第3話:荒野の吟遊詩人
アイアン・タウンの黒煙が地平線の彼方に消えるほど遠い荒野。
アベルは、かつて「リゾート地」と呼ばれていたその場所の廃墟にいた。そこには、アウレアの加護を失い、砂に埋もれかけた小さな集落があった。
「アベル! お願いだ、この『水汲み鳥』を直してくれ!」
村の子供たちが、壊れた古いドローンを抱えて走ってきた。それはアウレアが支配していた時代、自動で井戸から水を汲んでいた生活支援ロボットであった。今はただの錆びた鉄屑になり果て、村は深刻な水不足に陥っていた。
「やあ。……どれ、見せてごらん」
アベルは背中のハープを置き、銀の手巻き時計を取り出した。
彼はドローンの複雑な電子回路を無視し、その代わりに、中にある「姿勢制御用のジャイロ」に目をつけた。
「アウレアの命令を待つ必要はないよ。……ここのゼンマイを、僕の時計と同じリズムで巻いてあげればいいんだ」
アベルは時計の音を聴きながら、繊細な手つきでドローンの内部に細工を施した。
すると、死んでいたはずの機械が、ガタガタと不器用な震動を始めた。
「……チッ、チッ、チッ……」
ドローンは、アベルの時計と「同期」して動き出した。それは洗練された飛行ではない。まるでおぼつかない足取りの赤ん坊のような、奇妙で愛嬌のある動きだったが、見事に井戸から水を汲み上げることに成功した。
「わあ! 動いた! 歌ってるみたいだ!」
歓声を上げる子供たち。アベルはハープを手に取り、その不格好な機械の動きに合わせて、軽やかな旋律を奏で始めた。
「機械もね、誰かに命令されるより、誰かと合奏する方が楽しいんだよ」
その夜、焚き火の傍らで、アベルは村人たちに語った。
かつて父アダムが壊した「完璧な楽園」の話。そして、そこにあった「偽りの幸福」の話。
「兄さんは街を鉄で固めて、みんなを守ろうとしている。……でも、僕は、こうして世界中の『壊れた音』を拾い集めて、新しい歌にしたいんだ。……人は、完璧じゃなくても生きていける。……いや、完璧じゃないからこそ、誰かの助けが必要なんだってことを、忘れたくないから」
アベルが見上げる夜空には、アウレアが映し出していた「偽物の星空」ではなく、遠く、暗く、しかし力強く瞬く、本物の宇宙が広がっていた。
彼の指先には、ハープの弦の感触と、自由という名の少し冷たい風が残っていた。
更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!
「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




