493,神からの最後のチャンスが聖女だった S
異世界ファンタジー
バッドエンドになりそう 真面目に書いたらR18かなー 王国は滅ぶ 世界観的に魔族=エルフもありうる
『この国に今年、聖女が生まれる。この国の最も穢れた場所に、神に選ばれし子が生まれる。聖女を見つけ出し、慈愛を与え愛を教えられればこの国は救われるだろう。しかし、もしも聖女が絶望することがあればその力の目覚めと共にこの国は亡びるだろう』
神から下された預言に神殿も王家も騒然となった。そして、聖女が今年生まれるという情報だけが国中に広がった。
・その年、国中で沢山子供が生まれた。生まれた子は皆、何らかの印がないかと調べられたが、わかりやすく特別な何かのある子はなかった。惑わすように、試すように、例年より多くの子が生まれた。産み落として死ぬ母は少なくなかったが、不思議と死産の子はなかった。
・実際の所、聖女が生まれたのは地方の寒村だった。村長の雇っている使用人の産んだ、誰が父とも知れぬ子だった。丁度同じくらいの時期に村長の孫娘も生まれていた。聖女の誕生により、彼女の生を繋ぐための加護が村にもたらされた。ほんの少し自然の恵みが多くなった。それが聖女が生まれた加護だと皆が思ったが、聖女だと思われたのは村長の孫娘だった。聖女が親もわからぬ子として生まれるとはだれも思わなかった。
・聖女の母親である使用人は、村の奴隷だった。父親が判らないのも、身籠ったと思われる時期に複数の男から犯されていたからだ。村長一家の男、村の男だけではない。近隣を荒らす盗賊にも、村を荒らさせないための生贄として差し出されていた。顔立ちが美しかったのと、性器の具合が程よかったらしい。幼い頃からそのような扱いを受けていた女だった。その娘も同じ扱いをされる定めだった。
・神にとって、人間は家畜のようなものである。別に人間が純潔を保っているかどうかなんてことは特に興味がなかった。神が気にしていたのは精神の善良さ、純朴さである。だが、愛欲に溺れるものは善き精神を損なうことが多いため、生殖の為でない性交を戒めた。
・神が聖女の母に使用人の女を選んだのは、その境遇が人を試すために相応しいと考えたことが大きい。更に、女の性根の善良さ、いじらしさから聖母に相応しいと見た。実のところ、聖女の父親は神自身だった。加護も聖女としての力も、神の娘として与えられたものであり、半神として備わったものである。女は自分を孕ませたのが神であると終ぞ知ることはなかったが。直系の娘であるため、歴代最強の聖女であることは自明。
・聖女が大人になるより前に、母親は壊れて死んだ。誰も彼も、本人すらも、彼女が聖女だと気付いていなかった。母と同じく奴隷として使うため、最低限のものは与えられた。栄養状態が悪くやせっぽっちだったが、加護のおかげで死なず病気もせずケガもすぐ治った。
・村長の孫娘は聖女として甘やかされて育てられた。村の中でも良いものを与えられて育てられたことで、田舎娘にしてはそれなりになった。貴族の娘に比べれば全く芋だが。聖女として目覚め、村に更なる恵みをもたらすことを期待されていた。しかしどんどん傲慢に育っていった。
・聖女が10を数える位になった年、そろそろ聖女を親元から離して王都へ連れて行き、神殿の保護下に置くべきということになった。ただし、本物の聖女が彼女であることは誰も気づいていない。王都への迎えが来る前に、魔族が聖女を攫いにきた。孫娘は自分の身代わりに聖女であると偽って本物の聖女を差し出した。魔族の手に落ちれば碌な目に合わないと思われていた。誰も反対しなかった。
・神から見て魔族は別に悪しき者ではない。魔物も同じく。ただ魔力を持った生物というだけで、人間と特に区別していない。ただ自分を正しく祀り進行する者に多く祝福を与えるというだけだ。魔族の信仰は人間とは形態が違っている。だが、神への信仰はある。神に選ばれた子に危害を加えるはずもなかった。そして、彼女が本物の聖女であることもすぐ知れたが、本人にすぐ告げはしなかった。
・聖女が去ったことで少しずつ村への恵みは減った。正確に言えば聖女への加護で増えていた分がなくなった。村人たちは孫娘が神殿に連れていかれたせいだと思った。もっとも、本当に聖女が神殿で保護されていたら、そして聖女が村への加護を望んでいれば、加護は続いていた。
・神殿の上層部と王族は預言の全文を知っていたので、聖女として連れてきた孫娘を卑しい娘と思っていた。聖女らしくないのも卑しい娘がちやほやされて増長しているのだろうと考えた。聖女としての教育をし、自分の立場を理解すればそれらしくなるだろうと思った。ならなかったが。
・真実が知れた時には既に手遅れだった。聖女としての力に覚醒した彼女は、己の役目を理解していた。神が彼女に課した役目は、王国が手の施しようもないほど腐り果てているのであれば、他にその腐れを広げぬため滅ぼすことである。幼少期から己や母に対する村人の振舞いを思えば、聖女にこれを躊躇う理由はなかった。父なる神からの言葉もあった。お前が望むのであれば母の待つ神の園に迎えようと。
・ある意味で、孫娘も憐れな立場である。預言の全文が公開されていれば、彼女が聖女だと思われることはなかった。田舎の寒村であっても支配する側の娘だ。穢れた生まれと見做されることはなかろう。聖女とおだてられたからそう振舞っただけなのだ。