203、悪意の具現化 S
「これが醜悪だというなら、あなたの心も相応の醜悪さを持っている筈なのね」
少女は無邪気に、にんまりと笑みを浮かべる。
「そう、これがあなたの抱いていた悪意!人に対する悪感情!誰かを害し、貶めたいという心!他者への悪意を胸に抱き続けるのは辛いでしょう?だから、私がそれを解き放ってあげたのね」
「…私は、そんな事望んでない」
「本当に?その感情の赴くまま、誰かを傷つけたいと思ってなかったとあなたは言い切れるのね?」
「っ…」
少女:他者の悪意を怪物として具現化する能力の持ち主。少女自身に悪意はなく、また、あったとしても具現化する事はできないらしい。
具現化した怪物はその元となった思いの強さ、根深さ、大きさ、多様さに比例して大きく醜悪になっていく。具現化の対象となる思いは他者に対する悪感情全般であり、怒りや悲しみに近い感情も含まれる。
怪物は元になった思いに従って悪感情を向けられた相手に襲いかかる事が多いが、少女自身に襲いかかる事はない。基本的に少女が手綱を握り、コントロールする事になるが、思いの主が強い精神力や自制心を持つ場合はコントロールを奪取することも可能。
悪意の具現化を受けた人間は若干の空虚を感じるものの、その悪感情を失う事になる。その為、少女は"善意から"他者の悪意を具現化して回っている。それによって引き起こされる騒動や被害は全く考慮しない。
具現化した怪物はある程度の時間暴れ回るか、その感情を発散させれば勝手に消える。また、思いの主がそれを受け入れれば具現化を解いて心の中に帰る事になる。具現化し続けるだけでもある程度感情は消費されるが、それは微々たるもの。最も効率のいい発散のさせ方は具現化した怪物同士を戦わせる事だが、互いの主へベクトルが向いていないとうまくいかない為、それが可能な事は少ない。
少女の正体は謎に包まれているが本人曰く妖精の様なものであるらしい。実際に人外の存在なのか、異能を持つだけで人間なのかは不明。
他者の感情を見る事が出来るが、感情を理解しているかと言えばそれはまた別問題。本人の精神構造はかなりシンプルなのか、複雑に相反する感情が絡み合うという状態を理解できていないらしい。
怪物と思いの主にはある種の繋がりがあるらしく、怪物が具象化している状態で主が睡眠状態になると夢で怪物の行動を見る事になる。その状態で強く意思を持てば直接怪物を操ることも可能。とはいえ、それが出来る人は少ない。
少女自身は寧ろ悪意がないのが性質が悪いタイプ。無邪気、気まぐれで快楽主義的な価値観の持ち主。善意から行動するが、善意が空回っているどころか、善意が裏目に出ている感がある。怪物の醜悪さを愛で、怪物の引き起こす騒動を楽しんでいる節がある。グロ趣味と言われるとまた違うというか、スプラッタ系は少し嫌な顔をする。
行動力があり過ぎるほどにある。無駄にアグレッシブ。あまり人の話を聞かない為、勘違いして行動している事も結構多い。本人の暴走率は結構高いが、意図的でなく能力や怪物を暴走させる事はよっぽどない。
怪物によって悪感情を向けられた相手が死んでもあらあら、で終わらせてしまうが、そうでない相手が害される事になれば表情を曇らせる位の反応をする。しかし、悪意を受ける相手が死んでもいいと思っている訳でもないらしい。