25、ある男の生涯 S
24の過去にあたると思われ
長い長い戦いを経て、彼が得たものは空虚な勝利だった。共に戦った仲間も、彼に戦いを挑んだ者も、皆々長い戦いの中で散っていった。
―――いつのまにか、彼は一人になっていた。
敵も味方も沢山の血が流れ、その中で唯一生き残った彼は異形へとその姿を変えていた。体は硬く、光沢のある鱗に覆われ、節くれ立った指からは太く、鋭くとがった爪が生え、鬣と化した髪の中からは白く、長い角が生えていた。
―――彼は龍になっていたのだ。
彼は絶望した。人々は異形と化した自分を受け入れないだろう、と。そのことは、彼が一番わかっていた。長い長い戦いは異民族を国から追い出そうして始まったものだったからだ。最早怪物と成り果てた自分はこの場所に留まる事は出来ない、と彼は故郷を旅立った。
彼は長い時間、世界を放浪した。だが、何処にも彼の安息の地は見つからなかった。人ではなく、だがしかし、元よりの龍(異形)というわけでもない彼を受け入れる場所はなかった。彼は悲しかった。たまらなく寂しかった。
―――彼は孤高であり、孤独だった。
だが、彼が望んでいたのは、孤高ではなく、友と和やかに過ごす日々だった。しかし、彼は、龍となった彼は、どうしようもなく一人だった。
ある時、彼は人の争い・・・戦争に行き当たった。彼は、人々にそんな愚かな事はやめろと訴えたが、誰も相手にしなかった。争いに決着がつき、人々は勝者と敗者に別れた。どちらにも沢山の死者がいて、家族や友人を失った者がいた。
彼は身寄りをなくした子らを拾った。人里から少し離れた地に、子らの居場所を作った。長い時間の中で身に付けた”力”を使って子らを養った。ひたむきに、ただ子らの幸せを願う彼に、子らは段々心を開いていった。
―――気が付けば、龍は沢山の穏やかな笑顔に囲まれていた。
最初に彼が拾ってきた子ら、異端として行き場を失っていた者、口減らしで捨てられた子・・・外の世界で生きられぬ者がそこに集まってきていた。彼は、彼らを守りたいと思った。その穏やかな場所を、何者にも侵させたくないと願った。
――――そして彼は箱庭を作り上げた。
外からの迫害を受けない穏やかな世界。彼は、ただ、ずっと穏やかにそこを見守っていくつもりだった。だが、訪れた外の人間の凶刃が彼を貫いた。
――――――そして、 箱庭の門は閉ざされた。