登校―夏
三題噺もどき―きゅうひゃくにじゅうよん。
自転車を漕いでも、風に涼しさを感じない。
朝の日差しは嫌に眩しく、むき出しの肌に突き刺さる。
夏休みの残りの1週間だと言うのに、学校に向かっている。
「……」
毎日毎日、暑い日が続く。
残り一週間で八月は終わると言うのに、涼しさのかけらも感じない。
去年はかなり長い間暑い日が続いたから、今年もそうなんだろう。
「……」
なんとなく、その暑さに慣れつつある感じがするのもなんだかおかしなものだ。
暑い暑いとは言いつつも、こんなモノかと思っている所もなくはない。
だって、毎日当たり前のように30度超えの日々が続いて、最低気温も大抵20度前後。
慣れてしまった方が体が楽だと判断したら、嫌でも適応してしまうものなんじゃないんだろうか。仕組みなんてものは知らないけど。
「……」
しかしまぁ、慣れたとしても、暑いことに変わりはないのだけど。
いっそ雪でも降ってくれないだろうかと思うくらいには暑いのだけど。
この暑さがいつまで続くのか考えるだけでも恐ろしいのだけど。
その暑さの中で毎日自転車を漕いで学校に行っているのが信じられない。
「……」
その内、制服指定が秋になって冬になる。
暑い中で冬用の制服を着て、自転車を漕がなくてはいけない。
寒いよりはマシかもしれないが……自転車に乗っていて汗をかいた後が一番寒いのだ。
程よく調整できればいいのだけど、風に当たると冷たいしけれど汗はかくし、止まると一気に冷えるし、それでも冬用は暑いし……みたいなもう訳の分からないことになりそうだ。
「……」
去年はどうだったかな。
暑かったことは覚えているんだけど、制服はどうしていたか記憶が朧げだ。
たった1年前のことなのに、どうにもあやふやに思えるのは私だけではないと思いたい。
「……」
心地のいい季節というのがなくなりつつあるのは悲しいものだな。
春風のように柔らかで温かなものがなくなり。
代わりに皮膚を刺すほどの日差しと、立っているだけで汗が噴き出すような暑さが続き。
「……」
夏が終わったと思えば、骨の髄まで冷えるような寒さが訪れる。
それも急に。去年、秋は訪れたのだろうか。
元々季節の変わり目なんて曖昧なのに、更に分からなくなってきている印象がある。
それでも慣れて行かないと、生活が困難になっていくんだから。
この歳で思うことでもないが、長く生きることで良いことなんてそうそうないんだな。
「……」
そんな、意味のないことを考えていると。
あっという間に学校の前にたどり着く。
あと一つ信号を渡ると言うところで、引っかかり、横断歩道から離れたところに止まる。
他の生徒は見当たらない。
「……」
近くにある公園から金属がこすれるような音が聞こえる。
こんな朝早くから元気なものだなと思い。
ちらりと、公園の方を見る。
「……」
そこは少々手狭だが、滑り台も鉄棒もある。
紐でくくられ、いつの間にか使えなくなっていたシーソーも未だ撤去されることなく並んでいる。ビニールの紐なのか、所々ほつれていて意味もないような気がする。
そして隅の方に、ブランコがあるのだけど。
「……。」
誰も、乗っていない。
ブランコだけが、前後に揺れていた。
風のせいかとも思ったのだけど、2つ並んだうち1つだけ。
「……。」
子供の声も聞こえないし。
大人のような姿も見えない。
人の気配がしない公園で。
ゆらゆらと。
「……」
いつもより早い時間に登校しているとはいえ、人が居ないのもおかしいのだ。
誰かしら人は歩いている。散歩の人も居れば、制服を着た人も居る。
それが当たり前だし、当然の朝の景色だ。
「……」
きぃ。きぃ。
と、金属のこすれる音だけを響かせて、ブランコは揺れている。
誰も座ることのないその椅子に、誰かが居るのだろうか。
例えば。
いつか見た。
あの―
「……」
何かが頭の上で震えている。
スマホのアラームが起床時間を伝えていた。
「……」
若干の気持ち悪さを残しながら。
なんとか体を起こす。
「……」
……今日はゆっくり行こうかな。
お題:雪・春風・ブランコ




