受けながらアーノルドは問う。

「私は貴方達みたいに傲った支配者じゃないわ。よほどの事がない限り使いたくないの。」

話している間もお互いの斬撃が止む事はない。アーノルドの剣術はイレーヌとほぼ互角だった。アーノルドはまだ体力に余裕があったがイレーヌはかなり消耗していた。眠るか気を失わない限りイレーヌの能力は発動し続ける。アーノルドの声を延々と受け続けているイレーヌは体力と気力が限界だった。カインは固唾を飲んで見守っていた。イレーヌの表情に疲れが見え始め、アーノルドの斬撃をかわすのも困難になっていた。カインはアーノルドの余裕ぶりも少し引っ掛かっていた。互角という事はアーノルドも決して余裕ではない筈。あの余裕は一体どこからくるのか。ふとカインはイレーヌとアーノルド以外の人の気配を感じた。アーノルドがニヤリと笑う。カインは反射的に飛び出していた。金属音が反響する。

「…やっぱりな。」

「カイン!?」

イレーヌはアーノルドの剣を受けたまま固まっている。カインは急に現れた伏兵の剣を受け止め剣を払った。

「伏兵を潜ませときゃ余裕綽々にもなるよな。アーノルドさんよぅ。」

カインは苛ついた様子でアーノルドに吐き捨てる。アーノルドはどこまでも卑怯でずる賢かった。イレーヌはアーノルドに向き直り、その顔を睨み付ける。

「イレーヌ、伏兵の方は俺に任せてくれ。」

イレーヌは頷くと深呼吸し剣を握り直した。アーノルドは面白くない様子で剣を構えた。カインの方はなかなかの強者のようで激しい戦いが繰り広げられている。

「やあああっ!」

イレーヌは一気に間合いを詰め、鋭い斬撃を繰り出した。アーノルドは少し反応が遅れ剣を構えたがその斬撃を受け止める事が出来ず剣はアーノルドの胸に刺さった筈だった。が、無情にも鳴り響いたのは金属音だった。アーノルドは服の下に鎧を着こんでいた。イレーヌは目を見開いた。衝突の衝撃がビリビリと腕に伝わっていく。

「残念だったな。」

アーノルドは再び不敵な笑みを浮かべると自身の剣でイレーヌの腹部を貫いた。

「イレーヌ!!」

カインの叫びが反響し、アーノルドは表情一つ変えず剣を引き抜いた。真っ赤なドレスに広がるより深い赤の染み。イレーヌは剣を持っていない手でそこに触れた。その手の平にはべっとりと血が着いていた。太股を伝い、鮮血が床へと広がる。イレーヌの驚きで半開きになっている口から血が一筋垂れた。カインは伏兵を薙ぎ、失神させイレーヌの傍へ駆け寄った。余裕の表情で立っているアーノルドとは裏腹にイレーヌはただ呆然と突っ立ったままだった。

「大丈夫かイレーヌ!一旦退いて…!?」

カインはイレーヌの肩に触れようとして手を止めた。イレーヌからただならぬ気配を感じた。イレーヌの中の何かが躍動しているような不気味な感覚。何かドロリとしたものに纏わりつかれているような空気が立ち込めカインは背筋がゾクッとした。致命傷を負わされたにも関わらずイレーヌは倒れず、立ち続けていた。カインは直感した。

「まさか、暴走?」

イレーヌから凄まじい怒気が放たれ、周囲に衝撃波を起こした。カインも壁際まで吹き飛ばされる。

「イレーヌやめろ!今力を暴走させたら…っ!」

体力を消耗し致命傷を負った身体で能力を暴走させれば命を落とす可能性が高い。しかしカインの声はイレーヌには届いていなかった。イレーヌはゆっくりとアーノルドに近付いていく。ここでようやくアーノルドの顔から余裕の表情が消えた。イレーヌは自分の身体に無理矢理暗示をかけ、動かない身体を動かしていた。アーノルドは後ろへ後ろへと後ずさる。

「ゆっ許してくれ!」

アーノルドは尻餅をつき、尚後ろへと後ずさる。そんなアーノルドをイレーヌは怒りに満ち、燃える様な赤い瞳で見下ろす。

「貴方には醒める事のない悪夢を見せてあげる。」

そう言うとイレーヌは剣をアーノルドの胸に突き付け更に怒気を放つ。もう一つの能力を使う気なのだ。カインはふと外が騒がしくなっているのに気が付いた。カインがバルコニーから外を見ると民衆が怒りの声を上げていた。

「イレーヌの怒気にあてられたのか。」

イレーヌが放つ怒気に触れ、民衆達の怒りが引き出されていく。カインは焦っていた。何故かは解らないが兵士達は民衆を攻撃してこない。しかし民衆の今の状況を見ると民衆達が先に手を出しかねない。そうなると民衆の血が流れてしまう。その前に異常な怒気の発生源をどうにかしなくてはならない。今のイレーヌに声が届くかはわからないが今は迷っている時ではない。カインはイレーヌの前に飛び出した。イレーヌの剣がカインの腕をかすり、血が飛び散った。

「っ!落ち着けイレーヌ!このままじゃ民衆の血が流れるかも知れない!それでもいいのか!」

痛みに顔を歪めながらカインは叫んだ。イレーヌははっと我に返った。アーノルドは既に戦意を喪失し、髪は真っ白になりがくりと項垂れていた。イレーヌは剣を落とし、異常な怒気はすっと引いていった。

「ごめんなさい、カイン。貴方まで傷付けてしまうなんて…。」

イレーヌはカインの傷に触れようとし膝から崩れ落ちた。

「イレーヌ!」

カインはイレーヌを受け止め叫んだ。イレーヌは顔に血の気がなく身体が冷えきっていた。致命傷を負った身体で能力を暴走させた影響で逃れようのない死が近付いているのだ。

「ごめんなさい。私上手く出来なかった。クラウスも死なせてしまっ…。」

イレーヌは咳き込み血を吐いた。その時カインは口から発せられたものではないイレーヌの声が聞こえた。「それがイレーヌの望みなら手伝うよ。」

カインはイレーヌを抱き上げ、ゆっくりとバルコニーへ出た。カインとイレーヌの姿を見て民衆と兵士達にどよめきが走る。中には悲鳴を上げる者もいた。カインは深く息を吸い込んだ。

「国民達よ。革命は終わった。今から真実を皆に見せようと思う。」

カインはゆっくりと座り目を閉じた。イレーヌのもう一つの力はさっきリミッターが外れ、声を聞く能力と同じようにだだもれになっている。カインは自身の能力をそこに合わせ国民に真実を見せようというのだ。カインの頭の中を走る過去からの映像がイレーヌの能力に乗って国民達に翔んでいく。国民達は疑うには生々しすぎる映像に驚き、怒り、そして哀しんだ。皆の動揺がおさまった頃カインは立ち上がり言った。

「アーノルドはまだ生きている。裁きは皆に委せようと思う。しかし死刑に処すとして一度考えて欲しい。殺すという行為がどういう事か。」

イレーヌは国民から聴こえてくる声に耳を澄ませていた。皆葛藤があり、未だに払拭出来ない怒りも悲しみもあった。しかし皆前を向こうとしていた。そんな声が聴こえイレーヌは満足そうに微笑み、気を失った。


数週間後


イレーヌの延命は絶望的だったが幸いにも能力の暴走時にかけた暗示により一度死の直前まで陥った身体はゆっくりと回復し始めた。しかし未だ昏睡状態からは覚醒しておらず、依然として予断は許されない状態だった。カインは革命後元老院の解体を行い、国民の中から議員を集め国会を作る準備を進めていた。国民には政治のノウハウがないため王政は暫くそのまま続く事になった。王家が出した政治案を国会が受け審議する形で徐々に国民が政治に関与出来る環境を作っていく予定だ。王位継承権のあるイレーヌが昏睡状態の為、代理としてカインが全てを担っていた。皆イレーヌの回復を願い、毎日のように王宮へ足を運んでいる。カインが仕事に追われている間はルルゥが傍についていた。ルルゥはまだ若いため傷と神経の再生がきき、元通りとはいかないがリハビリにより髪結い師を目指せる可能性がありすっかり明るくなり早くイレーヌの髪を結いたいと張り切っていた。アーノルドは終身刑に処され、今は牢獄にいる。アーノルドの隠し財産は国民に還元され、国民の生活はすぐに良くなった。アーノルド以外の元老院も企みをわかっていながら止めようともしなかった事に

ついて国民から糾弾され、みな禁固十年という刑を課せられた。全ては良い方向へ向こうとしている。カインの国の領地は解放され生き残った者達が少しずつ集まってきていた。カインは仕事を一段落させるとイレーヌのいる寝室に行った。寝室の前でちょうど部屋を出ようとしたルルゥと出くわした。ルルゥはカインをじとりと見る。

「姉様が眠っている間に既成事実を作ろうだなんて許しませんことよ。」

カインはカッと顔が赤くなる。

「ばっ、そんなんじゃないっ!しねえよそんな事!」

カインはバタバタと手を振り慌てて必死に否定する。ルルゥはそんなカインを見て冗談ですわと笑った。

「仕方ないので二人きりにして差し上げますわ。」

そう言うとルルゥはパタパタと廊下を歩いていった。カインはため息を着くと寝室の扉を開けた。大きなベッドに寝かされたイレーヌは穏やかな寝顔をしていた。その事にほっとしカインはベッドの端に腰掛けた。国はイレーヌの望んだ形に成りつつある。カインは早く目を覚まして自分の目で確かめてほしかった。カインはイレーヌの頬を撫でた。さらさらの髪がカインの手に触れた。カインは王宮に来てからイレーヌが暮らしていた塔に行った。中はきちんと片付けられ、イレーヌの生真面目さがうかがえた。本棚の中には少し古くなった童話集があり小さな手垢が沢山付いていた。きっと一人きりの時間を童話の世界に浸る事で寂しさを埋めていたのだろう。その童話の中に王子が出てくるものが沢山あり、イレーヌが王子様に憧れを抱いていた事がわかる。

「眠り続けるお姫様の眠りを覚ますのは王子様のキス、って童話ならよくある話だけど。」

カインはイレーヌの方に向き直った。

「試してもいいよな。」

カインは唾を飲み込んだ。心臓の鼓動がやけに早くなりバクバクと音を立てる。カインはイレーヌの唇に自分の唇をそっと重ねた。

「ん…。」

イレーヌがふと声を漏らした。カインは唇を離した。イレーヌの瞼が少し動き、開いた。

「イレーヌ!目が覚めたのか!?」

イレーヌはぼんやりと周りを見渡した。そしてカインが目に映る。

「カイン…私生きてる…。生きてるのね…。」

カインはイレーヌを抱き締めた。

「おかえり、イレーヌ。」

イレーヌは微笑み、カインの背中に腕を回した。


イレーヌが目覚めた後戴冠式が行われ、イレーヌは女王になった。国民の中の格差をなくす為イレーヌは様々な法案を練り、国は落ち着きを取り戻していった。カインはイレーヌの傍で公務を手伝い、イレーヌの支えになった。

「なあイレーヌ。」

公務の合間の休憩時間、カインはイレーヌの肩を揉みながら口を開いた。

「どうしたの?」

カインはしばらく黙り込み何か考えている風だった。イレーヌはカインに向き直った。カインは意を決したように顔を上げた。

「結婚してくれないか。」

イレーヌは口を開けたまま動かなかった。カインはふと不安になった。イレーヌは以前イリーナがカインの国を滅ぼしてしまった事を気に病み、カインの気持ちを受け入れなかった事があった。今でも気持ちが変わらないとしたらやはり受け入れてはもらえないかもしれない。

「それで貴方が幸せになれるなら。」

カインが恐る恐る顔を上げると優しく微笑むイレーヌがいた。

「いいのか?」

カインはまだ不安気にイレーヌに問う。イレーヌは顔を赤らめながらそっぽを向いた。

「恥ずかしいから何度も言わせないで。」

カインはイレーヌを勢いよく抱き締めた。


国政を安定させるのを優先した為一年後ようやくイレーヌとカインの婚儀が執り行われた。イレーヌとカインの婚姻により両国は統合され新しい国となった。リハビリの末、ルルゥはイレーヌの髪を結い上げるまでに復活した。

「姉様、今大事な所ですの。頭を真っ直ぐにしていてくださいまし。」

ルルゥはイレーヌの結婚式で髪が結えるのが嬉しいらしく顔がにやけたままである。赤い瞳に合わせ真っ赤な薔薇を一輪髪に編み込み、長い髪を結い上げていく。結婚式に合わせるため死に物狂いでリハビリに取り組んでいたというから思い入れは桁外れだろう。ルルゥは櫛をくるくる回して腰のホルダーに仕舞うと目を閉じていたイレーヌに囁く。

「素敵ですわ、姉様。」

ルルゥは惚れ惚れとした顔をしていた。イレーヌがゆっくり目を開けるとそこには美しく髪を結われ、化粧を施された自分が鏡に映っていた。

「本当に私なの?何だか現実味なくなってきちゃったわ。」

諦め、捨てた筈の女としての幸せ。イレーヌはそれを今取り戻そうとしていた。こんな日が来るとは思いもよらなかった。

「姉様、今泣いては化粧が崩れてしまいます。式が終わってから存分に幸せを噛み締めてくださいませ。」

ルルゥは優しくイレーヌに囁くと自らも着替えに行った。イレーヌはため息をつくと椅子の背にもたれた。

国民全員より祝福を受け、イレーヌ達の結婚式は無事に終了した。流石のカインも疲れたようでソファーに足を投げ出して寝転がっている。

「このまま全て上手くいくといいわね。」

少し憂いを含ませた表情でイレーヌは窓の外を見ていた。革命から一年が経ち国民達は皆前を向き新しい人生を謳歌している。カインはイレーヌの傍に立つとイレーヌの肩をそっと抱いた。

「もし上手くいかなくてもイレーヌは一人じゃないだろ?」

イレーヌは目を閉じて微笑むとカインの手を握った。

「そうね。私には皆がついてるもの。大丈夫よね。」

二人はそっと口付けを交わした。


ふと気付けばイレーヌにスポットを当てすぎヒーローのカインはほぼ空気状態でアクションシーンも見応えなさそうです(-_-;)


愚作にお付き合いいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] すごく面白かったです!感情が繊細に描かれていました。
2021/01/17 21:03 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ