あなたを傷つける・・。
電話に出たのは、忘れもしない人の声だった。あぁ・・。この声だ。翔は、思った。忘れたくても、忘れられない。メルアドを変えようかと何度も、思った。それでも、凛との接点を失いたくない。悩んでる間に、先に凛が変えた。先を越された感じだった。連絡をとろうとも、思った。何度も、思いながら、思いとどまっていた。二人の恋に先はない。行き着く答えは、別れだけ。自分達の恋が、人々のつまらない中傷を浴びる前に形を変えてしまうしか、方法はない。終らせよう。はっきりと、別れを告げ、互いに触れない。それが、互いを思い別れる形・・・。
「凛?」
何を話そうか。自分達が、こうなる事が最初から、わかっていて、逢っていたのか?凛は、本当に自分を思っていてくれたのか、つまらない疑問が、胸を焦がしていた。
「翔?」
久しぶりに聞く凛の声。忘れた事はない。
「凛。やっぱり、きっちり、話しておくべきだったよね。」
「・・。」
凛は、黙っていた。
「俺達、一緒には居られない。」
「ごめんなさい。」
「どうして、謝るの?」
翔は、尋ねた。
「最初から、こうなると思ってた・・。」
「最初から?どうして・・。わかっていて、一緒にいたの?」
「あたしの我儘だから。翔とただ・・。このまま、一緒にいられればって、思って。」
「凛。無理だよ。最初から、俺達は、無理だったんだ。」
何も考えずに、過ごした日々があった。
「真剣に考えれば、答えは、わかっていたんだ。その答えを見ないふりをしていた。」
「でも。翔。あたしの気持ちの変りはない。」
「凛。迷わせるなよ・・。」
「翔を、今でも・・。」
「あなたは、勝手すぎる。」
翔は、声を荒げた。今。別れを決めてる。諦めて、別れるのだ。未練はいけない。ここで、凛の翔への気持ちを聞いてしまったら、また、決心が揺らぐ。潔く、凛を突き放そう。
「いつでも、そうだ・・。自分の都合のいいように、解釈する。」
一緒になれない不安。哀しみが怒りとなって、突き上げた。
「終ったんだよ・・・。凛。俺達は・・。」
「翔。」
凛が、電話の向こうで泣いていた。このまま、嘘だと言って、傍に行きたかった。すぐ、抱きしめてやりたかった。でも、それでは、更に、凛を傷つけてしまう。
「最初から・・。」
言い様のない哀しみがあった。もう、この人に逢う事は無いのだろうか・・。二度と逢っては行けないのだろうか。少し前までは、何も考えずに逢っていた。もっと、大切にすれば良かった。あの時間には、戻れない。
「最初から・・。無理だったんだよ。」
自分に言い聞かせるように、翔は言った。未練だけが、残ってしまう。自分にとって、凛に対して、最後にして、最大の愛情って、なんだろう。やっぱり、あおれは、冷たくする事しかないのだろうか。翔の冷たい言葉に、凛は、絶句していた。
「ごめんなさい・・。」
消え入りそうな声だった。泣いている。凛が、自分の言葉で傷つき、泣いていた。
「さよなら。」
翔は、乱暴に告げた。これ以上、話していたら、自分も泣き出しそうだった。
「凛。」
切った後で、翔は、呟いていた。
「ごめん・・。」
力がなかった。今、すぐ、凛を受け止めるには、非力だった。翔は、一人、誰もいない部屋で、遠い街を見下ろしていた。雨が、激しく降り出していた。自分の迷う続ける気持ちを打ち消すかのように・・・。