表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/50

第二話 藤本曽良という『がっかりイケメン』

 藤本曽良とは同じ中学だった。彼はその容姿から、やはり中学時代も噂の人。いつだって羨望の眼差しが向けられていた。

 そんな彼のあだ名は『がっかりイケメン』。

 つまりは、残念なイケメンだということだ。こうして、入学式の朝から騒ぎを起こしてしまうことからも明らかだろうが……。

 鈴木と『がっかりイケメン』が知り合ったのは、約一ヶ月前。中学の卒業式を三日後に控えたころ。ひょんなことから出会って、それから三日間、彼に振り回されたものだ。

 それも中学卒業とともに終わり――ちょっと寂しくも感じていたというのに、まさか同じ高校だったとは。


 彼と関われば、今後の高校生活は悲惨なものになるだろう。決して目立たず平穏地味な高校生活を……そんな鈴木の計画はぶち壊しである。

 幸い、不良たちは曽良に夢中。

 このまま、他人のフリをすればいい。こうして、離れたところで突っ立っていれば問題ないだろう。

 そんなかすかな希望に託そうとする鈴木を、運命のいたずら……というより、『がっかりイケメン』は放っとかないのだった。


「やあ、殿! おはよう。気分はどう?」


 校庭に響き渡る能天気な声。

 鈴木はぎょっと目を見開いて振り返った。定規片手に無邪気に手をふる『がっかりイケメン』の姿が、その哀れに潤む瞳に映りこむ。


 殿――それは『がっかりイケメン』こと藤本曽良が、鈴木につけたあだ名である。


 曽良の視線をたどる不良たちの鋭い眼光がこちらに向けられた。あいつも仲間か? そんな心の声が聞こえてきそうだ。

「最悪だ、このやろー!」

 不良社会で生き残る唯一の術が失われたことを悟り、鈴木は悲鳴に近い叫び声をあげたのだった。

「ふざけやがって!」途端に、鈴木の悲鳴をかき消す怒号が鳴り響く。「その定規で何しようってんだ!?」

 曽良を取り囲んでいる不良の一人、短い銀髪の大男だ。その図体といい、ゴツゴツとした顔といい、派手な髪型といい、曽良の足下でノビている金髪の大男に瓜二つ。双子だというのは一目瞭然。

 双子=美少女というステレオタイプを、幼いころに見たドラマで植え付けられた鈴木は、夢を裏切られた気分だった。もちろん、そんな精神的なショックを受けているのは鈴木くらいだろうが。

「何する、て……」曽良は定規を肩に乗せ、クスリと笑んだ。「悪い子のお尻ペンペン……に決まってるでしょ」

「お尻ペン……バカにしてんのか! 一年坊主が調子に乗るなよ」

 銀髪の大男が雄叫びをあげて、曽良に飛びかかった。

 振りかぶった拳が竜巻でも起こさん勢いで曽良に迫る。その大柄な身体からは想像もつかない素早さだ。

 が、曽良は顔色一つ変えなかった。

 すかさず定規の両端をぐっと握ると、襲いかかる男の右腕をそれで叩き付け――いや、受け流し、といったほうが正確か――軌道をずらした。

 男の勢いは定規によってあらぬ方向へと流され、男はバランスを崩して前につんのめった。そのすきに、曽良は身を翻して男の背後に回る。

 今度は定規をバットのように構えると、曽良は大男の尻目がけて思いっきり振りかぶった。

 目指せ、甲子園。

 繰り出された渾身の一振りは、見事にクリーンヒット。

 乾いた音が響き渡り、大男は子犬のような悲鳴を上げて地面に顔から突っ込んだ。

 静まりかえる校庭で、地面に転がる金髪銀髪の大男二人を、不良たちは青白い顔で見つめていた。

「さぁて」

 バット――いや、定規の先を自分を囲む五人の不良に向け、曽良はニコリと微笑んだ。

「ペンペンされたい悪い子はいる?」


 その様子を見守っていた鈴木は、放心状態で頬をひきつらせていた。

「……定規に謝れ」

 これが後に知れ渡ることとなる『定規ペンペン事件』である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ