別れの雨。
自分の大切な人を、人の道から、外させてはならない。後ろ指さされるような人にしては、ならない。
自分に出来る事はなんだろう。あれから、翔は、考えていた。雨が降り出していた。甘い匂いは、街中を包む。アスファルトが、濃厚な色に変っていく。行きかう親子連れが、あわてて、駐車場まで、走り出していた。幼稚園のお迎えだろうか。目に映る親子連れが、全て、凛と優奈に見えた。
「「子供にとってはさ、本当の親と一緒にいるほうが、幸せなんだよ。」」
兄貴に言われた。
「「例え、どんな親でもだ。」」
そうだと思う。
「「人妻に手を出すなんて・・。お前・・。」
友人が、絶句した。
「「別れろよ。リスクが多すぎるだろう?親の事考えろよ」」
親の事。
「ふっ・・。」
翔は、ベランダから、下を見下ろしていた。
「結局。あなた達が、ついてまわるのか・・。」
「翔?どうしたの?」
後ろから、話しかけられた。翔の母親だ。
「連絡がないから、来てみれば、こんなに、洗濯物ためてて。もう帰るからね」
母親は、仕事を辞めた事に気付いていた。だが、五月蝿い父親には、内緒にするつもりだ。
「いつでも、帰ってきていいのよ。あなたには、会社を継いでもらうつもりで、大学まで出したのよ。それなのに、卒業すると、お菓子作りを勉強するなんて、フランスにいっちゃうんだから・・。前の会社も、ただの雑貨屋っていうじゃない?」
「いいんだよ・・。親父の会社なんて。」
「お兄さんには、失望してるの。せめて、あなただけでも、会社を手伝ってくれれば、楽できるのに・・。」
母親が、帰り支度を始めたので、少し、安心した。
「期待するなよ。」
親も年だ。先の事を考えなければならない。だが、今の翔の心には、凛の事だけが、深く、のしかかっていた。
「早く、お嫁さん。みつけてね。」
曖昧な顔をする翔を後に、母親は、マンションを出て行った。雨が強く、降り始めていた。
「凛。」
逢いたい。・・・が。
「もしもし・・。」
翔は携帯をとった。相手を思うなら、迷わせなく、次の人生を送るために、自分が、しなくてはならない事。・・・・それは。冷たく、凛との別れをはっきりさせる事。凛にとっても、優奈にとっても。ここで、自分との判れをはっきりしておいたほうがいいであろう。最後の優しさであり、最善策。
「翔?」
携帯に出たのは、紛れもなく、自分の大切な人の声であった。雨が更に強く降り出していた。