君が見える。
もう、終ったしまった恋。手元に残ったものを少しずつ、片付けていった。凛が作ってくれたチョカー。食器。クッション。凛が居た時の思い出を一つずつ、整理するように、棄てていく作業。手にとると、その時の会話が蘇ってくる。離したくない。思い出として、とっておきたい。そう思う。でも、もう、先に進まなければならない。凛と居た思い出に、もう、別れを告げる。
「翔。」
何度か、翔の変化に気付いた友人が、メールをくれていた。尋ねてくる友人もいた。中には、泊り込んでくる友人もいた。その都度、翔は、
「大丈夫。」
と、笑っていた。覚悟していた結果だった。いつかは、そうなるとも、思い。もしかしたらとも、思っていた。
「これは、お土産。」
友人がくれたお守り。恋愛成就とあった。
「女子高生じゃあ、ないし。」
翔は、笑い飛ばした。
「心配してんだよ。」
真顔で言われて、持ち続けた。
「結局さ・・。また、次回って事になったな。」
翔は、引き出しの奥にしまった。
「あなたさ・・。どうするの?」
実家の母親が、度々、顔を出しては、小言を言った。仕舞いには、
「家に帰ってきたら?」
親らしい顔をした。
「お父さんの後を継いでも、いいし。」
「それは、ないっしょ!」
翔は自立したかった。
「親の七光りっては、言われたくない。」
やり遂げたい事があった。
「人を喜ばせたいんだ。」
翔は、マンションを出た。親元に戻り、資金を集めた。
「俺の力で出来る事があるはず。」
翔は、行動し始めていた。本当に、縁があれば、きっと、叶う。そう信じて。以前から、興味もあり、専門に通って、得た技で、やっていこうと決めていた。
「自分の店を持とうと思う。」
そう、実父に宣言した。最初、反対していたが、翔の心意気に負けた形となった。
「親の力は、借りない。」
小さくてもいいんだ。翔は、自分の夢の真っ直ぐつきすすんでいた。それは、まるで、凛を忘れるために、仕事に没頭していくようにも、見えた。
「春には、開店できると思う。」
友人達が、お祝い会を開いてくれた。幾分、痩せた感じだったが、凛と別れた当初より、顔色もよく、精悍な顔つきになっていた。
「ここに・・。一番喜んでくれる人がいればいいんだろうな。」
誰かが、ふと、こぼした。
「あぁ・・。そうだな。」
誰かが、不味いという顔をしたが、翔はいたって、普通で居られた。もう、過去の事となりつつあった。
「喜んでくれると思う。」
そうだよ。もうすぐ、桜の季節がくる。凛と優奈と一緒に見た。あの夜桜の季節が・・・。春の夜は、肌寒い。それなのに、あんなの暖かい思い出は、ない。桜のように、切ない恋で終ってしまうのか・・・。
「縁があれば、また、逢える。」
誰かが、言った。きっと、また、逢えそうな気がする。
「凛。」
後は、開店を待つだけとなった、お店の前に、何処からとなく、桜吹雪が舞っていた。
「なんとなく、本当に、逢えそうだよ。」
淡い朝の光に、凛の姿が見えそうだった。
「きっと、逢える。」
凛の声が聞こえる気がした。
了。