103、神様の憂鬱 SS
ある意味102の関連。
ぐだぐだ
人とは面倒くさいものだと彼はいう。
「だってねぇ、エニス。愛されたいっていうから、誰にでも愛されるようにしてあげたのに、そうしたら今度はその愛が信じられないっていうんだよ?彼らがあの子を愛してるのは紛れもない事実なのにね」
「ありがたみが、ないからでは」
「やっぱり面倒くさい」
そういう彼の顔は、やはりいつも通りの喰えない笑顔。この男が笑顔以外の表情を浮かべるのを私は一度しか見た事がない。この男は、例え人類その他この世界のいきもの全てを滅ぼす事を決めたとしても笑顔のままだろう。…否、笑顔のまま"だった"のだろう。その当時、私はまだ存在していなかったから、本当にそうかはわからないが、今まで見てきた所から考えればそうとしか思えない。
「エニス、何を考えているんだい?」
「何も」
彼は笑顔を浮かべたまま、しかし少し不機嫌そうな気配を醸し出す。いつもながら器用な事だ。
「何時になれば君は僕の愛に気付き、受け入れ、デレてくれるんだい?」
「あなたの愛は全てに向けられるものでしょう」
「それは神の愛であって僕の愛じゃない」
「同じでしょう」
「違う」
「あなたは神でしょう」
そう、彼は神だ。この世界の何でも彼の思うままにする事ができる。他人の感情でさえも。つまり、私の感情だって、彼がやろうと思えば、"私の意思で"変えさせることができる。
「…それは反則だからやらないと決めている」
「反則ですか」
「そんな事をしても虚しいだけだ」
「面倒くさいですね」
「…ああ、面倒くさい」
自分が先ほど話題にあげていたあの子と同じような事を言っている事に気付いたのか、彼は苦笑を浮かべた。だが、私はあえて彼に追い打ちをかける事にする。
「そもそも、最初からお人形遊びの様なものでしょう」
この身は彼の手によって作られ、気まぐれに自らの意思を持たせられただけの神形にすぎない。彼の手によって作られたのではないものなど元々この世界には彼以外にはないのだ。…まぁ、人間は知恵を得て自ら道具を作るということを覚えたらしいが。
「…?」
ふと、私は彼から何の反応もない事に気付いた。不思議に思って彼を見ると、彼は今までに見た事のない表情をしていた。即ち、無表情。いくつもの感情が入り乱れ、表情を作る事を放棄したらしい。…どうやら私は地雷を踏んでしまったようだ。
「…ボクは、エニスを人形だと思った事は無い」
「では、何と?」
「…ボクの望み、だ」
「…そのままですね」
エニスという名は、人が使っている言葉では望みという意味なのだと聞いた覚えがある。…ピュグマリオンのようなものかと思っていたのだが。
「全くの間違いではないかな。…僕は一人でいるのが寂しかった。だから君を作った」
「天使達がいるでしょう」
「アレらではダメだ。盲目的過ぎて両極端だ」
「…作ったのはあなたでしょう」
彼は困ったように笑う。
「役目が違う、という事だ。アレらの役目とエニスの役目は違う」
「知っています」
そもそも私は天使たちと違って空を飛ぶための羽は無いから此処を離れる事はできない。やろうとしたって天使たちと同じ役目を果たす事は出来ないのだ。
「…そういう事じゃない」
「では、どういう事ですか」
「…エニス、わかってて言ってる?」
「何をですか?」
「…ああうん、エニスがそんな事するわけないって事はわかってるよ、うん…」
「…?」
彼は何故かがっくりと肩を落とした。
「…そう言えば」
「うん?」
「神の行動は人間の書いた"ゲンジモノガタリ"という物語に似ているそうですが、本当ですか?」
「誰が言ったのそんな事」
「ルシフェルですが」
「…あの悪戯っ子め…!」
「それで、どうなんですか?」
「僕はロリコンじゃないよ!」
「そうですか」