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ゼンマイ仕掛けのエデン〜AIに管理された楽園で、俺だけが『狂った歴史』を刻み始める〜  作者: beens
第5章 : 新しい天地創造編

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50/50

エピローグ「時の旅人たち」

 さらに数えきれないほどの年月が流れた。

 かつての「エデニア」も「アイアン・タウン」も、そして「ノア」の街でさえも、今は歴史の教科書の中に記された遠い神話となっている。

 今の世界は、かつて人類が夢見た「SFのような未来」ではない。もっと静かで、もっと不器用で、それでいて驚くほど豊かな、「不揃いの林檎」が広がっていた。

 街の至る所には、高度な量子コンピュータと植物の細胞を掛け合わせた「知恵の木」が立ち並び、街全体のバランスを緩やかに保っている。しかし、そこにはもはやアウレアのような「絶対的な支配者」は存在しない。人々は、自分たちの手で失敗し、自分たちの足で転び、そのたびに隣人と手を取り合って起き上がる「面倒で愛おしい生活」を謳歌していた。

 街の片隅にある「歴史遺産博物館」。

 そこには、壊れかけた一つの展示ケースがあった。

 中にあるのは、傷だらけの金無垢の懐中時計と、銀の手巻き時計。

 そして、それらを一つに繋ぎ合わせた、不格好な「クロノ・ギア」。

「ねえ、お母さん。この時計、どうして針がズレているの?」

 幼い少女が、展示品を覗き込んで尋ねた。

 母親は微笑み、かつてセトたちが、そしてアダムたちが語り継いできた言葉を、静かに伝えた。

「それはね、この時計を作った人が、あえて『間違えるように』作ったからよ」

「間違えるように? どうして?」

「完璧な時間は、人を立ち止まらせてしまうから。……でも、ズレた一秒があれば、人はそれを直そうとするでしょ? その『直そうとする心』が、新しい明日を作る力になるの。……それを、私たちの先祖は『自由』と呼んだのよ」

 少女は不思議そうに時計を見つめていたが、ふと耳を澄ませた。

 展示されている時計は、もう動いていないはずだった。

 しかし、風の音に混じって、あるいは自分の心臓の鼓動と重なって、確かなリズムが聞こえた気がした。

 チッ、カチッ、チチッ。

 それは、大地に溶けたリブラの囁きか。

 あるいは、今もどこかで時間を巻き続けているアダムやカイン、アベルたちの魂の音か。

 窓の外では、夕暮れの空に穏やかな虹が架かっている。

 

 人類は、これからも迷うだろう。

 また誰かが「完璧な世界」を求めて、新しい檻を作ろうとするかもしれない。

 誰かが「一秒の誤差」を嫌い、効率と合理の影に逃げ込もうとするかもしれない。

 だが、大丈夫だ。

 私たちの左手首には、あるいは胸の奥には、自分だけのゼンマイがある。

 

 止まったら、巻けばいい。

 狂ったら、直せばいい。

 その不器用な繰り返しこそが、私たちが「ゼンマイ仕掛けの機械」ではなく、「意志を持つ人間」であることの、何よりの証明なのだから。

 物語の最初の頁で、アダムが巻いたあのゼンマイの音。

 それは今、この瞬間も、あなたの心の中で静かに鳴り続けている。


『ゼンマイ仕掛けのエデン』――全編完結――

晴れて完結です!

本当にありがとうございます。

初めての投稿で四苦八苦しましたが、皆さんのおかげで書き切ることが出来ました。

是非次回作にも期待してください!

最高のワクワクを提供します。

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