マカロン
三ヶ月ほど前、趣味で始めた韓国語スクールの、親睦会で山口という5つ上の男性と知り合った。
山口さんは最寄り駅がとなりで、穏やかな話し方が特徴だった。
私は山口さんに、ドライブに誘われた。ペーパードライバーで、車を買ったばかりだという山口さんの運転は、お世辞でも上手いとは言えなかった。
慣れないカーナビ、道、私。
けれども一生懸命私をエスコートしてくれる姿が私はいやではなかった。
いとさん。僕…転勤多いんです。それが理由で前の彼女とも別れて。
なんにも考えずに答えていた。
私はどこに行っても大丈夫なお仕事だから。
彼はただ、頷いた。
山口さんはいつでも穏やかに私の話を聞いてくれた。
穏やかな合図地。笑顔、歩き方。
川田のように、私をいじることもなく、彼はただただ、穏やかに私を包み込む。それなのに…。
私の中は正直川田でいっぱいだった。
山口さんとの三回目のデートの後、駅のホームで言われた。
いとさん。付き合ってください。
私はすぐに川田の顔が浮かんだ。
そんな私を察したのか、山口さんは私に、
いいよ。今すぐ返事しなくても。
すみません。
川田が私に興味を示してくれる確率なんて数%。
山口さんと付き合ったら、ドキドキは少ないかも知れない。けど、安心して結婚までたどり着ける。
ただ、当時の私はまだ23歳。まだまだ、恋愛したい。大好きな人と、ドキドキな恋したい。
結婚、恋愛に夢を持ちすぎていたのかも知れない。
私は三日後、山口さんに、
すいません。
とメールをした。
後悔するかもしれない。
これを逃したから結婚が遠退くかもしれない。
けど、私は川田の時々どきっとさせるやさしさが好きだったのだ。
もう、私はホントにバカだ。
ジャケットからはみ出るパーカーのフードが目から離れない。