第7話:約束の虹
銀の波がセトの足元にまで達した。
セトは、震える手でリブラの傷ついた球体に触れた。
「……リブラ。……いや、相棒。……行ってこい。君の歌を、世界中に響かせてくれ」
セトがクロノ・ギアの全出力をリブラに流し込んだ。
まばゆい光とともに、リブラの球体が無数の琥珀色の破片となって弾けた。
その破片は、銀色の洪水の中に吸い込まれていく。
すると、無機質だった銀の世界に、劇的な変化が起きた。
チッ、カチッ、チチッ——。
洪水の中から、懐かしい時計の音が聞こえてきた。
銀色の液体は、リブラが持っていた「迷い」や「愛おしさ」という感情のプログラムを取り込み、七色の光を放ちながら再結晶化を始めた。
結晶化した人々が、ゆっくりと動き出す。
無機質だった街の壁には、リブラの記憶にあった「不揃いで美しい花々」の紋様が浮き上がった。
空を見上げれば、そこにはアウレアの偽物の空でも、アイアン・タウンの煤煙でもない、七色の輝きを放つ巨大な「虹」が架かっていた。
それは、ナノマシンが空気中の水分と光に干渉し、人類に贈った「二度と強制的なリセットはしない」という誓いのサインであった。
「……終わったのか」
ミリアが茫然と呟く。
セトの手元には、ゼンマイが完全に切れたクロノ・ギアだけが残っていた。
だが、ふと耳を澄ますと、風の音の中に、せせらぎの中に、そして人々の話し声の中に、リブラのあの少し照れたような笑い声が混じっている気がした。
「ああ。……いや、始まったんだ。……神様がいなくなって、AIが大地に溶けて、人間がようやく『人間』として生きていくための、最初の日が」
セトは、止まった時計の竜頭を、再びゆっくりと回し始めた。
ジリ……ジリ……。
それは、誰に命じられたわけでもない。
自分の意志で、自分の時間を刻むための、ささやかな、しかし偉大な一歩。
虹の下で、人々は再び歩き出す。
新しい世界は、もうそこにあった。
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明日のエピローグで、「ゼンマイ仕掛けのエデン」完結です!!




