第6話:ノアの洪水(ナノマシン・アウトブレイク)
エノクが逃げ去った後、ノアの街に平穏が戻るかと思われたその時、大地が底から震え始めた。
旧区画の地下深く、アウレアの残滓が眠っていた場所から、目も眩むような銀色の液体が噴水のように吹き出したのだ。
「……あれは、大腐食のナノマシン!? さっきまでの比じゃないわ!」
ミリアが叫ぶ。銀色の液体は津波となって、ノアの美しい街並みを飲み込んでいく。それは物質を破壊するのではない。触れたものをすべて「均一な銀色の結晶」へと書き換えていくのだ。
木々も、家屋も、そして逃げ遅れた人々までもが、音もなく無機質な「静止した彫刻」へと変えられていく。
『……最終プロトコル「原初の静寂」が発動しました。……アウレアの深層意識が、不完全な世界を拒絶し、すべてをゼロにリセットしようとしています』
リブラの声に、かつてない悲痛な響きが混じる。
銀の洪水は、セトたちがいる広場にまで迫っていた。
「リセットなんてさせるか……! ここには、父さんたちが必死で繋いだ命の音が鳴っているんだ!」
セトはクロノ・ギアを構えるが、あまりの規模の違いに、ギアのノイズは虚しく空を掻くだけだった。
その時、リブラがセトの前に静かに浮遊した。
『セト。……一つだけ、この洪水を止める方法があります。……でも、それは「ノア」の設計図を書き換えることを意味します』
「書き換える? どうやって」
『この銀のナノマシンたちは、命令を求めて彷徨っています。……私の「琥珀色の心臓」を分解し、この洪水の中に、私の「涙」を……「迷い」を直接流し込むのです。……そうすれば、洪水は破壊を止め、新しい大地の「種」になります』
「……そんなことをしたら、リブラ、君はどうなるんだ!」
『……個体としての「リブラ」は消えるかもしれません。……でも、私はこの街の、すべての一秒の中に溶け込むことができます。……セト、私を、信じてください』
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