185、聖杯の担い手 W
聖杯。
治癒を始めとした数々の奇跡を引き起こす事が出来る魔法の道具。
強大な力を持つだけに、所有する者には相応の清廉さが求められる。使い方を間違えれば世界を滅しかねないものなので、ある意味では当然のことと言えるのかもしれない。
伝承では、聖杯は自ら所有者を選ぶという。相対する相手が自らを所有するに値する相手かを見極めるのだと。
・後の世では便利な道具のように言われているが、最初の"聖杯"は数々の魔術を身につけた魔女。所有者とされた騎士は"聖杯"を嫁として娶った男。
人以下の道具として扱われていた故に世間的には夫婦とみなされず、騎士は彼女と結ばれた後も他家との婚姻の話が無くならず、やむを得ず生涯結婚しないと誓願を立てた。此処から彼は歴史上未婚とされている。
・"聖杯"の力は血によって受け継がれるものであったらしく、騎士の家系は個人差はあれど聖杯の力を行使する事が出来る。歴史を下り、血が薄くなるにつれて行使できる力は弱くなっているが、時々先祖がえりの様に強く力を受け継いでいる者がおり、"聖杯の担い手"と呼ばれる。
担い手はその称号と共に初代の騎士の名も受け継ぐ事になっている。担い手は聖杯としての機能が高すぎる為か、何処か人としての機能が欠けている者ばかりで、その血を次代へ残せない事も多い。その為、原則担い手となった時点で当主の座の継承権を失う事になっている。
・"聖杯の担い手"という強大な力を擁する事もあり、領地は国内でもある意味治外法権。とはいえ、権力者の横暴が通じない程度の話で、治安自体はかなり良好。独特の文化が形成されている事も含め、"閉じた要塞"、"聖杯の眠る地"、"鎖された楽園"等の異名を持っている。
・担い手は力と共に"聖杯"の意思も受け継ぐのか、強い自制心を持つ者が多く、自ずから外界へ働きかける者は少ない。また、自らの所有者と認めた者の為なら身を粉にして働くが、それ以外にはけして従わず、所有者を見つけない限り領地外には定住しない。
基本的に行動は受動的で専守防衛。確信犯的に動く事はあるが、自らの欲で動く事はない。寧ろ高い力を持つ担い手ほど己の危険性を理解し、外界への抑止力以上の役目を持つ事を嫌がる傾向がある。
・担い手よりも寧ろ半端に力を受け継いだ者の方が性質が悪く、担い手となった兄弟へのコンプレックスを拗らせた当主が領地を滅ぼしかけた例もある。そうした当主を諌めるのも担い手の役目。
・担い手の称号はその実力によって付けられるため、一つの時代に複数の担い手が存在したり、逆に担い手と呼ばれるに足る者がいない場合もある。時代が下るにつれて担い手の出現率も下がっている。
・担い手となれなかった者は武力を磨く事が多く、さもなくば頭脳を鍛える事になる。大なり小なり担い手に対するコンプレックスを持っている事が多い。担い手は須らく天然チートか突き抜けた天才なのである意味当然の反応なのかもしれない。欲求される水準の差か、外界では一騎当千レベルでそこそこ優秀な秀才位の扱いになる。担い手が空位でも領地の状態が保たれるのはその人たちのおかげ。
・かなり閉鎖的な家系になっているのは聖杯の力の危険性を全員が承知しているからか。
聖杯の力を手に入れる為に政略結婚を企んだ家もあるが、担い手は大抵子孫を残せない体質である事、それ以外の人間は領地の外に嫁入り(或いは婿入り)したがらない事などから、成功に至った事は皆無。
また、何故か担い手レベルでない限り領地外で育つと聖杯の力を全く引き出せなくなる事が多いこともそれに拍車をかけている。聖杯の力自体、領地外では使いづらくなるらしい。