第4話:歯車の反乱
アイアン・タウンの地下深く、「下層蒸気区」。そこは街の華やかな蒸気灯の光が届かない、最も過酷な労働区画だ。
カインが掲げる「鉄の掟」は、街に繁栄をもたらしたが、同時に人々の心に「疲弊」という名の澱を溜めていた。
「……いつまで、この煤の中で這いつくばっていればいいんだ?」
薄暗い酒場の隅で、一人の男が呟いた。彼の腕には、過酷な労働で負った火傷の痕が生々しく残っている。
彼の前には、アウレアが支配していた時代の遺物である「エデン・アイ」の残骸が置かれていた。それは本来、カインによって厳重に廃棄が命じられているはずの禁制品だ。
「カイン様は『自立』と言われるが、それはただの『苦行』じゃないのか? アウレアがいた頃は、こんな火傷を負うことも、明日のパンを心配することもなかった……」
その男の背後から、フードを深く被った謎の人物が近づき、そっとエデン・アイに手を触れた。
すると、死んでいたはずのデバイスが、不気味な淡い青色に一瞬だけ発光した。
「……そう。あなたたちは、救われる権利がある」
その夜、中央発電所のメイン・ギヤ(大歯車)に、何者かが鉄の棒を投げ込んだ。
ガガガガッ! という凄まじい破壊音とともに、街の鼓動が止まる。
「反乱だと?」
カインは、緊急停止したボイラーの轟音の中で、拳を握りしめた。
目の前には、仕事を放棄し、かつての前時代の記号——「黄金の林檎」の紋章を掲げた労働者たちが立ち塞がっていた。
「リーダー! 私たちはもう、自分の足で歩くのに疲れました! 楽園を、あの完璧な管理を返せ!」
カインは懐の金無垢の時計を取り出し、その音を聴いた。
チッチッチッ……。
その規則的な音は、今の彼には、泣き叫ぶ民衆の声に抗う「冷徹なメトロノーム」のように感じられた。
「……馬鹿者が。お前たちが求めているのは『幸福』じゃない、ただの『家畜の安楽』だ」
カインのスチーム・アーマーが、激しい排熱を上げる。
彼は勢いよく胸ぐらを掴み上げたが、その男の瞳には、かつてのアダムが最も恐れた「虚無」が宿っていた。
力による支配。その限界が、カインの目の前に突きつけられていた。
更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!
「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




