凛との出逢い。
翔が初めて、凛と出逢ったのは、職場ではなかった。きっと、凛は、翔場で、案内された時と思っているかもしれない。何日か前に、翔と逢っていた。それは、二人の職場のあるビルの一階に入っている雑貨やであった。
「すいません。すいません。」
時間がないのか、レジで、あわてている声がした。翔は、丁度、休憩時間の合間をぬって、買い物に来ていた。アロマのデュフューザーを見ていた。
「すいません!」
目線は、翔を見ていた。
「レジ。お願いします!」
翔の腕にしがみついていた。
「時間がなくて・・。あのお迎えに時間が・・。」
叫びながら、翔をレジに誘導していた。
「違いますって。違いますよ。」
翔は、断った。確かに、翔は、店の制服を着ていたのだ、間違われても仕方がなかったが、その位、見分けがつきそうな、店だった。
「店員さんじゃないの?」
凛は、声をあげた。
「そうですよ・・。勘弁してください。」
「嘘!」
凛は、翔から、手を離した。
「ご・・。ごめんなさい!今日、コンタクトもしてなくて・・。」
あわてて、凛は、駆け出していた。
「ちょっと!」
購入しかけた物をレジに残して、凛は、店から駆け出していた。
「待って!」
翔が、追いかけようとすると、意外に凛は立ち止まり戻ってきた。
「あの・・。」
「はい?」
翔は意表をつかれた。
「あの・・。駐車料の小銭がなくて・・。それで、崩そうとしてたんですけど・・。」
「いくらなの?」
「えぇ?でも。あの・・。」
凛は慌ててた。
「今、すぐ・・。戻らないとなんです。車が・・。」
「車?」
「遮断機の前に・・。」
「えぇ?」
翔は、面食らった。慌てて一緒に駐車場まで、葉知る事になったのだが、目の悪い凛は、何一つ覚えてなかった。後から、いろいろ聞きたい事があると、思っていたが最後まで、聞く事はなかった。凛のしっかりしているようで、抜けている所が、翔は何よりも、愛おしかった。きっと、その時から、翔は、凛が、気になっていたのであろう。
「もう、何、考えているの?」
杏奈は、翔の心が、どこかに傾くのを察する力がある。別の事を考えるとすぐ、翔に声をかけた。
「何も・・。」
「そおかな?」
杏奈は、翔に腕を絡めてきた。
「こら!職場だぞ」
「いいじゃん。」
「ケジメつけろよ。」
「だって。」
杏奈のケジメのなさが苦痛だった。それが、なければ、その時の翔にとって、杏奈は、可愛い存在だった。
「あたしだけ、見てて。」
「わかってるよ。」
「うん。」
杏奈は、嬉しそうに、笑った。この笑顔も、凛の前では、氷つく事になる。