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手の届かない人。

凛といたい。出来れば、ずーっと、一緒にいたいと願っていた。でも、冷静に考えれば、叶う訳が無い。実際、腕の中に凛がいたとしても、現実には、手の届かない人なのだ。諦めよう。何度も、思った。その都度、後、少しで手が届きそうになる。

「もしかしたら・・。」

先を考えるというより、一緒にいたいという気持ちだけだったと思う。

「ゆうの奴、驚くだろうな・・。」

特大のプリンを買った。優奈も凛もプリンが好きだった。そして、自分も。三人で、晩御飯を食べる。そして、これから、先の事を考える。もう、凛達、夫婦は、壊れていた。自分の存在がなくとも、とうに壊れていた夫婦関係。これから、凛を支えて生きたい。翔は、そう思っていた。もし、家族になれないとしても、凛の力になる。マンションのドアを開けると、思いもかけない光景が広がっていた。玄関に見慣れない男ものの革靴があった。悦史のであろう。このまま、引き返そうかと思ったが、凛の普通ではない声の調子が心配だった。自分の気配を消すように、息を堪え、進んでいく。凛と悦史が、対峙していた。

「凛。」

そう言いながら、自分の声がかすれているのに、気付いた。

「翔。」

翔の姿をみつけ、凛が悲しそうな顔をした。ここに、現れた翔に戸惑っていた。この悦史と凛が、話し合っているのを、凛は、聞かれたくないのだ。翔は、察知した。

「ゆう。」

優奈を呼んだ。自分は、ここに居ては、いけない。凛が、困っている。家族の話し合いに、自分は入ってはいけない。

「おにいちゃん!」

優奈は、翔に走りよってきた。そっと、抱き寄せる。

「ごめん。行かなきゃ。」

凛には、何を言う事があるだろうか・・・。この場で、自分の思いを伝える?そんなバカな。一番、この優奈の幸せを考えると、家族と共に過ごす事なのだ。

「何処に行くの?」

優奈は、翔の腕の中で、呟いた。

「また、逢える?」

「逢えるよ。」

「本当に?」

「うん・・。」

翔は立ち上がった。買ってきたプリンを置いた。一緒には、食べられないな。一人でも、食べられるサイズにすれば、良かったな。翔は、笑った。凛の顔は、見れない。見たら、気持ちが、戻ってしまう。彼女との思い出は、沈めてしまおう。凛の顔は、見なかった。みつめれば、未練が残る。きっと、自分は、彼女を忘れる事は、出来ないだろう。

「翔!」

凛の声が耳に届いた。彼が何を考えているのか、わかったのだろう。引き止める声だった。だが、悦史がいる。悦史が、ここにいようとしているのを、感じ取った。ここから、去ろう。

「待って!」

もう、終ろう。自分のものに、ならない人の事で、苦しむ恋は、自分にむかない。忘れてしまえ。

翔は、マンションのドアを開けた。戻らない。この凛と過ごした日々と、別れる。優奈の泣き出す声が聞えた。薄い光の中へと、翔は出て行った。

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