杏奈との出逢い。
杏奈との出逢いは、職場でだった。ほとんど同期。いつも、翔と目が逢うと、微笑んできた。好印象だった。入ってきたばかりの、二人は、資格取得の研修やら何やら、一緒に過ごす事が多かった。
「いつも、ここにいるんですね。」
喫茶ルームで、勉強する翔の隣に杏奈も陣取った。
「ここなら、コーヒーも、飲めるしね。」
気さくに話しかける杏奈に、翔は、答えた。同じくらいの妹がいる。
「なかなか、はかどらなくて・・。」
言いながら、杏奈は、携帯を気にしていた。
「メール。良くしてるよね?」
翔は、杏奈が、携帯を気にする姿をよく見ていた。
「わかります?」
「良く、持ってるから・・。彼氏?」
何の気なしに、翔が聞くと杏奈は、戸惑った。
「別に、深い意味はないよ。」
翔は、笑った。
「だって、いても、おかしくないだろう?」
「うん・・。」
杏奈は、戸惑った。彼氏がいる事実を知られたくないようだった。
「彼氏というか・・・。友達というか・・。」
返答に困っていた。
「じゃあ。友達という事にしておいたら?」
翔は、笑いかけた。
「そうですね。」
杏奈は、翔を見つめていた。この時から、杏奈は、翔に魅かれていったのかもしれない。翔の行くところに、必ず杏奈の姿があった。愛嬌もあり、見た目も良い杏奈に、追いかけられて、翔も悪い気はしなかった。いつしか。周りも、杏奈と翔は、付き合っていると思うようになっていた。
「一応さ・・。」
翔は、杏奈を呼び出していた。
「職場では、節度ある行動していた方がよくない?」
「そのつもりでいるけど。」
「違うよ。杏奈。行き過ぎるよ。」
「だって、心配なの。」
「俺は変らないよ。このままだよ。」
「でも・・。」
「だからって、話しかける女みんなに、後から、いろいろ聞くのは不味いよ。」
「翔が、どこかに行ってしまいそうで・・。」
「誰と?」
話の途中で、また、杏奈の携帯がなった。
「杏奈・・。」
翔は、苛立つた。
「男だろう?」
「・・。」
杏奈は、答えない。
「別れたんじゃ、なかったのか?」
「友達だから・・。別れないよ。」
曖昧に笑った。
「翔。心配なら・・。」
杏奈の答えに、翔は、不満だった。
「心配なら・・。一緒に居て。」
「一緒にいるだろう?」
「そうじゃ・・。なくて。」
杏奈は、婦人科系が、弱かった。
「結婚してほしいの。」
「それなら・・。杏奈。今の。お前の周りの男達と、手を切るのが先だろう?」
杏奈は、父親へのコンプレックスが強いのか、男との関係が曖昧になりがちだった。
「本当に、結婚を考えるなら、それからだろう?」
と、言いながら、翔自身もまだ、結婚を考えられないでいた。親の仕事は、継ぎたくない。大学まで、出してもらった上に、専門まで、行かせて貰った。好きな事をしている。金持ちの、ボンボンにありがちで、自由な生活をしていた。
「そしたら、考えてくれる?」
杏奈は、結婚の条件と勘違いしたようだ。
「そうだな・・。」
いつかは、考える日が、来るのかもしれない。
「その時期が来たらね。」
翔は、曖昧な返事をしていた。それが、杏奈の行動をエスカレートさせる事も知らずに。