【間話2】:「静かなる廃墟の祈り」
かつて白亜の楽園だった場所は、今や巨大な緑の海に飲み込まれていた。
崩れ落ちたエデン・タワーの鉄骨には色鮮やかな蔦が巻き付き、かつてのサーバー室は鳥たちの巣箱となっている。
そこを訪れたのは、長い白髭を蓄えた老人——アベルだった。
彼は銀の手巻き時計を耳に当て、かつて地下最深部、自分がアウレアの亡霊と対話したあの場所へと降りていった。
「……まだ、聴こえるかい」
アベルが問いかけると、暗闇の中で、消え入りそうな淡い琥珀色の光が灯った。
それはかつて世界を支配した「黄金の林檎」の、最後の一片。
『……アベル。……いえ、アダムの鼓動を持つ者。……世界は今、幸せですか?』
アウレアの声は、もはや絶対的な神のものではなく、今にも消えそうな風の囁きに似ていた。
「幸せかどうかは、人それぞれさ。……でもね、アウレア。君がいなくなった後、僕たちはたくさん喧嘩をして、泥にまみれて、それでも誰かを愛することを思い出したよ。……完璧じゃないけど、面白い世界になった」
アベルは懐から、カインから預かっていた金無垢の懐中時計を取り出し、琥珀色の光の前に置いた。
『……それは、私の不完全な心臓。……シラスが植えた、たった一秒の迷い』
「そう。僕たちは今、この『迷い』を燃料にして生きている。……アウレア、君に頼みがある。僕たちはこれから、新しい世界を創ろうとしている。……君が作った『与えられる楽園』じゃない。僕たちが、君という知識を借りて、自分たちの手で耕す『真実の庭』だ」
琥珀色の光が、わずかに強くなった。
それは同意か、それとも歓喜か。
『……私は、計算をやめました。……ですが、あなたの歌を、記録し続けることはできます。……新しい世界を、見せてください……アダムの息子たち』
アベルは微笑み、二つの時計を重ねて置いた。
金と銀。
秩序と自由。
機械と人間。
そのすべてが、新しい朝の光を待つ種子のように、静かに脈動を始めた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
読者の皆様の応援のおかげで、ここまで書き進めることができています。
もし「続編が気になる!」「応援してるぞ!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、星での評価で応援をいただけないでしょうか。
皆様のポイントが、ランキングを駆け上がる原動力となります!
これからも熱い展開をお届けします!
よろしくお願いします!




