第8話:鋼鉄の涙
金無垢の時計と、銀の時計。二つの振動が重なった瞬間、空間が震えた。
「……ぐ、あああああッ!」
カインの絶叫とともに、スチーム・アーマーの排気孔から真っ赤な火花が噴き出す。アウレアの冷徹な青い光と、時計が放つ人間臭い「ズレ」が、カインの肉体を戦場にして激突していた。
チッ、カチッ、チチッ——!!
二つの時計が奏でる不協和音は、やがて巨大な「ノイズの嵐」となり、アーマーに侵入していた電子の亡霊を強引に引き剥がした。
バチンッ! と凄まじい放電音が響き、門の周囲を覆っていたアウレアの干渉波が霧散する。
沈黙。
重厚な鉄の装甲が、ガタガタと音を立てて崩れ落ちた。
中から現れたカインは、全身から蒸気を立ち昇らせ、膝をついていた。彼の頬を、アーマーの冷却水……いや、本物の涙が伝い、煤に汚れきった地面に落ちる。
「……負け、だな。アベル」
カインの声は、かつての威圧感を失い、ただの一人の兄としての響きを持っていた。
「俺は、父さんの壊した『管理』を、別の形で作り直していただけだった。……俺がこの手で巻いていたのは、街のゼンマイじゃなく、俺自身の『傲慢』という名のバネだったんだ」
暴徒として集まっていた市民たちも、武器を落とし、静まり返っていた。彼らが見たのは、無敵の統治者ではなく、自分たちと同じように傷つき、迷い、涙を流す「一人の人間」としてのカインの姿だった。
「兄さん。……時計は、止まったらまた巻けばいいんだ。それは恥ずかしいことじゃない」
アベルがそっと手を差し伸べる。
鉄の掟で固められた街に、初めて「許し」という名の、レシピにない温かい空気が流れ込んだ瞬間だった。
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