162、コンピューター人間 S
これが僕の思想かどうかすら僕にはわからない
「私は決して天才ではない。努力を重ねて重ねて重ねて重ねて重ねて積み重ねていかなければ凡人にも劣るような、そんな人間だ。そう生まれ付いている。努力でそれをカバーする事は出来ても、矯正する事はできなかった」
「私は頭が固い。応用というものが全くできない。例えるなら、掛け算で解くべき問題を延々足し算を続けて解く様な、そんな事しかできない」
「インプットされたものの中から条件に合うものを探して選び出す事しか出来ないのだ。己の力で答えを作り出す事が出来ない。精々がインプットしたものを組み合わせる程度だ。それでは新しいものを作り出せているとは言えない。私は、他人の借りものをつぎはぎにしたような存在だ」
「私には望みが無かった。するべき、しなければならない、する必要がある、そうした考えだけで動いてきた。英語で言うのなら、Should,have to,need,must,そうしたものばかりで、wantで動いた事が無かったし、そうしようとも思わなかった。そうする必要性を感じなかった」
「私の父は優れた人だった。根っからの善人であり、人の目標とされる様な人間だった。幼心にも私は彼のような人間になるべきだと思ったし、そうある為の努力をした。表向きだけでもそういう正しい人であるかのように取り繕えるように努力した。父はそんな私を見て喜んでくれたよ。自慢の息子だと、そう言ってくれた。
私は父の真似をして正しく生きようとしていたが、それはあくまでそうするべきだと感じたからにすぎず、そうしたいと感じたからではなかった」
「私は見てくれだけ繕っているだけの破綻者だ。それは私自身が一番よくわかっている。それが生まれついてのものなのか、何処かで道を間違えてしまったのか、そんな事は瑣末な事であり、意味の無い問いに過ぎない。いずれにしろ、今此処にいる私が破綻者である事実に変わりはないからだ」
「私には己の思想というものが無い。持ちうる知識も、考察も、思想も、全てが他人からの借りものに過ぎない。感情も感想も感動も、全ては一般的な反応を再現して見せただけの借りものに過ぎない。私にはインプットされたものをアウトプットする事しか出来ない」
「君は、私に君を理解する事などできるわけがないと言ったな。それはその通り、正解だ。私に君を理解する事などできない。できたと言った所で、理解できた振り、理解できた気になっているだけだ」
「そもそも、君が偽りを口にし、偽りで己を覆い隠している以上、君を理解するどころか正しく知ることさえ難しいだろう。私に理解されたつもりになりたいのなら、偽りなく己の思う所を、己の思想を述べろ。そうでなければ私が君を理解できない事を非難するな」
「己を相手にさらけ出す事をせずに相手が己を理解しないと責めるのはただの我儘だ。サイコメトラーではあるまいし、隠された気持ちを他者に察せられると思うな。言葉にせずに伝えられる気持ちなど高が知れている」
「理解している事と、理解しているように見える事にどれほどの違いがあると思う?表に出てくる分が同じなら、それは殆ど同一と言えるのではないか?誰にだって本当かどうかを確かめることはできないのだから。結局は自己申告に頼るしかないのなら、それを区別する意味すら無に等しい」