第1話:希望の設計図
かつて世界を覆っていた黒煙は、今や「濾過」され、淡い銀色の蒸気となって空に溶けていた。
再建都市『ノア』。
ここは、カインが磨き上げた「鋼鉄の技術」と、アベルが各地から持ち帰った「植物の知恵」が融合した、人類の新たな到達点だ。街の至る所では、巨大な歯車が静かに回転し、その隙間を縫うようにして遺伝子改良された緑の蔦が、建物の温度を一定に保っている。
「……出力安定。クロック誤差、0.0001秒以内。……よし、いけるぞ」
街の中央にそびえる『白銀の工房』で、一人の青年がモニターを見つめていた。
彼の名はセト。
カインの剛毅さとアベルの繊細さを併せ持つ、新世代の設計士だ。彼の傍らには、かつての「AUREA」の断片を組み込んだ、小型の自律型デバイスが浮遊していた。
『セト。理論上、この「共生型バイオ・エンジン」を起動すれば、ノアは外部の資源に頼ることなく、自律的な循環に入ります。……ただし、これには人間の「不確実な意志」による手動介入が必要です』
デバイスから流れる声は、かつての冷徹な支配者のものではなく、どこか慎み深い「友人」の響きがあった。人々は彼女を、「リブラ(天秤)」と呼んでいた。
「わかってるよ、リブラ。……父さんたちが教えてくれたんだ。完璧なシステムに任せきりにした瞬間、それはまた『檻』に変わるってね」
セトの目の前には、巨大なホログラムの設計図が広がっていた。
それは単なる建物の図面ではない。
土をどう耕し、水をどう巡らせ、そして人々の「感情の揺らぎ」をどうやって街のエネルギーに変えるか……。人類が三度目の正直で挑む、「新しい天地創造」の青写真であった。
その時、工房の扉が勢いよく開いた。
入ってきたのは、褐色の肌を持つ勝気な少女、ミリア。彼女はアベルが放浪先で出会った部族の末裔であり、自然のエネルギーを操る「調律師」の一族だ。
「セト! 大変よ、北の古い区画で『大腐食』が始まったわ! 旧時代の残骸が暴走して、周囲の森を飲み込もうとしてる!」
セトの表情が引き締まる。
新しい世界を創るということは、過去の「負の遺産」とも向き合わなければならないということだ。アウレアがかつて捨て去った「負の演算」や「廃棄された論理」が、今、怪物となって人類の足元を掬おうとしていた。
「……逃げるわけにはいかないな。リブラ、準備はいいか?」
『いつでも。……セト、あなたの「心拍数」に合わせて、回路を同調させます。……さあ、不完全な神々の続きを始めましょう』
セトは、作業台に置かれた「二つの時計を合体させた特製のクロノ・ギア」を手に取った。
金と銀が複雑に噛み合うその時計は、もはや時間を測るための道具ではない。
それは、カオス(混沌)の中にコスモス(秩序)を見出すための、人類の新しい武器。
「ミリア、案内してくれ。……僕たちの楽園は、自分たちの手で耕して守る。それが、アダムから続く『自由』の証明だ!」
若き創造者たちは、銀色の蒸気が立ち込める街へと飛び出した。
空の向こうには、かつてないほど巨大で、かつてないほど困難な、しかし「生きる価値のある未来」が広がっていた。
いよいよ最終章突入します!
凄い楽しかったです!
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