399、魔法使いは嘘をつかない W
ファンタジー的な
「言霊を紡ぐその舌で虚偽を吐くべからず、ってね。忘れたのかい、魔法使いとなった日に世界に誓ったことを」
そう問いかける男の手には、発動器と魔導書が握られている。
「理からズレた言霊は災厄を引き起こす。君の師匠はそれを口酸っぱく警告しなかったのかな」
グリモアの上に浮かぶ栞の紋様は第七階梯の桜だ。
・マギ或いはメイガス。言霊を用いて世界と語らい、奇跡を起こすもの。一般的には魔法使いと呼ぶ。契約と近いを神聖視し、嘘をつくことを禁忌とする。自らの属す理に悖る行動を取る事が出来ない。規則に厳しい。
・ウィザード。己の力で世界の理に干渉し奇跡を起こす技術者。魔術師と称する。理詰めの技術であるため、一般に思われているよりも突飛な事は出来ない。学問として成立しているが、魔力がなければ使えない。
・ソーサラー。魔導師。探究者。世界の理に魔力を以って挑むもの。己の研究を第一に考えるものが多い。
・魔法使いが嘘をつけば災厄が起こる。これは。正確には魔法の暴走に近い。言霊は偽りも現に変える。世界は偽証を許さない。場合によっては魔法使いだけでなく周囲を巻き込んで破滅をもたらす。
・魔導議会は魔に関わる者を階梯でランク分けしている。各階梯には象徴する植物が決められており、紋章として階梯を示すのに使われる。階梯は実力を示すもので権力を示すものではないが、階梯が二つ違えば大体手も足も出なくなるので、序列と実質変わらない。稀にいる特化型は巨人殺しもあり得る。
・魔法使いの魔法は他者と共有できるようなものではない。師弟となって教えられるのは世界との対話の仕方とその時守るべきルールのみ。魔法そのものは教えようとして教えられるものではない。師弟だからといって同系統の魔法を使うとは限らないが、ある程度癖の様なものは似てくる事が多いのも確か。色んな関係の師弟がいる。
・魔法使いが世界と語らう時に使う名を魔法名と言う。アカウント名のようなもの。大体師となった魔法使いが付ける。発動器は杖に限らず本人が使い易ければ何でもいい。語らいの補助具なのでなくても魔法が使えなくもない。魔導書はこれまでに使った魔法のログ。議事録みたいなもん。ログから呼び起こす事で発動にかかる時間を短縮する事が出来る。
・魔導師には魔法使いと魔術師を兼ねているような変態がそこそこいる。ある程度以上の実力がなければ名乗れないが、魔法使いからでも魔術師からでもなれる。最低でも第五階梯に達していないとならない。
・真実のみを語る事と嘘をつかないことは違う。そのことを魔法使いはよく知っている。知らなければ社会に適応する事が出来ない。世辞や社交辞令だって広義の嘘に入り得る。嘘の大小は関係ないし善悪の話でもない。
・魔力が強い程世界に強く働きかける事が出来る。魔力が何なのかは実ははっきりしていない。が、術者の感情や精神に影響を受けるものであることは確か。使うと疲れる。魔に関わるものは魔力を感じ取る事が出来るが、普通の人間には大体わからない。しかし魔力が強ければ良いという訳でもない。
・魔法使いにとって一番不名誉なのは詐欺師呼ばわりされること。嘘を禁忌とし騙すことを良しとしない魔法使いにとっては酷い侮辱となる。人によっては手品師や魔術師と混同されることも嫌っている。
・理を語る魔法使いにとって、理を騙ることは己の矜持に関わるため、魔法使うために偽りを吐くことは強い忌避感を覚える。その種の禁忌は世界改変と呼ばれる。災厄をもたらす禁忌の一つ。
・言霊とは力ある言葉という。世界に直接働きかけるだけの強い言霊を紡げる魔法使いは数少ない。言霊の使えない魔法使いはいない。言霊が使えなければ魔法使いとは呼べないからだ。
・言霊は言葉であるので、口に出して言わなければならないわけではない。文字でも使えるものは使える。が、声に乗せる方が使いやすい者の方が多い。おそらく感情をこめやすいからだろうと言われている。